どうせなら命もください

 タバコの煙が顔にかかった。私はかけてきた相手を見て思わず吹きそうになった口笛を心の中に押し込める。ピンポイントで探していた相手がまさか相手から来てくるとは。 「やあ」 「どうも」  柔らかな笑を浮かべているこの人がテロリストの中核を担っているだなんて世の中の女性は思うまい。いや、彼はゲイだと言うし世の中にいる彼を恋しく思う人たちはもしかしたらテロリストとかそんなことどうでもいいのかもしれない。 「ここ、座っても?」 「どうぞ」 「お客様は何になさいますか?」 「マティーニを」  いつもなら着ないオーダーメイドで仕立てたタキシードでさえもこの男の隣に立つには何だか物足りないような気がした。釣り合わないのではなく、雰囲気に対して浮いている。もう少し抑えたもののほうが良かったかもしれない。 「1人なのかい?」 「ええ、」  伏せ目がちにカクテルを片手につまむと、ターゲットはにっこりと笑って「僕は運がいいらしいね」とまたタバコを吸った。そして煙を少しだけ私に被せて目の前に置かれたマティーニにタバコを落とした。嫌になるくらいに絵になる姿だ。そっと伸ばした手をトラウザーズに伸ばした。この行動にターゲットは喜んだように私の腰に手を回してきた。 「……君の、名前を聞いていなかったね」 「………ダザイ、と」 「ダザイ? そうか、君はチャイニーズ系の東洋人なのか」  ターゲットはにこやかに僕の名前は#名前2#だよと教えてくれた。偽名を名乗ることも出来るのに、そうしないこの人がバカみたいに愛しかった。  シャワーを浴びた体は程よく引き締まっていた。着痩せしていてわからなかったその筋肉に少しだけ嫉妬しながらベッドにしなだれ落ちた。肉厚な舌が口の中を動き回る感覚にビリビリと熱が浮かび上がってきた。  少し乾燥していてタバコの匂いがする首筋が好きだ。ターゲットでなかったら何も考えないままこの男に体を預けるのに。それが出来ない自分が嫌に感じた。何度も角度を変えながら吸い付いてくる#名前2#はまるで荒淫するかのように舌を奥に奥に押し込んできた。苦しくてつらいはずなのに体の中心には素直に熱がたまり始めていて恥ずかしい。それに気づいた#名前2#はまたにこやかに笑う。人好きする笑みで「ダザイは口の中が弱いんだね、可愛いなあ」と膝を押し当ててきた。自分でも初めての感覚に戸惑っているのに、#名前2#は容赦がなかった。  バスローブからはだけ見える私の胸の飾りに吸い付いて執拗にしゃぶってくる。固くすぼまったそこを舌先でほじくっては甘噛みしてクスクス笑う。私は生娘のように声を挙げてしまった。ねぶり、つままれ、女性のそれのように赤くぷっくらと膨らんだのを見て彼の異能は恐ろしいなと思う。彼の異能は人間のホルモンを操る。今の私は彼に女性ホルモンを多く分泌されるようになっているらしく、乳首を弄られただけで私は先走りがぽたぽたとトラウザーズを濡らす。押し込まれた膝もそれが分かっててぐりぐりと刺激を与えられた。ひゃぁん、と大袈裟にも声を上げると#名前2#は苦笑いで辛そうだね、と手を当てられた。トラウザーズの上からゆっくりと形を撫でられる。持ち上がった生地が濡れた性器にぴったりと張り付いて私の方がイヤラシイ気持ちになる。「イッてもいいんだよ、」と耳に優しく語りかけられた。耳に差し込まれた舌がちゅくちゅくと音をたてて体はびくんと弓なりに動いてしまう。いつの間にかベルトは外されて差し込まれた手が私の陰茎をしごいていた。亀頭をこねながら指が尿道をほじくるようにじゅるりと動く。 「あっ、んっ…! やぁぅ……! ん、あああああ!」  今度こそ誇張したわけでもなくただただ気持ちよさに飲み込まれて射精してしまった。#名前2#は「上手にイケたね」と笑いながらキスをしてきた。  ぐじゅぐじゅのそこは今だって女性の中にいれるものではあるけれど、目の前の男はいつもトップスだと聞いている。わざとゆっくりにトラウザーズと下着を脱いで擦り寄ると#名前2#はちゅっと私の耳にキスをして「大丈夫、ダザイはそこまでしなくてもいいんだよ」と言った。 「……、」 「狙いのデータならそこのカバンの中に書類として入っている。僕はゲイでない人とセックスはしない主義でね。君がイッたらそれでエンドだ」 私は確かにターゲットの書類を取りに来ていたけれど。それが任務ではあるけれど。 「そしたら、貴方は…#名前2#は捕まる……」 「ああ。僕らはそれだけのことをしてしまったから仕方ないさ」  刑を受けることが僕らの末路さ。と#名前2#は美しく笑った。私にはそれが許せなかった。誰かに流されて本当に身をゆだねたのなんてこれが初めてなのに。  この男は私を置いてどこかに行こうとしている。  ならば。 ーー私を抱いてください。そしたら、送り出せます。  まさかそんなことを言われると思わなかった。僕はもしかしたらここで彼に殺されるかもしれない、とまで思っていたのに。  僕の主義はゲイでないセクシャリティの人は抱かないというものなのだがダザイは僕を無理矢理にでも説得してきたので僕は死ぬ前にその主義をたった1度破ることにした。どうせテロリストたちは楽園には行けない。僕らのようなゲイセクシャルは生きてる間も幸せになれず死後だってなれないのだろうから。たった1度自分の幸せのために動いたって構わないだろう。  差し込んだ指をばらばらに動かしながら後孔を広げるとダザイは「お願い、もう挿れて」と泣き出しそうな顔で伝えてきた。 「今いれたら痛いだろう」 「痛くていいんです。あなたを忘れたくない」  僕にはまだ断るという選択肢があったのにダザイの中に自身を突いたのは僕が彼に惹かれるところがあったからだろう。引き摺られそうな程に強く絡みつくナカは僕もダザイも痛めつけて、快感など感じられなかった。女性とはちがう異色の感触にダザイの引き攣る叫び声。これは確かに忘れるなど出来なさそうだ。私の魂にまで響かされたようなほどだ。  かくして私は任務を終わらせた。テロによる被害者を一人も出さずに終わらせたのは森さんにも驚かせたらしく、「君の欲しいものを送っておいてあげたよ」と言った。彼だ、と感覚的に分かった。森さんにマフィアでは指導されていたというのにその時の私は#名前2#に会えたことにより堕落していたのかもしれない。  隠れ家へ帰って出会ったのは見るも無残に撃ち殺された#名前2#の死体だった。顔をまるで蜂の巣にするために撃たれたようなそんな死体だった。 「あ、ああああ……。ああ! ああ、ああああ!!」  私は叫ぶことしか出来ずに玄関も閉めずに泣いていた。そして、ノックを聞いた。きっかり3回。泣き崩れた私は出ることすらも億劫で無視を決め込んだ。  ガチャリとゆっくりと扉は開けられた。扉の向こうにいたその人は自分の死体を見て「ああ、やっぱり顔を潰してもらえてよかった。騙しやすいな」という。  私がおそるおそる振り向いたその先にいたのは。