ばかの恋

 戦争でトラウマを作るやつは沢山いる。俺みたいなずさんな治療をする医者のところにもやってきてはいい歳した男がメソメソと泣くのだ。ここで慰め方を間違えると何を思うのか「お前に惚れた」と言い出して家にやってくる奴らがいる。死の天使ことグッドナイト・ロビンショーが俺の元にやってきた時には絶対そうならないようにと思っていたのに。 「なあセンセイ。俺のこの病気は治るのか……?」 「知らねえよ、俺は」 「くくっ、ひでえ言い草だ」  酒にのまれてむくんだ顔がシワになって笑っている。これを可愛いと思うんだから俺の思考回路は銃弾にやられている。愛のためバカになったってか? ふざけてる。  結論からいえば俺の方が惚れてしまった。患者に優しくしたらいけないと分かってはいたが好きになったら仕方ない。優しくしないようにと意識してもおかしいし、普段通りをやろうとしてもグッディを意識しちまうし。困った俺はグッディをこの病院から早くに出させることにした。すぐさま追い出せばいいものを出来なかったのは俺の心が意気地無しだからだ。それとなくグッディとの接触を避け始めて自分から出ていくように仕向けた。  グッディはそれに気づいたのか時たま寂しそうな顔をするようになった。可愛いがりたいような、罪悪感にかられるような苦しい気分になった。グッディはそんな俺の心を気にせず「な、なあ#名前1#……?」と声をかけてきた。 「俺、お前になにかしたか……?」 「何言ってんだグッディ。いつも通りだよ」 「そうか……」 「ああ。そうだ、今度酒でも飲みに行くか」 「! ああ! きちんと約束守れよ!」  なんだ、この可愛い生き物。湧き出そうな声を必死に抑えて治療室に向かう。一人になってようやく一息つけた。はあ。  酒をしこたま飲ませれば何もかも吐いてくれるだろう。目論んで#名前1#に色々と飲ませようとしたのだが#名前1#はすぐに酔ってしまうタイプらしかった。酒瓶ひとつ空けないまま#名前1#は赤らんだ顔でへらへら笑っている。こっちの気も知らないで。 「グッディはなあ、可愛いよなあ」 「……そうか?」  可愛いと思われたのなら嬉しいが反面悲しくもある。#名前1#は患者とは恋愛しないそうだ。昔に色々あって懲りたらしい。その昔の話も聞きたいし#名前1#は男とセックスしたのかも聞きたかったが奴らは話をしてくれなかった。  #名前1#はなおも笑って俺の手を掴んだ。そして指を1本ずつ撫でるように形を確認する。その瞳のキラキラが増すほどに自分の心には闇がつのった。 「そうだよ。グッディは可愛い。なんだよ、死の天使って」 「それは他の奴らがつけた名前だ」 「天使なのは分かるけどな。お前に死を告げられたら本望だ」 「……」  それはいい意味と取っていいのだろうか。何だか2通りにとれる気がするのだが。俺が#名前1#に告げるんだよな? #名前1#が俺に告げるんじゃないよな? 流石にここで遠回しに死ねと言われたら泣ける。 「いいよなあ、死ぬ間近でお前の顔が見えたら」  うん、どうやら俺が告げるのであってる。そして#名前1#は死ぬ気満々だ。ふざけんなよ。俺のことを好きにさせといて。段々苦しみや悲しみが消えて怒りがわいてきた。  嫌がらせにさらに#名前1#に酒を飲ませようとしたら、#名前1#が急に俺の手をぐっと握った。 「なあグッドナイト。俺、自分の信念折り曲げてでも優しくしたい奴がいるんだ」 「……。そうか」 「そいつ、すごい可愛いんだ。でも俺は意気地無しだから中々言葉に出来なかったんだよ。でも優しくしちゃうんだ」  自惚れでないのならその相手は自分のはずだ。なのに#名前1#は握ったまま顔をあげようとしない。握った手が暑くて今にも沸騰しそうだ。とけそうだ。 「さっきの言葉、俺なりのアプローチなんだ……。なあ、グッドナイト。おまえは俺に夢を見させてくれるか」  真っ赤で潤んだ目が俺のことを見つめた。酒瓶がずるりと落っこちた。せっかくの酒が、と思う横で俺はもう何も考えていなかった。ただこいつに愛されてるという実感で頭が真っ白だった。 「あ、ああ」  掠れた声で頷いた俺を#名前1#が椅子から飛び上がって抱きしめに来た。さっきの夢の話しなんかどこへやら。今夜は離さないでと言った俺に#名前1#はまた顔を真っ赤にした。