僕を見ている目がある
ちりんと鳴らした鈴の音は俺と彼女との合図だった。#名前1#行くよ、と声をかけてくれた彼女の後ろをついて歩く。活発な彼女と小心者との俺は相性がちょうど良かったらしく2人でよく遊んだ。だが……。彼女は死んでしまった。交通事故だった。せっかくAIが広まっていたというのに彼女は呆気なく死んでしまった。人は死ぬと選択をしなければならない。臓器移植していいかという話と、外見をヒューマギアに登録していいかという話だ。新しく作るよりも登録した方が早いのはわかる。だけど俺はAIの、ヒューマギアの彼女は見たくなかった。俺のわがままが通るはずもないのだがその後ずっと泣いていた。彼女はAIになるのだ、と本気でショックだった。 そのあと月日を経て俺は会社員になる。小さな部署の営業だが、大切な仕事だ。頑張らなければならない。それに……。うちに秘書としているヒューマギアがちょうど彼女のモデルだった。彼女にいい所を見せても仕方ないのはわかっている。だけどたったそれだけのことで頑張りたいと思ってしまうのだ。 ある日、珍しくも弁当を食べていた俺にヒューマギアが近寄ってきた。 「#名前2#さんこんにちわ」 「…ちわっす」 「お弁当ですか?手作りのようですね」 「まあ、ちょっと……」 ほんわかした空気で昔を思い出した。泣きそうになる俺にヒューマギアが手を伸ばす。ごめんなさい、泣かせるつもりはなかったのに。と悲しそうな顔で言われた。泣いたのは俺のせいなのに馬鹿だなあと思った。 俺はヒューマギアに泣いた理由を聞かれて尽く話すことになった。初恋の彼女と鈴の合図と事故の話だ。 「家から出てこいというのが鈴なのですか?」 「まあ、はい。隣に住んでて、部屋も向かい合ってたし」 「とても素敵な時間だったのですね」 そう、大人の彼女のAIに言われて俺はまた泣いた。だって、彼女はもういないのだ。それなのに、他人事のように実際他人事だけど、でも、その思い出を傷つけられたくなかった。昼休みが終わったあとも泣いていた俺は上司に心配されて帰らされることになった。優しい上司だと思うが、AIに仕事させればいいという考えもどうかと思う。 翌日俺の仕事場は崩壊していた。AIが暴走したらしい。あの秘書の、彼女の顔をしたAIである。俺の会社は木っ端微塵になり、たまたま免れた俺は実質無職になったし気のいい同僚や優しい先輩やくそみたいに仕事のできない無能たちとお別れすることになった。最初から嫌っていた人も好きな人も等しく命を奪われるのだ、と俺はようやく理解した。 会社が潰れた俺を助けてくれたのが飛電或人さんだった。ヒューマギアを生産している飛電会社の社長さまだ。俺より若いのにまじめに社長をされている。元々お笑い芸人だったらしく、社長になったのはつい最近のことだそうだ。 「AIが悪いんじゃないんだ、滅亡迅雷ネット。ここが諸悪の根源って、やーつ……あれ使い方あってる?」 「はい。正しい使い方にございます、或人社長」 AIたちが悪い訳では無いのはわかっている。それはあの会話をすればすぐに分かる。話を聞いたあと俺はとてつもない悔しさに襲われた。なぜ俺の会社でないといけなかったのだろう。俺が何かしたのだろうか。突然仕事場が崩壊して、みんな消えてしまって、世間はAI騒ぎで忙しく、俺には行く先すらも宛もなし、ただただ無意味に過ごす時間があったのに。自分が何かしても意味が無いのはわかっている。たらればなんて馬鹿な話だ。でも、彼女の時もそうで。俺が知らないところで何かが起きていて。俺はそれにとてつもない無力感を味わってきたのだった。 会社を急遽転職した俺は完成したヒューマギアたちの欠陥製品チェックの部署に回された。きちんと会話できるかどうか、動きにおかしなところはないか確認する所である。こればかりは人と会話しないと分からないらしく、万年人手不足と言われているらしいここに来たのだった。前の仕事とは全く違うので不安もあったが二週間もやれば段々と慣れてきた。 ある日、いつも通りにお昼を食べに行こうと会社をでてきたら男の人とぶつかった。すみません、と謝罪をしたら「あ、えっ、あ、うそぉ!」と何だかはしゃいだような、いや焦ったような? 声が聞こえる。フードを被って真っ黒な服で怖い雰囲気を持っているのに俺を見る目は憧れのヒーローを見る時のようにキラキラしていた。 「おれ、おれっ! 迅って言います!」 「どうも……?」 迅さん……。何か俺に用事があるのだろうか。 「貴方の歌がめちゃくちゃ好きだったんですよね、いつも聞いてました!」 歌。歌………?? もしかして大学時代のあれだろうか? 消したい過去である。迅さんは色々と喋っているが俺としてはさっさとお昼ご飯を食べないと時間が削られていくのだ。 「すみません、仕事があるので戻っていいですか」 「ああっ、ごめんなさい! ごめんなさい、失礼しました!」 早足で歩いていく彼を見てもっと話せればいいのにって思うしまさかあの会社に勤めるなんて思わなかったし最悪な気分だ。 「くっそ、失敗した」 あの女に泣かされた#名前1#さんが可哀想であのAIに苦しめられている#名前1#さんを助けたかっただけなのに。 「滅みたいに上手くはいかないもんだねー」 どうせ#名前1#さんも死ななきゃいけない人だけど、でも、死ぬ前まではずっと幸せでいて欲しいのだ。彼が泣くようなことはあってはならないと、思うのだ。だというのに。 「まーだ、AIに関わるなんて」 やになってしまう。