自由なんていらない
初めてお会いした時のあの顔を忘れない。大統領に選ばれたのもその逞しい肉体と、爽やかな笑顔が好印象を与えたからではないかと揶揄されていたくらいだ。彼はSPの自分に手を差し出すと「#名前1#だ。よろしく頼む」と笑った。いざとなったら自分の体を差し出してこの人を守らなければならない。それを思うと、何と残酷なことをいう人だろうと思った。 「オレクです。貴方を精一杯お守りします」 「………ああ。そんな事が起きないことが1番だが、もしもの事があったら……君に頼むよ」 私たちの仕事を否定しないように、と気をつけていたがその言葉の裏には「こんな仕事」という気持ちが見えていた。私は私の職に誇りを持っている。それを、彼に傷つけて欲しくはなかった。 #名前1#大統領はとてもお強かった。心も体も強くあらねば、という意識で国民の心に寄り添う政策をと苦心していた。政治家というにはあまりにも荒唐無稽なものを出した時は周りからの反発をくらった。さすがに自分以外のほとんどから馬鹿だ能無しだと言われては彼も参ってしまうのではないかと思っていたが私たちSPに「全くあいつらは! 俺の言うことを聞いてもくれやしない!」と怒ってお菓子を食べて元気になっていた。やはりSPに護られているという自覚が薄いのではと思ったが彼をま正面から見て話すことが出来たのは嬉しい体験だった。周りもその人柄に触れて少しだけ現場が明るくなった。 私はやはり彼の盾になりたいと思った。自己犠牲などではない。私が彼の人生のどこかに1つでも足跡を作れるのならばそれでいいと思ったのである。 ある日、#名前1#大統領に夢を聞かれた。私は素直に「この職務を全うすることだ」と答えた。 「そうか……」 「あの?」 「私はね、死にたくないよ」 「………」 「でも、それは君らだって同じだろう? 私を護れという命令があっても本能は君自身を護らせるだろう? 暗殺なんてことがあったら、それは私がその人の声を聞き落としていたということだろう。だったら、その報いは君たちにでは無く私に被せられるべきじゃないだろうか」 哲学的なことを話されている、と思った。私はあまり学がある方ではない。彼の愛読書である詩人も知らなければ経済での○○点という言葉も、国同士のいざこざも自国のことばかりで他国にまで目は向けられない。#名前2#・#名前1#の見る世界は広すぎる。だからそうやって考えてしまう。本当は、本当なら、私は彼に頼ってもらう立場にいたいのに。 「私は、貴方の人生の中にいたいのです」 ぽつりと、私は本音を出してしまった。あまりにも愚かで馬鹿みたいな本音だ。彼は驚いたような顔で私を見ていた。私はその顔を見ていられなくて顔を下に向けた。 「貴方の、記憶の中に。私のような者がいたと、思ってくださるだけでいいのです。そのためなら、私は、貴方のために死ねるのです」 拙い言葉だ。矛盾している。これで大統領の担当から外されたらどうしよう。言い終わってからどくどくと心臓の鼓動が早くなっていった。言ってしまったという言葉が頭から離れない。やらかした。どうしよう。 「……そんなことしなくても、君を忘れることなんて出来ないさ」 「え?」 #名前1#は微笑んでいた。その微笑みが何を意味するのか、オレクには分からなかった。分かってはいけないと思った。彼が自分のことを好きだなんてあるはずがない。 大統領が軍部視察に来た。もちろんオレクもその護衛として選ばれている。#名前1#はあの後一切オレクにそういった素振りを見せなかった。あのひと時の繋がりは幻かなにかだったのだろう。あの暖かく柔らかく触れたら潰してしまいそうな気持ちはオレクの心の中にまだ潜んでいた。好きです。そう呟くだけが彼にとっては精一杯だった。 そして事件は起きた。軍の裏切り。仲間たちの死。#名前1#が人質になっている。それだけ分かっていた。海に捨てられた自分はあの後必死に戻ってきた。#名前1#を助ける、それがこの仕事の誇りなのだ。だが、血を流しすぎた。クラクラしていて真っ直ぐ立つことも難しい気がする。どうすればいいのだろう。不意に泣きそうになった。彼が死んでいたらという最悪のことを考えた。 「おい、お前! 大丈夫か!!」 そんなことを考えては疲弊していた自分に手を伸ばしたのはアメリカの特殊部隊のやつらだった。 亡霊たちは国からの命令で動いていたらしい。任務を失敗すれば彼らは死ぬ。その任務というのも#名前1#大統領を救出するというものだったのだ。私はこれだ、としがみついた。自分だけではダメでも4人もいるのならまだ行けるだろう、と。 背負われて壁を昇る。最初に来た部屋に戻ると大統領の声がかすかに聞こえた。 「あの部屋だ」 爆弾でこじ開けると#名前1#は床にへたり込んでいた。腹からの出血がひどい。 「#名前2#」 思わず呼んでいた。彼は目を開けると私を見て涙を流した。オレクか?と呼んでくれた。大統領、戻りました。感動の再会もそこそこに#名前1#は亡霊たちのリーダーに任せて私は銃を構えた。敵がいる。ここは敵の総本部。彼を助けることが俺の役目。 「オレクッ……!!」 俺はその信頼に応えられただろうか。 「大統領、……ご無事で」 そして、今まであなたのおそばに居ることが出来て幸せでした。