まよいごの隠し場所
時間軸はIW前 手術を終えてコーヒーでも飲もうかと歩いていたらやげに病院内がざわついている。また犬がどこかに脱走したかと思ったら看護師曰くおかしな患者が来たとの事。 「どんな患者?」 「MRIが相当苦手としか」 「ああ、閉所恐怖症か? それとも暗闇恐怖症?」 「ミスターダンにお話を」 めんどくさいという顔をされてやれやれとダンを探しに行った。見つけた彼は珍しいくらいに疲れた顔をしていた。横に座っても俺に気づかない。 「おい、ダン」 「あ、ああ。なんだ、手術は終わったのか」 「まあな。そっちは?」 存外にその患者のことを匂わせたのだがダンは引っかからなかった。「彼とは友人でね。可哀想なことをしてしまった」と言い残して次の患者のために行ってしまった。俺もこのあと用事が入っている。面倒臭い用事だが少しヤバい筋からの依頼なので断れなかった。 部屋で待っていると患者が中に入ってくる。男は普通の顔をしていた。これで昔はヒーロー、今は犯罪者と罵られているのだから不思議な気分になる。 「あー、一応聞きますがお名前は」 「#名前2#・#名前1#」 「……」 この男の中に入り込んだというトランスフォーミウム。そのメンテナンスをしろということだった。と言ってもこっちは何が何だか分からない。まずトランスフォーミウムも知らないしそれがどうやって動くのかも知らない。俺はとにかくその人の体のメンテナンスしか出来ないのだ。 「CIAの彼から話は繋がってるでしょう?」 「あいつの話はやめてくれ。腐れ縁なんだ」 「それは失礼」 男はからかうように笑って俺の体に変調はありませんか、と聞いてきた。検査結果を見る限りそういったことはない。強いていえば油っこいものを食べるのはやめらというくらいか。男はそれを聞いて乾いた声で笑い、ありがとうと礼を言って出ていってしまった。もう来ないでくれと内心呟いた。 病院には定期的に通うことになった。先生は通う度に俺に遠慮がなくなり、最近は「いいなあトランスフォーマーって。俺も欲しい」と言い出した。どんなのがいい?と聞いてみるとホィーリーみたいなの!と笑顔で返されてなるほど映画を見たのかと納得した。傷つき倒れそうな体は完全に回復し、今はキャプテンたちとどこかで合流したいところだ。病院を出て少しした時に誰かからの尾行に気がついた。中々上手いがこちらもスパイとして情報収集をしていた身だ。成果は得られなくとも訓練と経験はある。ふい、と道をそれた俺は待たせていたニールに引っ張りあげてもらいビルの屋上へと登った。上から確認していたが男は俺と同じように何か体の中に入っているらしい。にょきりと現れた黒いモヤみたいな何かがあそこだ!と俺の方に手を伸ばしてきた。ニールが俺を引っ張りそのまま走り出す。 「俵のように担がれるって言うらしいぞ、日本では」 『日本には行かないぞ、トランスフォーマーの生みの親がいたとしてもだ。俺たちの生みの親はお前だからな』 「……。どうしたもんかね、お前ほど素直なやつは初めてだ」 『? トランスフォーマーはみんな素直だ』 「まあそうだけど」 それにしたってこんなクサいセリフを言えるトランスフォーマーは1度だっていなかった。スコットは考えてみるとあんまり素直じゃないし、オリビアはあまり情緒が育っていなかった。ベンジャミンは子どもっぽい性格から、言葉を使えなくなったことにより大人しく慎重な考えを持つようになり変な方向に成長を遂げた。ニールのように最初から情緒が育っていて思った通りの言葉を素直に言うタイプは初めてだった。 「ここらで迎え撃とう、人がいなくなった」 『分かった』 くるりと振り向いたニールが腕を男達に向けた。