全景色アスファルト色

※足を骨折した運転手成り代わり ※総攻めっぽい  好きで運転手になったわけではない。キャナリーと一緒にストリートで金を稼いでいたところを、ミスターローマンに拾われたのだ。少し腕のたつ俺を見てローマンはにこにこと俺を運転手にした。キャナリーの方が強いのに、だ。男だからという理由で俺の方がいい仕事をもらい、彼女はバーの専属歌手になったのだから世の中はとても不公平だ。キャナリーは俺に謝るな、といった。 「あんなサイコパスに近づくアンタの方がつらいかもね」 「本当になあ」  ローマンはシオニスと呼ばれることを嫌っていた。家族を思い出すから、らしい。ローマンと呼ぶと右腕であるザーズが怒る。俺たちは彼をボスと呼ぶことにした。ジョーカーとはまた違った、組織的な、ボスである。  ジョーカー。彼は圧倒的だ。俺も絶対に近づきたくない存在だ。彼に関してならバットマンの味方になれる。今でこそ落ち着いているけれど……。ボスに会ったときと同じ。人生は不公平なのである。何が起きるのかさっぱり分からない。  ハーレイ・クインが犯罪界の貴公子ことジョーカーの恋人であることは周知の事実だ。彼女に手を出せばジョーカーに殺される。俺たちの暗黙の了解だった。それはボスにとっても同じで、彼女が繰り広げる悪事やイタズラは何も文句が言えない。されるがままになるというのがいつもの姿勢だった。 「ヘーイ、ガイズ」 「……。俺たちの、こと?」  ダンサーの女の子たちとトランプで遊んでいたらその天災に見舞われた。振り向いた瞬間、彼女の美しい脚が俺の腕を吹き飛ばしたのである。想像を絶する痛みだった。叫んでしまった。慌てて周りの子にすがろうとした。ハーレイ・クインから逃げたかった。痛いのは嫌いだ。そのために強くなったのに。彼女に関してはそれもできやしない。怯えた顔をする俺にハーレイ・クインはけらけら笑った。 「ごめんねぇ、あんたをヤればいいって言われたからさ」  誰に。誰に、俺をやれと言われたのか。クインは何も言わなかった。ボスが彼女を引っ張り諭している。腕をやられた俺はもう仕事はできないだろう。彼にクビにされる。まさかこのクソ女に自分の人生を壊されるとは思わなかった。ボスか、ザーズか。俺のことを殺すんだろうな、と思った。役立たずは捨てられる。ふと、首を向けるとキャナリーは歌を歌っていた。いつも通り、クソみたいな男どもに向けた歌だった。俺は結局、そのクソみたいな男たちだったというわけだ。 「#名前1#、上に上がれ」 「えっ」 「その腕だと車も運転できないだろう。ほら、早く」  ザーズはニコニコとして俺の体を引っ張った。分ってやっているのか、骨折した腕をわざとつかんでくる。死を覚悟していた。  バーの上がそのままボスたちの居住スペースになっている。ザーズもここに住んでいるのだ。運転手としてここに迎えに来るとザーズがいつもいるので察した。セクシャリティはどうでもいいが、運転手の俺に嫉妬するのだけはやめてほしいなと思っていた。わざわざ部屋で殺されるのか……と思っていたらザーズはずるずると俺を引っ張り、ベッドルームに連れてきた。一度だけ入ったことがある。デカいベッドルームだ。女たちを連れ込んで遊んだりするための部屋。薄暗いライトに手触りのいいシーツ、ここを血で汚したら余計に苦しめられるだろうな、と思った。俺をベッドに座らせてザーズは横にべっとりとくっついた。娼婦のような座り方だった。 「#名前1#、いいか。お前には二つの選択肢がある」 「……ああ」 「ここで、俺たちと、遊ぶか。死ぬか」 「……あの、今なんて」  何が起きたのか全く分からなかった。ザーズの顔をじっと見てしまう。ザーズはにへら、と笑った。自分を持っていないような、そんなダラけた顔だった。母親を思い出した。男に寄りそう母は今のザーズと同じ顔をしていた。 「ザーズ。ザァ~ズ~。おいおい、そんな色気もない口説き文句でどうしたっていうんだよ。なあ?」 「ローマン、ごめん」  ザーズの顔はすぐに戻った。部屋に来たのはここの主であるミスターローマンだ。ボス、と声をかけた俺にミスターは手で制した。 「#名前2#、腕は? 大丈夫か? あの女、派手に蹴ってたな」 「……えっと、あの。大丈夫です…」  嘘だ。本当は全く大丈夫ではない。それが分かったのか、ローマンは「あぁ」と悲痛な声をあげた。 「お前が痛いままだと可哀想だな。さっそく病院に連れていこう。運転手は、そうだな」 「キャ、キャナリー!」 「ん?」 「歌姫。キャナリー。あいつは、俺よりも運転もうまい。強いし。いい子だ」  怖くて声が震えていた気がする。俺は笑って言えてただろうか。ザーズは何を思ったのか俺の平気なほうの腕をぐいと引っ張る。力の入りようがすごすぎて肩がもげるかと思った。 「#名前1#、お前まだあの女とくっついてんのか!?」 「えっ、いや、アイツとはそんなんじゃないです」 「本当に?」 「ほんとうに……。彼女とかじゃないです。アイツとはただ、一緒に生き残った仲間って感じですよ」 「俺たちも、仲間だ」  そういって顔を近づけ、キスを送ったボスは何を考えているのか、俺にはさっぱり分からない。