悪夢を見てみたいだろう

 事故物件。それは先に住んでいた人が亡くなったり殺されたりなどして穢れが染み付いたと考えるものである。オーストラリアに旅をしてミイラを土産に貰った人間としては「人が死んだくらいで何を馬鹿な」と思っていたのだが、どうやらそういうものは本当にあるらしく。テレビで「事故物件住みます芸人」という存在を知ってからはなんとなく調べるようになっていた。流行りに乗っかるというよりもその単語自体に聞き馴染みがなかったのだ。  事故物件をまとめているサイトも見つけた。そしてそこに住んでいた経験を語る掲示板なども見つけた。どうせ釣りだとは思うのだが、たまに語り口が異常に上手いものもあって読み進めてしまった。幽霊が見える人は大変だな、と感想を抱く一方で海外でそんな話ほぼ聞いたことないんだよなと思う。  事故物件。幽霊の通り道とか地縛霊の怨念だとか、昔から日本にはそういう「恐怖」を感じさせるものがある。おそらくそういう心霊現象は「本当に」あるのだろうし、感じるものはあるのだろうけど自分はあまり感じられないタイプである。世界各地を旅行しては色んなものを触れてきたせいか、あまり「日本の幽霊」というものには考えが及ばないのかもしれない。もしくはただの鈍感野郎であるか。 「それで、調べてどうしたの?」 「いや伊崎さん知ってるかなあって」 「なんで俺が知ってると思うのさ」 「えっ、だってそれなりに有名じゃないですか」  お祓いで有名なこの宮司は伊崎さんという。コートの中にお守りを仕込むという謎な人だがその実力は確かである。あの掲示板の中にひとつだけ、宮司のTさんというものを見たのだが、そしてかなりぼかされた内容ではあったが多分この人だった。前に俺もお世話になったことがある。俺は全くよく分からないが伊崎さん曰く、男の怨念にまとわりつかれているとか何とかでお祓いをしてもらった。頭がとても軽くなった。それ以来、この人とは何とはなしに仲良くしている。  伊崎さんに事故物件住みます芸人という体を張ったアクション芸ってどうなのと聞いたら「まあね、俺みたいな人のところでお祓いとかしてれば別だけどさ」と高らかに笑った。 「お祓いか」 「お前だってミイラ貰った時にはお祓いしたんだろ?」 「あ? ああ、族長のね」  民族的な場所によるお祓いなんてよく分からない液体を吹きかけられたり変なものを塗りたくられたりするだけである。文化の尊重としてされるのは我慢するがそれに効果を見込んだことはない。 「#名前2#は知らないかもしれないけど。そういうのは信じたものが救われるのさ」 「身も蓋もない話だな」 「幽霊の方が身も蓋もない話だろ」  それもまあ、そうかもしれない。俺も事故物件住んでみようかな、と言ったら伊崎さんに変な顔をされたので渋々諦めた。安くなるからいいかな、と思ったのだが。  事故物件住みます芸人さんの本が出ていたと知り、わざわざ買ってみた。幽霊っぽいものが出たこと。シネと書かれたと思ったらシャンプーの話だったこと。(頭に着けていたのはリンスだったらしい。)写真を撮った時に顔が真っ黒になること。どれもこれもおかしく書いてはいるがやっぱり障害があるのは間違いないらしい。 「……変なの」  不思議に思えた。事故物件住みます芸人さんは本当にそういうものを信じてないような人なのに、障害は起きている。でも、これは日本を出たら同じことが起こるかというと違うのだ。人が死んだ家が怖いというより、野生の動物がいつ自分を襲うか分からないのが怖いという話もある。イギリスなどでは幽霊がいる方が家賃が高いし。 「………。事故物件ねえ。俺も住んでみたいけど」  ダメだろうな、と思った。きっと俺には向いてないと思う。  ある日、旅行から帰ってきたら幼馴染が亡くなったという連絡を受けて慌てて大阪の方に行った。不動産で俺が気にしていた事故物件を担当していた彼女はなぜか自殺、したらしいのだ。事故物件を担当する呪いかも、と同僚の人たちが話しているのを聞いたが、あの!あの純ちゃんに限ってそれは無いと思った。俺が旅行してる間に家族葬による葬儀が終わっていてお金だけ置いて一旦家に帰った。と、何やら家の中がやけに寒い。これは、伊崎さんにお祓いしてもらう前のあの感覚に似ている。慌てた俺は伊崎さんに連絡を入れてさっさと寝ることにした。久々の我が家で再会したサメのぬいぐるみを抱きしめる。こわい! 寒い! 疲れた!! そんな気持ちで寝たところ、意外とすんなりの眠り落ちた。夢も見ないくらいにどっぷりと寝たあと、伊崎さんのもとに行ってみると「? 別になんともないけど」とあっけらかんとして言われた。 「えっ、本当に? 嘘ついてない? やばそうな相手だからって俺を生贄とかにしてない!?」 「してないっての!! 本当に何も無いよ」  怪しさは満載だったが念の為コートの中にある厄除けのお守りを購入して家に戻った。明日からまた仕事が始まる。家に帰ると抱きしめて寝ていたサメのぬいぐるみがバタバタと飛び跳ねている。1回玄関を閉めた。もう1回開けてみる。動いている。………いや、何でだよ……??