かしゃりと機械音がして腕からスコープが、手のひらからは放出口が出てくる。 『ターゲット捕捉。発射』 彼らはその瞬発力で逃げることも出来ただろうにびくりと足を止めてニールが放った網に引っかかった。どてりとそのまま不格好に着地する。念の為銃を構えて近づくと男は慌てて飛び起きた。 「わわわ、待ってまって!! 俺は別にあんたと戦いたいわけじゃない!!」 「ならその黒いのは?」 「えっとこれは……」 『おいエディ! こいつ悪いやつじゃないのか?』 「ちがう、この人はちがうの!!」 『でもニュースでは指名手配されてるって。今までのは悪いやつだっただろ?』 「いいか、世の中にはいい人ぶった悪いやつと悪い人に見せかけた良い奴がいるんだ。この人は後者」 『ふーん?』 ニールの同時翻訳のおかげで彼が誰と何と喋っているのかは分かるがそれにしても不思議な男だった。何となく顔に覚えはあるが具体的な名前が出てこない。首をかしげ考えていたら話を終えた二心一体の彼らはこちらを見て「まずは自己紹介させてくれ」と手を広げた。確かに敵意はなさそうだと判断して網を回収した。これはまた使うのだ。 「俺はエディ・ロック。フリーライターをしている」 「ああ、なるほど」 「え、なに、なるほど?」 「見覚えがあると思った。潜伏していた時たまに話を聞いていたから名前だけ覚えてた」 『エディ、今こいつ潜伏って言ったぞ!?』 「……えーっと、その潜伏っていうのは?」 「話が長くなるだろうからとにかくその中にあるモノと話をさせてもらえるか。ニールに同時翻訳してもらうとかなり大変でな」 「同時翻訳?」 「自己紹介を、しろ」 「ごめん」 『エディ、男はそんな簡単に謝るな!』 『早く自己紹介しろよ、そこのエイリアン』 『俺はエイリアンじゃねえ!!』 黒いモヤが突然目の前に現れた。ニールに捕まれた肩が後ろに下げられた。エイリアンと呼ばれたそれはサメのように鋭く細かい歯と長く唾液まみれの舌を見せつけて『俺はヴェノムだ』と短く喋った。 「この状態なら喋れるのか」 『まあな』 これなら#名前1#も楽だ。#名前1#に立ち話をする趣味はない。着いてこいと言いニールと共にビルの屋上から飛び降りた。ジャンプを重ねながら飛んでいくとその後ろをきちんとヴェノムたちも着いてきていた。どうやら彼らはヴェノムがエディに纏うことで身体能力の引き上げを起こしているようだ。 よっと降り立ったのは空き地だった。後ろにヴェノムも着地する。じっと見ているそこには何も無い空間があった。 「何だよここ?」 「ちょっと知り合いに頼んで作ってもらったんだ」 ピッとボタンを押すと瞬時に空き地に倉庫が現れた。エディの口があんぐりと開いている。ダサい!とヴェノムが無理やりに閉じた。 「中に入ってくれ」 倉庫の中にはトランスフォーミウムの塊と工具用品、ニールにスキャンさせるため用意していた車があるくらいだ。それでもエディには興奮する材料なのか「これが噂のトランスフォーミウムかー!」と喜んでいた。 「それで、俺たちになんの用事だ」 「あ、うん。ちょっと頼まれたんだ」 「頼まれた? 誰に何を?」 「……誰かは言えないけど、あんたを探せと」 エディは口篭りながらそう言った。依頼人について本当に知ってるのか?とかまをかけるとヴェノムの方から『メールが届いたんだよ! お前のことを探してるって言うやつからな!』と教えてくれた。 「メール?」 『ああ。金の払いもよくってよ』 「ごめん、あんたらの情報を売るような真似してる」 「それは構わないがメールアドレスなどを見せてもらっても?」 「え? でもあれは捨てアドみたいだったけど」 「いいから」 エディは素直に俺に見せてくれた。