忘れかけた夢の話
フェリーが真っ二つに割れてしまった。あの時の自分の気持ちは「神様、どうか助けて!」だった。いつもはお祈りしてないくせにこういう時はお願いしちゃうんだ。補強のクモ糸が切れてしまったときは「死んだ」と思った。自分の手で繋いだ時なんか何考えてたか思い出したくもない。とにかく助けなきゃいけないって思ってた。 折角の僕の頑張りはスタークさんには伝わっていなかった。彼にとって僕はちょこちょこわめく子どもだったんだ。この前みたいにスーツをWiFiで動かしてるのかと思ったら中身が出てきた。いつも通り黒のスーツを着こなしてる。かっこいいと思う反面、なんで認めてくれないのか嫌な気持ちになった。 「いいか、14歳のガキを仲間に入れると知った時。みんなは笑ったさ、そんなガキを入れるのかってな!」 「でもコビンツもいた」 「大人が話してるんだ!! いいか、君とコビンツは違うんだ。そもそも戦う理由が! 異なる! 君のように隣人のヒーローではないんだ」 「僕だってニューヨークを守るために戦ってる!」 スタークさんは首を振って僕を見つめた。その目はメイおばさんと同じ目だ。わがままいう子供を見つめる目だ。 「あの事故で人が死んだら君の責任になる。そして、君が死んだら私の責任になる」 「……」 人が死ぬ事の責任。そんなのまだ分からないのに、なんでスーツには即死モードなんてつけたんだよ。言いたかったけど我慢した。またワガママに思われるし、補助輪モードを外したってバレたら……。いや、きっとバレてるか。 「そういやコビンツはどうなったの」 ちょっと聞いた言葉にスタークさんは体を固くさせた。キャプテン・アメリカたちが戦犯になって逃げたのは知ってるけど同じアイアンマンチームのコビンツはどうなったか知らない。いつの間にかあの場から居なくなっていた。 「……。私が今こうやって叱りにくる理由が分かるか」 「い、いえ……」 「未成年を死なせたのはこれが初めてじゃないからだ」 驚きで声が出なかった。まっさきに頭に浮かんだのはさっき話に出てきたアイツだった。すごく仲が良いわけじゃなかったけど、ネストを止めたいからって言って必死に努力してたのを知ってる。恐る恐るスタークさんを見ると僕よりも悔しそうな顔をしていた。泣くこと無理やり我慢してるような顔だ。 「………。君にはあえて話さなかったが」 「はい」 「コビンツは亡くなったんだ」 想像していたことが現実と知ったショックががつんと頭にぶつかった。頭の中身だけぐらぐらと揺れて自分自身は全く動けないそんな感じ。 「そのせいで、ネストは発狂した。奴は戦犯だったが精神異常とみなされた」 「で、でもネストはキャプテンアメリカたちと脱走したって聞いたのに!」 「……。これ以上は君には話せない。スーツを返しなさい」 「ッ! 僕が! 僕が子どもだからスーツを取り上げるの!!?」 「違う」 ーーこれ以上、誰かが悲しまないためにだ。 スタークさんの誰かが誰のことを指してるのか僕にもわかった。僕は仕方なくスーツを返すことにした。スタークさんが買ってくれたTシャツとジーパンに着替えてスーツを渡す。アイアンマンの背中に乗って送ってくれるのかと思ったけど普通にタクシーに乗らされた。 スタークさんがネストのことをすごく大事に思ってることはアベンジャーズの中でも有名だった。だけど僕はネストはあんまり好きじゃなかった。トランスフォーマーはかっこよかったけど、そのかっこよさは映画の中だけであって実際のアレはあんまりだった。 僕はネストのために我慢することはない。僕は、ヒーローとしてニューヨークの人々を守る。それだけなんだ。 ・ ・ ・ 廃工場で僕はリズの父親にやられてしまった。バルチャーがリズのためにお金を稼いでるとしても、あれは止めなければいけない。僕はヒーローとしてここに来たのにあっけなく瓦礫の下だ。 痛くて痛くて。あのスーツを返した自分もネストも恨んだ。声を張り上げても反応してくれる誰の声も聞こえない。頭が朦朧としてきた。このまま死ぬのかと思った時、誰かが僕の前に立った。 「スパイダーマン」 「だ、誰!!?、 僕のこと助けて! それか! それか、スタークさんに連絡を!」 「君は愛すべきニューヨークの隣人ではないのかな」 「そんなこと言ったって! こんなの、僕は……」 「望んでないかどうかは関係ないさ。要は君がヒーローとしてまだやる意志はあるのか、だ」 声に聞き覚えがある。ゆっくりと顔を上に向けると足までしか見えなかったけれど、その奥にいる機械のそれは……。 「どうだ?」 「やってやる! リズのためにも! 自分のためにも! あいつは、止めなきゃ!」 「よく言った」 ガコリと瓦礫があがった。メタルフォルムだけど所々に白と黒が塗られている。どんな車をスキャンしたんだろう。気になる。男はにこりと笑っていた。 「アイツはトニーの積荷を狙ってる。いけるか」 「行きます!」 「それなら頑張れ」 突然背中を掴まれたと思ったら一気に放り投げられていた。まるでメジャーリーガーが投げるボールだ。バルチャーの足に必死で糸を絡ませる。 風に煽られる後ろであの巨体が動いている。しっかと目に焼き付けた。スタークさんに伝えなければいけない。 ・ ・ ・ スタークさんに呼ばれた理由はアベンジャーズへの加入の話だった。スタークさんの目は真剣だ。きっと本気なのだろう。でも僕は入らないことに決めた。今まで通りニューヨークにいる人々を助けるだけで充分なのだ。 去り際に僕は、発表のため集めたメディアに困らされるスタークさんにいいことを教えてあげた。 「スタークさん」 「なんだ?」 「#名前1#さんが、あなたの名前を呼んでいました」 「ーーは、」 「アベンジャーズに加入するのは僕じゃなくてもいいんじゃない?」 スタークさんの驚いた顔は面白かった。後ろでハッピーもビックリしてる。そりゃそうだよね。いつも自信満々なスタークさんだもの。 横にあった扉から出てきたポッツさんは怪訝そうな顔をしている。どうしたの?と小声で聞いてきた。だから僕は楽しそうに返してやる。 「#名前1#さんがニューヨークに来たんだよ!!」 美人さんの顔はいつだって美人のままだった。 ・ ・ ・ スタークさんから回収されていたスーツを受け取った。これは君のものだというメッセージは紙袋に直接書かれていたけど中身にはスーツと共に#名前1#さんは死んだはずだということが書かれた手紙が入っていた。書いた人は勿論スタークさんじゃない。恋人のポッツさんだ。 ミズーリ州というアメリカの田舎でトランスフォーミウムが検出された。そして横には男の死体が。宇宙物質に包まれていて誰か分からなかったらしいのだが、最近それが#名前2#・#名前1#じゃないかと言われてる。アベンジャーズのことだから宇宙物質だって崩せるんじゃないかと思ったけど、スタークさんは「もしかしたら#名前1#かもしれない」って思って何も出来なかったらしい。 ポッツさんは締めくくりに「トニーはまだ受け止めきれないみたい」と書いていた。僕だってあれが本当に#名前1#さんなのか分からない。でも、あのトランスフォーマーは本物のはずだ。あーあ、このスーツをあの時着ていれば録画だって出来たのに。 過ぎたことはあんまり言いたくないけどちょっぴり文句を言いたくなった。僕はこれからも大衆のためのヒーローであり続けるつもりだけど……。#名前1#さんはどうするんだろう。なんとなく気になってしまった。