いなくなってから会いたいと思う

※映画本編のあとの話 ※クリフは戦場PTSDで自分をコントロールできずにサイコパスのようになってる設定  あのクリフ・ブースがリック・ダルトンの専属を辞めた。その事件はスタントマンの世界では大きく鳴り響きその結果あいつをだれが引き取るのかという、エージェントが誰になるのかということで揉めることとなった。  クリフ・ブースは第二次世界大戦でたくさんの人を殺めた兵士である。それが何の因果かリック・ダルトンに見初められたと言うべきか彼専属のスタントマンになっていたのだ。それでもクリフには悪い噂がついてまわった。彼の素行にも原因があるし、妻を殺したかどうかについては完全な嫌がらせではある。(彼を見ていて本当に殺してないと断言できるのはリック・ダルトンくらいだろうが。)  クリフはこれからどうするのだろうか。それを考えると耳が痛かった。  ある時電話がかかってきた。クリフ・ブースについて聞きたいというのでまたあの事件の話かと思ってわざと罵詈雑言を浴びせた。すると電話の向こうのやつは真っ直ぐに「酒を飲んでるならいいが、飲んでなかったら今すぐお前の家に乗り込んでぶちのめすぞ」と言い出した。やけに落ち着いた声なのに言ってることは物騒だ。 「おいおい、あんた名前はなんだよ?」 「#名前2#・#名前1#だ」  俺も聞いたことがある名前だった。あの忌々しいクリフ・ブースと今や売れっ子俳優に舞い戻ったリック・ダルトンから。  ノックされる。こんな所(つまりドライブインシアター近くに停めているトレーラーハウス)に俺がいると知ってるのはリックくらいだがあいつは自分でここまで運転できるだろうか。まさかわざわざタクシーでも使ったか? 「はい、どうぞ」  念の為武器になりそうなものを腰に構えて扉の前にたった。  冴えない暮らしぶりだが、リックのそばに居ることは楽しかった。それに終わりが来たのにはまあ仕方ないという他ない。またリックの元に戻る日もあるかもしれないが、それは今ではない。周りが無職同然になった俺に配慮して微妙に与えられる仕事をこなしていた。だが、昔のあのスリルはない。どうしようもなくつまらない日々だった。 「やあ、クリフ」 「#名前2#さん!?」 「あはは、驚いたか」  そこに居たのは郡にいた頃の先輩である#名前2#さんだった。軍にいた頃から恐ろしく強い人だった。俺のいた部隊は荒くれ者が集まっていて、つまりめんどくさい奴らが沢山いた。そんな男たちをまとめたのが#名前2#隊長だった。俺に話をよく聞くということを教えてくれた人だ。話を聞いたあとでもこいつが悪いと思ったらぶん殴れと言っていた。荒くれ者の俺たちよりもよっぽどイカれた人だった。だけども皆#名前2#さんにお世話になっていて戦争を終えて彼が田舎に引っ込むとわかった時たくさんの男たちが自分も連れてけと彼に詰め寄った。彼は、本当に色々と見ていたし聞いていた。案の定詰め寄っていた俺に#名前2#隊長は「クリフ、俺の元に着いてくるのはよしなさい」といつもの優しい口調で諭した。 「ぁんでだよ」 「お前はスリルを楽しむタイプだ。任務に明け暮れるタイプじゃない。俺は田舎で傷ついたヤツらや命令がないと生きられない奴らを連れていくがお前は着いてきても求めるものがないと暴れ出すからなぁ」 「暴れねえよ。#名前2#隊長の傍にいられればいいんだ」  ある種の熱烈な告白だというのに#名前2#はへらりと笑っただけだった。俺のそばにいてもダメさ、と笑っていう。 「自分の体を使える仕事を探せよ。スリルとか、そういうのが味わえる仕事を」  #名前2#はそう言って仕事をいくつか投げ出した。その中から選んだのが今のスタントダブルという仕事だ。ここに来るまでも長かったがその話はクリフにとっては#名前2#さんと遊べたという印象が近いので何の苦にもならなかった。  スタントマンとしての仕事をし始めてすぐの頃、あのリック・ダルトンに出会ったのだ。専属になることが決まったと報告すると#名前2#は嬉しそうに笑ってそして田舎へと引っ越した。