メールアドレスを確認すると3文字飛ばしである人物の名前が浮かび上がっていた。 「……なるほどな」 この人物からは#名前1#にもメールが来ていたし、更にはこの倉庫を貸し与えたのも彼である。エディは踊らされてここに来たという訳だ。#名前1#に会わせるために。面倒なことをする男だが世界を見張らなければいけないから仕方ないのだろう。 「エディ、家はここから近いのか?」 「すごく近いって訳じゃないけどバイクで通える距離かな」 「なら良かった」 #名前1#のためにわざわざ飛行機やなんかでここまで来られていたら流石に金を払わなければならないところだ。食事でもしようか、と誘うとエディの腹から音がした。彼は少し恥ずかしそうに「俺、今食欲すごくて」と言う。 「その体にヴェノムを宿してるんだろう? 母親みたいなものじゃないか」 「はあ、やだよママなんて!! 俺は男だ!」 『そうだ! 俺とエディは相棒なんだ!』 「すまん、相棒の分までしっかり食べないとだな」 #名前1#が謝るとヴェノムはコロリと反応を変えて『俺は肉がいい!』と笑った。 「エディは?」 「俺はなんでもいいよ」 「ならステーキでいいか? 最近いい店を見つけた」 「うん、そこで」 エディは自分で言うように確かにものすごい勢いで食べた。いつも何も食べないニールの分まで食べているので店員の方も珍しいという顔をしている。 「なあ、あんたは今や戦争犯罪人だけどホントのところはどうなんだ?」 「ホントっていうのは?」 「だって……悪いやつってのは直感で分かる。あんたは違った。それに…ちょっと他に取材もしたしね」 「取材? トニーか?」 「トニーってトニー・スターク? 違うちがう! あんなすごい人の所にインタビューなんて行けないよ。ニューヨークの愛すべき隣人、スパイダーマンさ」 なるほど、彼はアイアンマンのほうに着いていたし、少しは情報を持っているだろう。エディは少しだけ口ごもると「子どもが死んだって聞いた」 「息子ではないが」 「あ、そうなの!? スパイダーマンの口振りからするとてっきりそうなのかと」 「作った孤児院に住まわせていた子の1人だ」 「ダメなやつ! それもっとダメなやつ!」 エディはむむむと口を歪ませてごめんと謝った。もう割り切っていることなので気にしていない、つもりだ。しかし、少なからず食欲は失せてしまいそっとナイフとフォークを揃えて置いた。 「そんなにヒーローのことが気になるのか?」 「元々はそんなに。俺はヒーローには向かない性格だったし」 『はあ!? エディの性格が俺に影響したんだぞ! 正義感はお前らより強い!』 「おい、ヴェノム!」 「そうだなあ、俺には正義感はあんまり無かったよ」 #名前1#は俺はむしろ犯罪者と呼ばれる存在だからと続けた。 「でも、子どもたちには俺がヒーローで俺が守ってやらなきゃいけない存在だっていると思うといつも頑張れたんだ」 「……うん」 「それも1回全部なくなった。もうこれ以上何をすればいいのか分からなくて1度は死ぬ事も考えた。でも、結局俺はトランスフォーマーが好きで、仲間が大切だった。仲間は家族だった。俺は家族のためになら立ち上がれるんだ」 「それでニールを作ったの?」 「ああ」 エディと分かれて少しだけ考え込んだ。トランスフォーミウムの使い方はあのヴェノムのように使えることが出来るかもしれない。もっと発想を柔軟にすべきだ。ヒューマンモードにも出来たのだ、それを人に纏わせることにも挑戦してみるべきではないか。 「よし、やるか」 『その前に薬を飲んで寝るんだ』 ニールが水と薬を入れた袋をもって背後に現れた。#名前1#は水を差され不機嫌な気分になったがニールはこういう性格なのだ。慣れていくしかない、と自分に言い聞かせた。