世界観をみつける

!Twitterで呟いてたものから少し修正済 !BLに巻き込まれる女たち !現代転生パロあります 【ニーチェの女】  あの男が口を開けば自慢話とレイという男の話。わたしが新しいレースの帽子を被っていても気づきもしない。お父様がわざわざ買い付けたものはわたしの美しい肌によく似合っていた。 ――ねえ、わたし、どこか変わったと思わない? としなを作って見せても彼は何も変わらぬ表情で「君は美しいよ」と笑うばかり。なによ、その顔は。わたしのことを馬鹿にしている……。わたしはわざと持っていた帽子に手を伸ばす。彼はようやく気づいたのか「新しいね」と笑った。それだけの言葉しか与えないくせに、彼はわたしの周りの女性からも大層モテていた。  彼は楽しそうに紅茶を飲みニーチェの本を読んでいる。わたしも手元の本に視線をうつした。外の国の言葉は、わたしが自分の家を守るために覚えさせられた言葉だった。男に愛される女であるためにはそんな知識は必要ないという人もいる。だが、目の前の男を見ていると知識を血肉として身につけることは悪いことではないように思えた。彼は自分のことを「超人」と言うくせに、わたしの父親に嫌われないように必死だった。情けない男。インテリなのもハンサムであることも認める。でもそれだけの男。わたしは、こんな男を婿には迎えない。  彼が口を開けば自分、自分、自分、自分! 自分の強さをより世間に知らしめたいと思ってる。レイはその中で唯一たまに聞く名前。いつも人を馬鹿にしている男が唯一名前を呼ぶ。わたしのことをいつまでたっても「お嬢さん」と呼ぶくせに。 「ねえ、わたし、そのレイさんに会ってみたいんです」  可愛らしくおねだりすると彼の表情は固まった。つまらない男ですよ、と表情を落とした顔で言う。知っている。あなたが何度も言っていたことだから。 「でも、わたしのお友達はあなたにご紹介したでしょう?」  彼は少しだけ止まったあと「わかりました」と頷いた。彼はその後、うちに来ることはなかった。彼が捕まった、と聞いたのは父からだった。あんな男だとは思わなかった、と言うがわたしはむしろ納得さえしていた。共犯者という男の名前を新聞で見て、わたしはそれがレイであることを確信した。友情のための殺し。情けなく、最悪の男たちだった。 【執着/祝着】  わたしの兄は日本人らしくない端正な顔をしていると思う。彼はその顔を活かしてモデルのような活動をしている。わたしはファッション関係にはうといが、それなりに仕事をしているのだと本人から聞かされている。  その日もまた、いつものように兄の自慢話を聞くはずだった。 「……ねえ、お兄ちゃん」 「なんだ?」 「人とか殺してないよね?」  ぶふっっと口をとんがらせて兄は笑った。何言ってんだよお前!! と肩を叩かれる。年齢差を考えてわたしの肩を叩いてほしい。ただ、その叩く衝撃の中にいつもと違うものが加わっていた。昔、両親が喧嘩している頃にふたりで覚えたもの。helpの暗号。 「殺してないよ、当たり前だろ」  兄は見えないフリをしているようだった。そりゃあそうだろう。血まみれのスーツを着た男が自分じゃない誰かの名前を呼び続けているのだから。もう離さない、と言う幽霊は兄の心臓の上にずっと手を当てていた。 【息子】  わたしの息子を殺した男は「スリルを感じたかった」と、そう、証言したらしい。わたしの息子を返して。そう泣き叫んでも、彼らには届くことはなかった。顔が潰れてしまったわたしの息子。怖かったろうに。あの男たちは反省すらしていない。死ねばよかったのに! あの男たちが死ねば!!! 「………なに、この日記」  久々に家の物置を整理したら、変なものを見つけた。うちの家の誰かが殺されたらしい。スマホを取り出して日付と事件のキーワードを検索したらすぐに出てきた。同性愛者たちの事件だそうだ。検索結果にはブログやWikipedia、Twitterのツイートまで含まれていた。ある人のツイートには「この2人が可哀想!」と書かれていた。可哀想? 愛のためにひとりの子どもを殺して隠蔽までしたこの2人が? きもちわるい。ブロックしておいた。 ・男主のみ ・メイン2人との恋愛要素なし ・成河私のイメージが近いかも 【兄とニーチェ】  ニーチェを読まなきゃ!!! 悲痛な叫び声を上げて家に戻った兄を見て「ああ、また発作が起きた」と思った。 「兄さん」 「ああ、ニーチェ! 哲学なんて、彼は興味なかったはずなのに……。どうして? なぜそんなものに触れる?」 「兄さん、うるさい!」  ひゅっと兄が黙り込んだ。睨みつけると兄はおどおどしたように「ごめん……」と自分の部屋に向かった。兄は発作を起こす。大好きな「彼」の世界に自分がいないことが怖くてたまらないのだ。自分は、その人に世界を捧げているから……。  兄はもう随分とわたしの顔を見ていない。わたしの名前を呼ぶこともない。わたしたち家族からも「彼」のことを隠している兄。弟であるわたしの名前を呼ぶこともないのに、哲学者の名前は軽率に叫び悲鳴をあげる兄。もしかしたら、兄の世界に家族という枠はもうなくなっているのかもしれない。それは構わない。兄はそういう人だと知っている。ただ、帰る家として認識しているのだからまだマシだろう。  そう、勘違いしていた。兄が殺人を犯した理由を聞いて、わたしは自分が間違っていたことをようやく悟った。兄の人生には家族などきっと見る影もなくなっていたのだ。兄の世界には「彼」しか一緒に道を歩く人がいなかったのだ。  わたしたち、残された家族が「殺人犯の家族」とみなされることさえもどうでもよかったのだ。  家にペンキで大きく描かれた罵詈雑言を見ながらわたしは家に入った。わたしには、ここしかないのだ。 【やさしい男】  やさしい男だと思った。友達だと思っていた。 「おい、レイ」 「な、なに! どうしたの? 珍しいね、君からこっちの方に来るなんて!」 「その男、誰だ」  白いスーツが似合う男だった。きっと貴族かなにかなのだろう。堂々としすぎた立ち振る舞いは神様のように周りの人間が頭を下げることを当たり前としているものだった。そんな神様のような貴族はおれのことを睨んでいた。 「あ、ああ……。たまたまとってる講義が同じ人だよ。知り合いだ」  知り合い。しりあい。あの男にとってはおれは、友人ではないらしい。おれがショックを受けているのを目敏く悟ったのか、白スーツはにんまりと口を曲げた。人を見下す視線だった。 「おい、時間があるなら一緒にカフェでも行くか」 「い、いいの!? 行くよ、いく! ねえ、これ頼んでもいいかな!」  そう言っておれの返事も聞かずに彼は教授から運ぶように言われていた本を追加してきた。重い、と慌てて姿勢を正すおれを白スーツはそっと支えた。 「大丈夫ですか? レイがすみませんね」  いえ、とかすれた声で言うおれに白スーツはにっこりと微笑んだ。やさしいと思っていたあの男にひどい目つきで睨まれていることがとても怖かった。自分は、何に巻き込まれたのだ? 全くわからなかった。