呪いと名のつくすべて洗って

 同い年。同じ寮で同じクラス。だけど、彼と話したことはほぼない。そんな微妙な関係性のクラスメートというか寮の仲間というべき。ルーク・ハントについてその日は盛り上がっていた。彼の生き様はなんと表現すれば良いのか。  ルークは自らを狩人と名乗った。その日から彼のあだ名はハンターである。本人も俺たちに謎の呼び名をつけてくるのであいこだと思う。狩人と名乗るだけあって、彼は狙った獲物にはとことんしつこい性格をしていた。ここにいるメンバーは彼の獲物として認定されるほどの力はない。毎回蚊帳の外でわいわい言う適当なキャラである。  ただ、1度だけルークがターゲットを変える瞬間を見たことがあるやつがいた。同じポムフィオーレ寮で、後輩には学生で同性婚をしたという2人組がいた。ザルクとシュヌーレというコイツらは入学して早々にルークがターゲットにしていた。同性愛者を嫌悪する意図があったのかどうか俺はよく知らない。ただ、その「ハントの終わり」を見た友人曰く、おもちゃが壊れた時のようなほしくないプレゼントを受け取った時のような子どもの顔をしていたと言っていた。俺はそれを聞いた時にこの男に恋愛は向かないだろうな、と思った。なにせ、捕った獲物を彼らは消費してしまうらしいのだ。きっと捕まった恋人もそういう扱いになるのだろう、と漠然とそう思っていた。友人が言っていた通り、その後でザルクとシュヌーレの2人組にルークがちょっかいをかけている所は見なかった。  それを知った別の友人から「賭けをしようぜ」と持ちかけられた。ちょうど5人いるから、どうせ勝ち負けが必ず着くことになる、と。そう言われての賭けだった。賭けの内容は「ルーク・ハントの恋人について」だった。  ルーク・ハントにもし、恋人ができたならば俺は賭けに負けたことになる。だから彼が幽霊に対してプロポーズをしたと聞いた時には驚き笑ってしまったのだった。幽霊だって真実の愛を見つけて結婚式をあげていったのは噂になっていた。彼はフラれたらしい。 「ハンター様がプロポーズかあ。うわー、想像つかねえ」 「エイゾルは婚約者にプロポーズしたの?」 「したよ」 「えっっ、どんな風に!!?」 「そんなの言えるわけないだろ」 「つまんねーって思ったけどそりゃあ言いたくはないわな。プライベートは大事だ」 「そう? 俺は人のプロポーズ聞くの好きだけど。毎回泣かせに来るじゃん」 「生憎と俺は感動させるプロポーズなんかしてないよ」 「どうだかな、エイゾルはなんだかんだロマンチストだから」 「そう言うなら、俺の代わりに#名前2#がプロポーズについて語れよ。昔、俺のいちばんかっこいいプロポーズの話してただろ」  「やめろ! あれは黒歴史だ!!!」 「えっ、なにそれ聞いたことない」 「めちゃくちゃ笑えたぞあれ」  エイゾルの口を塞ごうとしても逃げられる。あれは、まだ若い時の話である。といっても、今でもそのプロポーズで使いたい言葉は大切にしていてあながちエイゾルの言う「かっこいいプロポーズ」は間違いでもなかった。話が脱線して恋人や婚約者の可否について話が飛んでしまい、#名前2#には好きな人もいねえくせに!!と叫ばれたので「いるわ!!」と大声で返してしまった。 「いるんだ」  エイゾルだけはビックリした顔をしていなかった。  その日の夜、誰かが俺の部屋をどんどんと叩いてきた。隣のヤツは神経質っぽくてうるさいのだ。俺の寝相が悪くて壁を蹴った時に酷く怒られた。その時のことは今でも覚えていて、慌ててドアを開くと誰かがするりと中に入って俺の布団にダイブしてきた。 「えっはっ、ルーク!? どうしたんだよ、急に」 「ずるい」 「は?」 「ずるいよ、なんでグラーリンだけ君のプロポーズの言葉なんて知ってるんだい? 僕だって知りたいのに」 「いや、そんなこと言われても……」 「僕は君の恋人になりたいって言ったのを忘れたとはいわせないよ!? 僕の恋心を踏みにじるなんて……君が#名前2#じゃなかったら今すぐ撃ち殺してやるところなのに」  過激すぎる。俺が俺でよかった。ルークはこうなったら泣いてやる!と怒ってひっどい泣き真似をしてきた。駄々をこねる2歳児に見えなくもない。俺はこんな大きな2歳児ごめんだ。 「いや、だって、普通に考えてさ。プロポーズってサプライズじゃん。好きなやつに教えてたらおかしいだろ」  ルークはぽかんとしていたが意味がわかったら「なんだ」とあっけらかんとした顔になった。ほんのちょっとだけ「泣いてるのか?」と心配した自分の気持ちも吹き飛んだ。 「そういうことなら早く言ってくれよ」 「早く言う意味が分からないんだが」 「夜中に来て損した気分だ。今日はここで寝る」 「寝るな。部屋に戻れ。俺のベットだ」  「スリープスリープ」 「GO TO YOUR BED!!!」  さてさて。蚊帳の外でワイワイしている俺はなぜかある時にルーク・ハントという男に恋をされた。人は「人と出会った時」か「人を失った時」に世界が変わるらしい。ルーク・ハントと俺にはどちらもそぐわない。彼は狩人として獲物を消費することに変わりはなかった。 「君のことが好きなんだ」  まるで自信たっぷりなバルガス先生のように、自分のいちばん美しい姿をさらけ出す告白を想定していた。しかし、ルーク・ハントはそんな俺の予想を裏切った。図書室で座っていた俺の向かいの席に座り突然「君が好きだと思った」と言い出した。あの時の俺の驚いた顔とルーク・ハントの驚いた顔はよく似ていたことだろう。言われると思っていなかった男と、言うと思っていなかった男の顔である。 「だからってどうすんだよ」  俺のこの返事はおそらく世界でランキング入りするほどに最低の告白の返事だと思う。自分でもそう思う。ルークは笑いながら「ごめんね」と返した。お前の恋心を否定したかったわけじゃない、と返そうとしたらそれよりも先に笑顔のルークが口を開いた。 「#名前2#のことは好きだけどセックスしたいわけじゃないから」  ルーク・ハントというのはどうしてこうも、謎の発言ばかりするのか。よく分からないままに俺たちは図書室から追い出された。  ルーク・ハントの恋心はよく分からない。ただ、俺もむやみに消費されてほっぽり出されるのは不本意であり自分の人生に劣悪な影響を及ぼされるのではないかと心配している。結局俺たちは恋人じゃないのにお互いの恋人を心配するという不思議な関係になってしまった。獲物でもなく、恋人でもなく、友達でもない。不思議な関係なのにルークはなぜか俺を手放さない。 「#名前2#、君の布団の匂いは……」 「いい匂いとか言い出すのか?」 「いや。祖母の家に行った時と同じ匂いだなあと思って」 「お前ってムードとか全く気にしないのな………」  ただ、こうやって笑い合う関係は居心地が良い。俺の知らないところで相当に泣いたのかちょっとだけ赤くなった眦をみて「自分のことで泣いてたらいいんだけどな」と、そんなことを思った。