彼から時たま送られてくる手紙はいつも楽しそうでそれでいてひどく安全でつまらなそうだった。  その#名前2#がこのキャンピングカーに来た。これにはクリフも驚いて口をぽっかりと開けたままだった。 「クリフ、仕事はどうだ?」 「ああ、やってるよ」  適当な嘘をついた。#名前2#にはすぐにバレただろうが彼は何も言わなかった。そうか、と頷いて「ドライブでもしないか?」とおんぼろ車を見せた。自分のと大して変わらないぼろっちさにクリフはげらげらと笑った。  車を運転するのは#名前2#がやった。久々に助手席からの風景というものを見たクリフは何だか寂しさを覚えた。きらびやかな道を通り過ぎてうだる暑さを感じさせる道を通り抜けて。#名前2#がどこへ行こうとしているのかは何となく分かった。 「クリフ、スタントマンの専属はもうやらないのか」  ソラきた、と思ったが口には出さなかった。 「あぁ、あいつとの関係は終わったよ」 「恋人みたいな言い方だな」  けらけらと笑う#名前2#を見て確かになあとクリフも頷いた。最後の方こそクリフも彼の横にいられるように、と努力していたがそれもまた今にして思うとこの男からもらった縁にしがみついていただけな気がする。#名前2#が俺に失望しないように、と。多方面に向けてクリフは努力していたのだ。リックの隣は楽しかった。本当に。いい体験だった。 「……。彼はまた君を頼りにしてるんじゃないのかい」  それこそ、空いた隙間を埋めるように。#名前2#の言い方は分かるがそれはあんまりだと思った。久々に会って喜んでいるのに、まさか違う男の話をされるなんて! 女々しくもそんなことを考えてクリフはがりがりと頭をかいた。いや、ここで反発すればまた問題が起きる。 「まあ、また会いに行きますよ。心の整理がついたらね」 「ありゃ、今のではつけなかったか。失敗だな」  #名前2#はふふっと笑って道を曲がった。リックの家に行くのは辞めたらしい。本当にドライブだけして帰ってきたので#名前1#に外に食べに行こう、と言うと肉も野菜も持ってきたから、と家の中に押しやられた。ブランディのえさをやり、#名前2#が久々に料理をしてくれた。軍にいた頃の口癖、いい知らせと悪い知らせがあるというのも聞けてクリフは久々にアドレナリンジャンキーのクリフ・ブースになっていた。そして2人で酒を飲んだ。2人ともぐびぐびと音を立てて飲み干した。  酔っ払いの戯れだ。クリフはそっと#名前2#に近づいた。ブランディは分かったように伏せている。 「#名前2#さん」 「おいおい、もう酔っ払ったのか」 「そうです、そうですよ、酔っ払いです」  じゃれつくように首を重ねた。あの時のように。まだ、彼も自分もあの生きるか死ぬかの中にいた時のように。 「#名前2#さん、俺ァもうダメです、どうしようもないです。あんたに会ったらもうおかしくってたまらない。なんで今更来るんだよ、俺の今の状況知ったからかよ、俺……俺は、あんたと、そばにいたいって、言ってたの、忘れちまいましたか」  高ぶる感情が涙を流させた。この人は涙でほだされるタイプでもない。嫌がられるだけだ。それは分かっているがどうしても止まらなかった。昔に帰りたい。あの戦場に、戻りたい。 「クリフ」  優しい声が聞こえる。ノスタルジーに浸るなんてらしくないと思う。酒でも飲もうか、と#名前2#さんは俺の言葉から逃げた。そりゃあそうだ。俺たちがいたあの世界はもうないのだ。 「……はい、飲みましょう」  俺達はしこたま飲み干した。げらげら笑い、そしてこの夜のことを酒に流した。ただ、たった一言。#名前2#さんが俺に「ありがとう」と言ったことを俺は忘れないだろう。たったそれだけの言葉が嬉しかった。  俺もまたどこかの田舎に引っ越そうと思った。リックダルトンの名前がそんな田舎に轟くのを見届けようと思った。リックが迎えに来てくれたなら、それはそれでいい。ただ、それもなくて。俺がそこで大人しく生活できていたら。また#名前2#さんのもとを訪れてやる。俺はもう、あの場所から抜け出しましたって言葉を、叩きつけてやろう。