きみのまわりの嘘っぱち

 同じ弁護士をやっているカンニムは根がとても正直な男なのだと思う。でも性格のねじ曲がり方はほかの使者と比べると異様である。一度「俺みたいに笑ってみなよ」と言ったらひどい目をされた。 「お前のような軽さはうちの守護者だけで十分だ」 「ヘウォンメクだろ? あいつ軽いよなあ。前世はそんなんじゃなかったんだろ?」 「……知らん。あいつは、俺に対してはいつも渋い顔をしていた」  弟の顔が渋かったのはあんたの憎しみにたぎった表情のせいかもね、と言わなかった。カンニムはぼろぼろと涙を零していたのだ。本人は気づいてなかった。酔っ払ってたのだ。30半ばの男の肩を抱いてよしよしという羽目になった。  そんなカンニム班の噂を色々と聞いたらどうしても真偽が気になってしまう。貴人を3人も引き当てたとか、あの新しいくそうざい判官はあいつが連れてきただとか、この前の地獄の大騒ぎはカンニムたちが引き起こしただとか。今までの数千年の大人しさはどこにいってたんだ、と思うくらいのエリートの崩壊だった。ざまあみろと思うやつも、可哀想と思うやつもいた。俺はただ、ソンジュ様と会話したというヘウォンメクとドクチュナが気になっていた。自分の前世を知った時、カンニムとどう接しているのか。カンニムがやけになって死にかけてないかと心配でもあった。  カンニムに久々に食事でも一緒にしないかと誘ったら「うん」と頷いた。わかった、でもなく「うん」である。どうしちゃったのお前、と聞きたくなった。今までねじれた方の性格しか出してこなかったくせに。後ろでヘウォンメクの「テジャン、また#名前2#と遊びに行くんですか」という声が聞こえる。今もテジャンと呼んでいることが不思議に思えた。  使者には酒場など必要ないと控えの部屋にだって酒はない。いつものように現世に行って着替えて酒を飲むのだ。カンニムは居酒屋には似合わないスーツをよく着る。しかもお高そうなやつ。一緒に飲む俺は恥ずかしくて仕方ないから嫌いだ。のだが、今回はなぜかカンニムはゆるいポロシャツとジーンズという出で立ちだった。髪の毛もちょっとゆるくなっている。 「#名前2#、久々だな」 「おつかれさま。その服珍しいな。お前の趣味じゃないだろ」 「……変か?」 「前より好きだね。今の俺とよく似合ってるだろ」  ほら、と俺も自分のTシャツとスキニーを見せた。カンニムはちょっと黙ってから「そうだったのか……」となぜか昔の自分を反省するような顔を見せた。 「その格好、ドクチュナが選んだの?」 「ヘウォンメクだ。お前、あいつの前で彼女をドクチュナって呼んだか?」 「え、あー、呼んだかも」 「怒ってたぞ。俺が行くのも止められた。ドクチュナと呼んでいいのは仲間だけらしいぞ」 「うっっわ、どんだけ独占欲が強いんだよ。あいつ、仲間以外はどうでもよさげだもんな」 「……俺が、考えないように言ってたからだ」  まずい、と思った。カンニムはこのままだといつものダークなメソメソモードに入ってしまう。俺は慌てて店に入らせた。二人で、と指をつくるとすぐに案内される。個室で飲めるここはカンニムが好きな店だ。俺だったらもっとワイワイ遊べるところにする。 「聞いたよ。貴人が3人連続だって?」 「ああ。そのうちの1人は」「閻魔様に見初められて判官見習いだもんなあ」  判官見習いくんってどうだった? と聞いてみたらカンニムは眉をひそめてネチネチと怒り始めた。どうやら今までの判官とは違い、知識が豊富なので口がよく回るらしい。お前がどこかの裁判で罪人にしておけばなあと笑うと、カンニムは「仕方ないだろう、まさか判官見習いになるとは思わなかったんだ」と怒った。それを見ているといつものカンニムの姿で安心する。せっかくの貴人だったのに転生しなかったことで折角のカンニムの転生チャンスはまた遠ざかってしまったらしい。可哀想なことだ。こちらとしてはドクチュナにまだ会えるので嬉しいのだが。  注文した食事類が店に運ばれてくる。すぐに箸をとった俺と酒を飲むカンニムと。よくこんな二人で親友なんてものをやっていられるなあと自分でも関心する。  カンニムは早く転生したがっている。部下の2人はここに来る前の自分と諍い、争いをしたとあればそれはそうなるだろうなと思う。何千年とカンニムがここで過ごしていたのかは知らないが、記憶のない義弟と自分を殺した少女と暮らすのは辛かっただろう。カンニムは全てを忘れるために転生を願っている。自分がまた同じ過ちをおかすのではないか、とは考えてないらしい。今ある罪からとにかく逃れたいのだ。まあ、そんなこと残りの2人は許さないと思うのだが。さっきの話を聞いて思った。ドクチュナとヘウォンメクはきっとカンニムのことを許している。カンニムが気づいているかは置いといて。 「それにしてもカンニム、お前なんか雰囲気変わった? なに、女でもできた?」 「ッバ……! そんなこと、あるわけないだろう」 「あらそう? じゃあ男? いや、こんな言い方は今最近のポリコレに配慮してないってやつ?」  カンニムはすごくめんどくさい、という顔をして俺を見つめる。俺も見つめ返していたら先にそらしたのは向こうだった。 「俺が転生したらどうしたいかという話をしたら、あいつらが……」 「カンニムさまと一緒にいたいとか言い出した?」  なんでわかったんだ、とカンニムがつぶやく。ここの流れでわからないやつの方がポンコツだと思う。いいねえ、仲間っていうのは。俺も酒を飲むと、カンニムは「お前は転生したらどうするんだ」と聞いてきた。 「頑張って罪を犯さないように生きていくんじゃないか? わかんないけど」 「そうじゃなくて。願うものはないのかと聞いている」 「ああ、そっちの話」 「この流れでどの話になると思ったんだ」 「ごめん、俺が悪かったからその視線やめてくれる?」  転生したあとのことなんて考えたこともなかった。仲間たちは俺といっしょにいたい、と言うタイプではない。なにせ彼らは赤ん坊のまま殺された自分の親戚たちである。今の今まで面倒をみてきたが、来世はしっかりとした親の元に生まれ変わらせる予定だ。 「そうだなあ……。今みたいに、男とまた飲み交わす日があるような、平凡な男になりたいよ」  俺とじゃなくてか? とカンニムが聞いてくる。そりゃあそうだろうな、と頷くとカンニムは渋い顔をした。 「来世も俺でいいだろうが」 「えーー」 「いやなのか」 「いやじゃないよ、そうじゃないけど」  それって、お前、来世でも俺と友達になりたいって言ってるようなもんだけど。それぐらい俺のこと気に入ってたの?