You Loved me?
女主・恋愛要素微妙にある・残酷描写なし 冷たい雨がわたしの体をうちつける。姉が、殺された。とある女に。泣き崩れたわたしを見て女の秘書という人が「まことに申し訳ありませんでした」と言った。わたしは絶対にこの女の謝罪を受け付けないと決めた。謝罪のための金が入ってきても絶対にそれを受け取らないようにしていた。わざわざ別の口座を作った。彼女はわたしの口座をすぐに探し当ててまたお金を入れる。わたしは面倒になって彼女のお金を引き落としては捨てるようにした。あんなお金、寄付される方も可哀想だ。 それを繰り返していたら大家さんに「あなた、偽金を作ってるんじゃないかって噂になってるわよ」と言われた。 「偽金じゃないですよ」 「そうは言ってもね……」 「嫌だったらすみません。シュレッダーにかけます」 「あ、あの、あのね! シュレッダーにかけるくらいだったら……」 「この建物のリフォームでもやりますか?」 わたしの冗談みたいな言葉に大家さんは苦笑いで頷いた。後日、新しく入っていたお金を大家さんのもとに持っていくと「さっきアドラーさんという人がね」と話を始めたのでお金だけ置いて部屋をでてきた。ポストにはカードが入っていた。見ないままわたしはそれを燃やして捨てた。 姉のことはあまり好きではなかった。美人で、人望もあり、頭もよく、運動もよくできた。彼女はどうしてあんなにパーフェクトだったのか、わたしには分からない。彼女なりに思うことがあったとは思う。彼女は勉強もよくしていた。親は家にあまりいなかったので姉が頑張るしかなかったのだろう。あえてワガママを言うわたしを姉はよく宥めすかした。姉のいい子なフリが嫌いだった。 「いい#名前2#。わたしの言うことをよく聞いてね」 「……お姉ちゃんの言葉なんか聞きたくない」 「だめよ。聞いておかないと、夜に襲ってくるかもよ」 姉はよくわたしに怖い話を聞かせた。わたしの言うことを聞かないと、どうなるか知らないよ。姉の口癖だった。そんな姉がSMプレイにハマるなんて思わなかった。マゾヒストが怖いわけではない。あの完璧な姉がセックスの最中に死ぬことが怖かった。セックスに対して理想を持っていた気がする。その理想が全て壊されてしまったようだった。 家にいてもすることがないと思った時には、外に出るようにしている。知らない人の家には素敵なバラが咲いていた。 「お花が好き?」 「……あ、すみません。あの、見てただけで。取ろうなんて思ってないです」 「いいの、わかってるから。お花は、お好き?」 家主はどうあってもわたしの返事を聞きたいらしかった。見るのはすき、と答えた。植物について専門知識があるわけでも育てているわけでもない。今は水に入れておけばいいと言われたチューリップを育てていた。姉から昔に教わり、今でも毎年育てている。わたしの大切な家族だ。 「中へどうぞ」 「……いえ、別に」 家主は窓からクッキーを見せた。作りすぎちゃったの。彼女は料理しなさそうなマニキュアを塗った爪を見せてそう言った。食べたくない。そう思ったがさすがにそれは礼儀に欠く気がした。 中に入るとシックな家具でそろえていた。あの女の雰囲気には似合わない。旦那の趣味だろうか? 中に入るとやけに綺麗すぎて怖いくらいだった。家の中には観葉植物があったが、インテリアコーディネーターにやってもらったのか? と思うくらいに整えられていた。 リビングに入ると彼女はクッキーをお皿に用意して待っていた。手は真っ赤なマニキュアをしている。紅茶とコーヒーどちらがいいかしら? わたしはアイスティーの方が好きだ。心の中で文句を言いながらテーブルに着いた。紅茶でお願いします。わたしの言葉に彼女はにっこり笑った。 「そういうと思って用意してたの」 そうですか。返事をするわたしは寒さのせいでうまく表情が動かなかった。 「わたし、ここには来たばかりなの。前はイギリスに。とっても寒いわね、ここ」 「……そうですね」 寒いのはわかるけれど、わたしはここが嫌いではなかった。閉鎖された空間。よそ者を嫌う世界。わたしは、もしかしたら姉がよそ者とのセックスの最中に死んだことが嫌いだったのか? そうだとしたらなんて馬鹿馬鹿しい思いに囚われているのだろう。 「クッキーをどうぞ」 「ありがとうございます、いただきます」 おそるおそる食べてみるとクッキーは美味しかった。紅茶も飲んでみるとほどよい甘さにされている。彼女の方を見るとまた笑った。 「わたし、人の好みを当てるのが得意なのよ」 「……そうですか」 「ええ。そうなのよ」 そのセリフは聞き覚えがあった。姉が、いつからか口にするようになっていたセリフ。くどいそれにわたしは「なにその口調」となじるように言った。姉はわたしに「恋人がよく使うのよ。彼女が使うともっと効果的なのにね」と言っていた。それが突如として思い出されたのはなぜだろう。つまり、そういう事だろうか。わたしは、あの葬式の時さえもアイリーン・アドラーという女の秘書は見たことがあるが本人の顔は見たことがなかった。この女は、アイリーン・アドラーなのだろうか。 「ねえ、このクッキー。オリガも好きだったでしょう?」 それは、わたしの姉の名前だった。