誰にも負けない傷を残して
映画ネタバレあり。 中の人ネタ(年齢差)あり。 あいつと出会ったのは俺が賞金稼ぎの掟シリーズに出るってなってマネージャーが誰かスタントマンをつけようと言い出したからだった。その時はクリフもまだスタントチームのもとにいた。 落馬のシーンをやってもらってどうするか決めた訳だが、あいつを選んだのは単に俺に見合う顔があったってことと、落馬したあとへらへら笑っている姿を見たからだった。 「ファッキンパーフェクト! 俺の名前は#名前2#・#名前1#だ」 俺が選んだといのにクリフはぼーっとしていた。おい、とまた声をかけるとはっとした顔で俺の手を掴んだ。 「クリフ・ブースだ」 「そうか。決めたよ、あんたに仕事を任せる」 「ええ? 本当にこいつでいいのかい?」 「ああ」 あの後、クリフが帰還兵だなんだと聞かされたが俺には関係なかった。あいつが丁度いいやと思った。クリフはちょっと戸惑っていたが俺が出した手を引っ込めないので仕方なく手を取った。握った手はめちゃくちゃに硬かった。 結果としてバウンティローは大盛り上がり。俺のスタントダブルということでクリフの名も上がった。だが、クリフは俺の専属として他の仕事はずっと断っていた。クリフの口から「俺は専属なんでね」と聞くのは笑える。最初は専属になることもものすごく渋っていたくせに。 それに気を良くして俺はあいつに仕事を任せるようになった。変な業者を入れるよりもクリフに任せた方が安心だからだ。クリフは面倒だなあと言っていたし仕事は下手くそだったが俺はげらげら笑っていた。これからもずっと任せるんだから上手くなれよ、と背中を叩くとまた変な顔になった。 「あんたの人生ってのはなげえなあ」 「あぁ?」 「ううん、なんでも」 クリフは安物のビールを煽ると「上手い」と朗らかに笑った。それ以来、クリフには仕事を任せている。スタントマンとしての仕事じゃねえよなあと言うがあいつは俺を甘やかすことに慣れていた。連れてくるブランディのために俺がドッグフードを買ってきたらクリフは本当に驚いた顔をしていた。 「なんだよ」 俺が買ってきちゃまずかったのか。お前がいつも捨ててる缶からと同じやつだぞ。そう言うとクリフはげらげらと笑いだした。 「いいや、ファキンリック」 その笑い声に釣られて俺も笑いだした。 クリフとはそこからずっと一緒にいた。TVシリーズはいつも一緒で俺が事故を起こした時も真っ先に駆けつけてくれた。「あんたが事故にあっちゃ困るだろ」と情けない顔で笑うから俺はケガには気をつけようと思った。だが、演技の方は、というか貰える役柄はどんどんと落ちぶれていく。スポンサーを背中に抱えて明るくスカして笑う男どもに俺は踏み潰されるのだ。悪役を貰えるだけマシだと人はいうが、そんなのただの負け犬の遠吠えだ。逃げるように酒を飲むとき、クリフは何も言わない。ただ側にいて俺のなんにもない話をずっと聞いてくれる。 こういう時に、2人して酔っ払ったことがある。俺もクリフもぐでんぐでんと酔っていた。目が回って体もふらついて。ソファーにへたりこんだ俺にクリフが手を伸ばした。べちゃり、とそのまま倒れて。俺とクリフの視線が混じりあって。何となく、キスされると思った。クリフの唇は俺も見えていたし、一瞬このままヤってしまおうかとも思った。 「やめろ」 気づいた時にはクリフの口に手を当てていた。俺の感情はそうじゃない、と伝えていた。クリフのその時の目が未だに夢に出てくる。はっとした顔、そしてどこか遠くを見て、俺を見た。俺が#名前2#・#名前1#ということに気づいて悲しげな顔をしやがった。 「すまねえ」 あいつの言葉は俺の胸を貫いたが、ある意味これでよかったのだと思う。俺達は、恋人じゃない。 ファッキンヒッピーたちが俺の家に襲撃したということで新聞は大盛り上がり。ポランスキーも俺に興味を持ってくれた。映画に出てみないかと言われたのだが、何となくそれは俺のポリシーに反した。自分の力でポランスキー監督の作品に出たかった。 いつも通りクリフの見舞いに行ってそれを伝えたらクリフはまーたあの驚いた顔をする。俺のことまだまだ分かってねえなぁと言うと「あんたがクソ難解なんだよ」と言われた。 周りは俺の方が分かりやすくてクリフの方が分からないという。俺は確かにアル中で落ち目の俳優で癇癪持ちでヒッピー嫌いの野郎だが、それだけじゃない。クリフは分かりにくいと言われているけれど俺からしてみればコイツは目でわかる。なに思ってるかも。 「#名前2#、俺以外のスタントマンをつけろよ」 「はぁ!? 何回も嫌って言っただろうがよ!!!」 「いやいや、俺のリハビリに何年かかると思ってんだよ」 「戦争の英雄様だろ、さっさと終わらせろ」 「よく言うよ……」 クリフは半身麻痺になるところをギリギリに避けられたらしい。だが、クスリをやってハイになってる所であんなに動いたもんだからそっちの方が問題になっているようだった。 「俺のこと、終わらせただろう? 別れの儀式もやったんだ、これまでだよ」 「別れの儀式ってのはヒッピーたちに邪魔されないままゲロ吐いて笑って終えるはずだろうが」 「いや、笑えるかはわかんねえけど」 クリフはにやにやと笑って「バチェラーパーティーもしてねえもんなあ」と言う。どうせ俺とお前しかいないのにパーティなんて馬鹿げてると思うが、まあやってないことは確かだ。 「それまではよ、あんたの相棒やるからさ」 クリフがにやりと笑った。俺が伸ばした手にごつん、とぶつけられる。けが人のくせに俺の方が痛く感じるのってなんでだよ。 入院中、今後のことについて考えていた。クリフ・ブースには#名前2#・#名前1#という男がなによりも大切であったわけだが、何だかんだでその感情が自分でもよく分からなくなっていた。 第二次世界大戦と、強制労働、暇していた時にスタントマンの世界に誘われてなあなあにやっていたら#名前2#に拾われた。あいつはまあ、人間としてはクソ野郎だ。良い奴じゃない。だが、演技に対しての真面目さは人一倍で同じ熱量で俺のことを分かろうとしていた。その熱が熱くて眩しくて光って見えていた。あいつがやらかしても、まあ#名前2#だしと許してしまう。10以上も離れているが俺にとってのメンターだった。 俺は自分の人生にそんな力を入れるなんてことは無い。適当に生きてて適当に過ごせるだろうと思っている。#名前2#はいちいち悲しんだり怒ったりがむしゃらになるがあいつには努力する姿勢がある。俺はそんな#名前2#を見るのが好きなんだと思う。 「努力家のお前の傍にいられるように。俺も頑張らなきゃって思うわけよ」 そういう意味での「努力してるよ」という言葉だった。 だから、あの夜も。本当はなし崩しになってほしかったし、ならないでほしかった。コイツはそんな一時的なもので俺との関係を壊すはずがない、と。信頼もあったし、もし俺がその場所に立てるのなら何でもしてやれると思った。でも、#名前2#の答えはNOだった。それに安心した俺がいた。 #名前2#はまた明日も来るだろう。その時には笑って言ってやらなければならない。 「#名前2#・#名前1#様の次回作にスタントマンは使われるのか?」と