愛がわかってない人へ

!リックとフランチェスカの子ども注意 !ふんわりハリウッドの歴史 !洋画夢本に彼らの出会いとか出ます 簡単な設定たち #名前2#・#名前1# リック憧れの俳優。受賞歴はない。バウンティローにもゲストとして出ていた。 リック・ダルトン 他の映画俳優に文句を言う分映画をよく知っている。 クリフ・ブース リック以外だとアクション映画しか知らない。アクションがあるのなら色んな映画は見ている。  リック・ダルトンがアメリカに帰ってきて数年。彼の新作映画はヒッピー襲撃事件の顛末を語るものとなったらしい。ドキュメンタリーなのかい?と聞いた#名前2#に「いえいえ!」とリックは首を振る。 「俺たちがそのままの名前で映画に出てますけど、そうですね……どっちかって言うと俺の人生譚に近いのかも」 「リック・ダルトンの? 楽しみだ」  話の顛末は落ちぶれたリック・ダルトンがイタリアに行き、帰って直ぐにヒッピー襲撃事件に遭うというそれぐらいのストーリーだ。だがこの映画の注目すべき点は俳優自身が自分を演じるということにあった。勿論この話を聞いて断った俳優もいる。私怨であったり、演技経験がないからと理由をつけたり、アンチヌーヴェル・ヴァーグの者だったり色々だ。リックは「フランスの気取りやろうと一緒にするんじゃねえ!!!」と怒っていたが横で聞いていたクリフには何の話かよく分からなかったらしい。その断った面子を聞いてゲラゲラ笑っていた御大も映画の撮影はしたが尺の都合上それらはカットされてしまったのだった。  リックはそれに申し訳なさそうな顔をしていたが#名前2#はそれくらい豪華にフィルムを使う方が面白いと励ましてやった。  #名前2#は撮影日数が少ない分、色々な映画に出るようにしていた。その合間に「ワンス・アポン・ア・タイムインハリウッド」の試写に来いと言われて「タイトル変わったのか」とビックリしてしまった。昔むかし、というほど昔の話ではないような気がするがタイトルに文句は言えまい。出演してないけれど試写会には出てよいものか、と思ったのだがリック・ダルトンから電話が来て「試写が終わったら飲みませんか?」と言われてしまえば仕方ないと腰も動く。それなりに整った衣装で出てきた#名前2#をクリフとリックは笑顔で迎えた。 「監督が自由に座っていいって! #名前2#さん、どこ座りますか?」 「いや、主演の君が決めた方がいい。自分を客観的に見られる機会なんて滅多にないだろう?」  #名前2#の言葉に甘えてリックは後ろの方の席に三人分とった。#名前2#は端に座ろうとしたがリックがそれじゃダメです!とリックとクリフが挟むように#名前2#は座席を決められてしまった。ううん、これで良いんだろうか。クリフの方を見てみると彼はいつも通り気楽に座って「よーし見るかなー」と言っていた。  監督の意向で台本を提供したのはあの襲撃事件のシーンのみ。他は本当にランサー牧場のセットを使ったりしていたらしい。これは批評家たちがこぞって「ヌーヴェルヴァーグに擦り寄るハリウッド」と言い出すだろう。その光景に対して監督が不機嫌になり噛み付く予想もできる。これはリアリズムというよりも、ハリウッドに対する皮肉だとか批評だとかそういうものを描いているのだ。  始まった映画の中でリックダルトンは自分をさらけだしていた。等身大の俳優となった彼の笑顔は明るく、ぱちぱちと何かが煌めいているようだった。それに比べたクリフは役者ではないので演技がうまいとは言い難い。しかし、彼の普段通りの飄々とした会話や滲み出ている暴力性、2人でひとつの俳優とスタントマンの関係性は#名前2#には眩しく見えた。凄いなあ、と#名前2#がぽつりと漏らしたので両側からやったな、あぁ、と頷く声が聞こえた。  そして起きたヒッピー襲撃事件。もちろん彼らがこんな会話をしていたかどうかはわからない。だが彼らはリックダルトンを殺そうとして、そこに運良く(もしくは運悪く)いたクリフブースにやられてしまったのだった。  彼らを縛っていたヘイズコードはもうない。明るい音楽にのせて暴力が振るわれるのは本当に笑わせてもらった。クリフも時たま声には出さずに笑っていたがリックはあまりにも強い表現にうぅん、と渋い顔をしていた。  試写が終わったあと約束通り三人はダイナーに入った。本当はもっと格の高いところに行ってもよかったのだが#名前2#は映画を語るのにマナーなんて気にしたくないと言うのでそこになった。 「面白かったよ」  酒もまだ来ていないのに#名前2#は口火を切った。 「本当にすごく面白かった。いい気分だ、スカっとした」 「ありがとう」 「俺も慣れない演技をした甲斐があった」 「演技? お前はしてねえだろ。いつものクリフ・ブースだ」  リックが自慢げにそんなことを言うので#名前2#は笑っていた。あれを「いつもの」で済ませるのはこの男くらいだと思う。 「リックはあの襲撃事件の中身を知ってたのか? クリフはやけにはしゃいだようだったが」 「そりゃあはしゃぎましたねえ。クスリでハイになってたんで」 「話には聞いてましたし、ヘイズコードも終わりましたからね」  ふん!と鼻息荒くかっこつけてはいるものの、やはり怖かったらしくちょっとクリフを見て「やりすぎじゃねえ?」と言った。 「一緒に撮ったんじゃなかったのか?」 「別日収録でしたね。あのプールは借り物なんで」   そう言えばリックはあの家を売り払ったんだっけ。#名前2#は少しきまりが悪くなり黙ることにした。