不死身と影の相対

 トランスフォーミウムを見せると彼女はふわぁああと嬉しそうな声を上げながら手に取った。ヴィヴラニウムより重く、性能は悪いが#名前1#にとっては世界でたったひとつの資源だ。 「すごい、貴方がこれを動かしてるの?」 「ああ」 「ヴィヴラニウムほどの強度はないけど……すごいわ、人の考えに反応するなんて」 「改良し続けた結果だ」 「ほらね、お兄ちゃん。機能してても改良はできるのよ」 ブラックパンサーこと陛下はハイハイと言いたげに妹に手を振った。 ここはワカンダのラボ。主任というか、ここの長は陛下の妹であるシュリだ。彼女曰く伝統的なものは機能しているだけで、改善・改良の余地ありとのこと。何となく言いたいことは分かる。ティ・チャラ国王……はまた今度、国王就任の儀式をやるまではブラックパンサーのスーツは昔のモノを着るらしい。シュリはフリーズしても知らないわよ?とからかっていた。 このトランスフォーミウムは彼女に言われて出してきたのだ。新しいトランスフォーマーを作るため、ここを出ると言った#名前1#にティ・チャラが待ったをかけた。案内されたのがこのラボだった。 「トランスフォーマーなら聞いてるわよ。いろんな戦いを見させてもらったけど……。あなた、本当にあれをまた作るの?」 「ああ」 「……あー、マゾ?」 「おい」 「いいんです、陛下。俺はそんな被虐趣味はないよ。ただ、正義のためにこの力を使いたいって決めた」 「ふーん? 色々とあったのね」 シュリはそう言いながらちょっと借りるわね、とトランスフォーミウムを持って何かやり始めた。脳の操作はまだ効いている。取り戻すこともできたがやめた。 「すまない、あいつはまだ子どもだ」 「いいんです、俺の方こそありがとうございます。すぐ出てくつもりだったんですけど」 ミズーリ州に何かしらの反応があるとわかった時、俺は周りが引き止める中一人出て行った。理由なんてものは後からつけられた。ただ、あそこにいたら俺はずるずると引きずるだろうと思ったから出てきたのだ。 ワカンダは外敵から身を守るために爪を隠してきた鷹だ。そんな鷹の中にアホがいるのは申し訳なかった。だが何が起きたのかよく分からない泥が俺のことを捕まえた。その後の記憶はない。ただ死ぬんだろうと思っただけだ。ただ、トニーたちを置いていってしまうことは申し訳なかった。彼等のトラウマを作ったのは自分だ。今思うと、あの瞬間頭に浮かんだのはトニーとローディだったかもしれない。恥ずかしい。死体になったはずの俺をCIAが持ってきた。あの時の自分を助けてくれたのはティ・チャラが持たせてくれたヴィヴラニウムのお蔭だった。 まあ、脱獄したわけなので捉まるのは仕方ない。久しぶりにロス捜査官にお会いして尋問を受けそうになったのだが瞬間ヴィヴラニウムが爆発事故を起こした。その隙にナキアに回収された。ワカンダの女性が強すぎる。助けてもらったついでで申し訳ないがシュリの土産として隠れ家に置いていたトランスフォーミウムをもってワカンダへ帰国した。ナキアはすぐに別の任務へ行くと彼氏を置いてまた出かけてしまった。国境ではボーダー族が迎えてくれた。優しい人たちだ。 「戻ったか」 「オコエ。すまない、助けてもらった」 「陛下の意向だ。お前には借りがある、と」 「ここに匿ってくれただけで十分なんだがなあ」 「……子どもは宝だ。それをみすみす失ったことは、陛下には重い傷なのだろう」 コビンツのことは陛下は気にするべきじゃないのに。俺はオコエにワカンダの敬礼をして陛下のもとへ行くことにした。自室にいる、と声をかけられて。 「大丈夫だったか、#名前1#」 「ありがとう、陛下。みんなは?」 「先に出ていった」 「そうか。俺もこれを渡したら出ていく」 「もうか? 君は今生き返ったばかりだろう?」 「正義をなすためだ。早く人間からヒーローになれうよう頑張らないと」 トランスフォーミウムを一つかみ陛下に渡そうとすると陛下は来い、と手を引っ張った。そしてこのラボに来たのだ。 「トランスフォーミウムっていうのはヴィヴラニウムみたいな鉱物なのね。でも、エネルギーが違うわ。これは……?」 「宇宙からやってきたなんとかストーンだ」 「名前ぐらいしっかり覚えててよぉ」 「すまん、こういったことはトニーの方が全部やっていたから……」 「トニー。トニー・スタークさんね? 前、スカイプやってたでしょ。オコエから聞いたわ」 「別に変な話はしてないが、そう言われると恥ずかしい」 「私もびっくりしたわよ。まあ、会話からするとただのお友達なのね」 「あいつらには恋人がいる」 「はいはい」 #名前1#の言葉にシュリはけらけら笑いながらはい、と指輪を渡した。 「これは?」 「特別な餞別、ね。貴方には色々と教わったお礼。トランスフォーミウムももらうし」 「またお母さまが怒るぞ」 「ああ、ワカンダを隠せってやつでしょ? 私、あれ嫌いなの。ちょっと馬鹿らしいしない?」 ごほん、と陛下が咳をした。これ以上つつかないように指輪について聞いた。 「これはね、ヴィヴラニウムで出来た薙刀よ。トランスフォーミウムの方は壊れたって聞いてたから」 「すっげえな」 口の悪い言葉にはっと#名前1#は口を閉じたがシュリは笑うだけだった。 「一回内側に指をあてると薙刀になるわ。戻るのは柄のここを押すの」 「軽いな」 「鋭いわよ、切れ味」 「石突はもう少し重い方が……」 「あ、そこはワカンダ風に変えたの。電撃が走るのよ」 「対人特化か」 「まあそうね」 薙刀を振ってみるとよく手に吸い付いて伸びもいい。ヴィヴラニウム製なので強度もかなり強くなった。トランスフォーミウムの方で薙刀を作れるまではこれが相棒だ。 「これを見てもトランスフォーミウムがいい?」 「もちろん」 「あら。ヴィヴラニウムって言わせるつもりだったのに」 「ヴィヴラニウムは強いが、それは弾く強さだ。トランスフォーミウムは金属製のものなら何にでも変化できる。銃弾は受け止めてトランスフォーミウムへと変換も行える。重いし、数は少ないが俺にとってはこれが一番なんだ」 「ふうん。まあいいわ」 シュリはそう言って拗ねたようにトランスフォーミウムをいじくり見た。俺はラボにいる用事もなくなったと見て、シュリに礼を言ってラボを出る。 そのままこの宮殿からも出ていこうとすると陛下が口を開いた。 「シュリは君を気に入っていた」 「……ありがとうございます?」 「国王になったら、君のようなエンジニアがほしいところだ」 「……俺は、エンジニアじゃなくてヒーローになると決めました」 俺はもうエンジニアというつもりはない。これからはヒーローとして生きると決めた。スコットもオリビアもベンジャミンも遅いと怒るかもしれない……。怒られたらその時は開き直って会いに行くしかないな。オプティマスプライムだってそうだったんだから。 「分かってる。これはただの願望だ」 「……あなたもヒーローになってください。待っています」 そっと陛下の後ろにオコエがついていた。ワカンダフォーエーバーという合言葉と一緒に敬礼をする。返してくれた二人に頭を下げてワカンダを後にした。アメリカへは戻れない。おそらくロス捜査官に目を付けられている。このアフリカの近くでエンジニアとしてトランスフォーマーを作らねば。