リックやクリフはあの映画のあのシーンはフィクションであるとか、本物のブルース・リーはもっと顔が怖いだとかそんなことを言い合ってはげらげらと笑っていた。リックが気楽にしているところを見るとあのクリフの行動はほとんど素でやっていたことらしい。ロバート・レッドフォードとミッキー・ギルバートのような悪友関係よりもさらに深いところに彼らはいるようだった。 「それで、2人はまだパートナーは解消してないんだろう? 人生どういうものかよく分からないな」 「今はスタントダブルっていうよりナニーですよ。シッターなんて生まれて初めてやった」  そういえばリックの妻は妊娠して子どもを出産していた。元気な女の子らしい。クリフはその赤ん坊のベビーシッターのようなこともしていると聞いて#名前2#はまたげらげらと笑ってしまった。 「子どもってのはあんなに柔けえもんかなあって」 「俺もびっくりした」 「俺よりもブランディの方が懐いてますよ」 「あの闘犬の?」 「そうっす」  そりゃあこのへんてこりんなスタントマンよりも母性を備えている雌犬の方があやすスキルは上だろう。くっくっくと喉の奥でまた笑いながら「姫は眠ってるのか?」という。 「今日はフランチェスカとブランディがいるから満足してますよ」 「ナニーは?」 「いません。いてもうちの姫は我儘でね。クリフやブランディといる方がいいって動かなくなるんです」  それを聞いてまた#名前2#は笑ってしまう。妻を殺したと思われているスタントマンがベビーシッター! 本当に、人生は何が起こるか分からない。 「……いい家族を持ったなあ、リック」  #名前2#の言葉ににっこりと笑ったリックはぱしんとクリフの肩を叩いた。 「俺の自慢の家族です」  ある夜、#名前2#のもとに電話がかかってきた。出てみるとリックが泣きべそかきながら#名前2#の名前を呼んでいた。 「どうした~」 「#名前2#さん、俺っていつもあんなんですかね!!?!?!」 「?????」  言ってる意味が分からずリチャード?と本名を出してしまった。リックはごとん、と音をさせたあと「はい」とか細い声を出した。 「大丈夫か?」 「はい……」  リックは映画を見たという周りの人々からスタントマンに寄りかかりすぎでは、と言われたらしい。あれが日常である彼にはその自覚がなかった、と。専属でスタントマンをつけていない#名前2#からするとあれはクリフのせいかなーと思っているのだがリックには「俺が情けないから!」という負い目があるらしい。  リックの自己評価は相対的だ。人の目を気にするし、ものすごく誰かに共感するタイプだ。感受性が豊かすぎて少しひねくれている。ガス抜きの手段も酒ぐらいしかない男である。彼の傍にはクリフのような適当に生きていられる男が丁度いい。リックはいい意味でも悪い意味でも真面目すぎるのだ。 「リック。お前が変わりたいと思うなら、ちゃんとクリフと話した方がいい。8年寄り添ってきた相棒だろう? 」 「……。クリフは、俺の事呆れてませんかね」 「それだけは絶対にない」  あのクリフが契約主と喧嘩沙汰にならずに8年も嫁のように付き従っていたなんて正直イカれているような話である。リックはそうですかね、と呟いてから「ちゃんと話し合ってみます」と言って電話を切った。  家族か。#名前2#は移民の息子だ。昔はそれでよく虐められたし脅されることもあった。今でこそ、このような役者の地位を築いているが昔は金もなくやることも無く腐った生活をしていた。クリフ・ブースを見ているとあったかもしれない自分をそこに見てしまう。  #名前2#はクリフ・ブースという男についてよく知っている訳では無い。業界の噂としてそういうヤバい男がいると聞いていたくらいだ。それが目をかけようかと思っていた新人についたらしい、と聞いてさすがに様子見した。  彼らの活躍を見ていたら恐れていたことは起きなかった。それなら、と#名前2#はバウンティローに出演を依頼したのだ。  クリフブースの黒い噂をリックは全く相手にしていなかった。むしろあんなに良い奴がいますか?と#名前2#に問いかけたのだ。それを聞いた時に「こいつらはずっとこのまま続くんだろうなあ」と思った。まさか映画の中で彼らがコンビ解消するとは思わなかったが……。解消した具体的な後はこの通り。彼らは今も一緒にいる。クリフの方から申し出たのかリックからだったのか、それはよく知らない。ただ彼らは2人揃っていることが1番よい光景だと思ったのは本当だ。  ふと、この前見た映画を思い出す。クリフは演技初挑戦ということだったが、中々に達者な男であった。何よりクリフのリックを見つめる表情は愛情がよく篭っている。歴戦の修羅場をくぐり抜けた相棒に向ける眼差しだ。その眼差しがあるからこそ、リックダルトンのあの日常シーンに華やかさが出ていた。認めてしまうのは少し癪ではあるけれど、クリフ・ブースという男はいい役者であった。自分が演技に強い憧れを抱きそこで死にたいと心を捧げたように、クリフはリックに心を捧げていた。彼の幸せが形として表現されるなら、それはきっとリック・ダルトンなのである。  クリフのことを考えるとすぐに赤ん坊の顔が浮かんできた。リックの慰め方もよく分からないでとりあえず肩を叩いていた男が赤ん坊を慰めていると考えると申し訳ないが大声を出して笑いたい気分になるのだ。殺すことは簡単だが生かすことはその何倍も大変だ。それに手こずるウォーヒーローというのも面白いではないか。  #名前2#はなぜか祝杯をあげたい気分になっていた。