カオスティック・スマイル

 2人ずつ戦いはじめた。アイアンマンとキャプテンが。ローディとサムが。ブラックパンサーとバッキーが。ナターシャとクリントが。ヴィジョンとワンダが。スパイダーマンとアントマンが。#名前2#とコビンツが。  #名前1#はベンジャミンに空中でワンダを助けろとだけ言ってコビンツと対峙した。薙刀と鎖鎌。奇しくも東洋的な武器を持ったふたりは叫びながら刃を交わした。伸ばされた薙刀を鎖鎌がはね上げてコビンツの体が一気に#名前2#の中に入っていく。半身になった体から突き出された肘が#名前2#の柔らかな横腹に叩き込まれた。が、#名前2#もそれで終わることは無い。コビンツの首をつかんで外に放り投げた。 コビンツはHBFSで自分を空中に一旦引き止めてからコンクリートの地面に着地させた。  自分の能力の特性をよく分かっている。#名前2#にはそれが嬉しくもあり厄介なことでもあった。トランスフォーマーもトランスフォーミウムも使わないで戦うことに自分は後悔していないが、それでも「キツい」と感じる。  コビンツもまた#名前2#と戦うことに疲弊を感じていた。能力のトレーニングや他を相手する方がマシだ。今の自分の体力は通常時の3分の1ぐらいしかないだろう。それに、体に無理矢理に負荷をかけているこの状況は芳しくなかった。口の中にじんわりと血の味が広がっている。毛細血管が切れているのだ。頭もぐらぐらとしていて動かない。戦いはもう終わりに近付いている。  意を決してコビンツは#名前2#へ駆け出した。手負いの獣が家族を守るため、一矢報いるため、敵へ駆け出すように見えた。こいつを逃がさない。そんな強い意志が感じられた。#名前2#は目を閉じた。コビンツのそんな姿を見ていられなかった。感覚を研ぎ澄ませて鎖鎌がどこに来るのかを感じ取る。右斜めから飛ばされた鎖鎌を弾き飛ばし、鎖をつかみ一気に引っ張り#名前2#は薙刀の石突をコビンツの腕に当てた。ビリビリと腕が痺れてコビンツの手から鎖鎌が落とされる。それでもコビンツは諦められなかった。#名前2#を止めるという考えが彼から消えていた。こんな目にあったのは#名前2#のせいだ、という考えが頭を支配して怒りに身を任せて#名前2#に飛びついた。  首に噛みつき、爪を肌にくいこませる。本物の獣のような姿に周りのヒーローたちも#名前2#たちを見つめ始めた。  どうして#名前2#はその攻撃を受けているのか。それが分からなかった。ただ言えたのは遠くから見ていると、#名前2#は泣いているように見えた。 「コビンツ」  #名前2#の声は聞こえなかった。ただ殺さなければ、と思った。口の中に自分のものでない血が感じられること、爪に血がとくとくと感じられるのもまた面白いように思っていた。  #名前2#は何を思ったのか、コビンツの体を殴りつけると薙刀を少年の首にあてた。薄皮がやぶけ、ぷつりと血が溢れてくる。#名前2#は無表情でコビンツは歯を見せて獣のように荒い息をたてていた。 「お前のことが憎いよ、コビンツ」 「なんで、お前が生き残ったんだろうな」 「ヒーローになれるのは、ヒーローを知ってる人だけだぜ?」 「お前はとてつもなく、傲慢だったらしい」 「お前を、俺は許せないよ」  唐突に涙がコビンツの視界に入ってきた。泣いている。#名前2#が、泣いている。はっと見てみると#名前2#は泣いてなどいなかった。薙刀から、#名前2#の悲しみが伝わっていた。コビンツへの悲しみ、ウィンターソルジャーとヒドラへの怒り、自分への失望が折混ざって薙刀に伝わっているのだ。 (俺のことが許せない。) (どうして俺は助けられなかったんだろう。) (ヒーローになれるって心のどっかで思ってたんだ。) (俺はとてつもなくごう慢だったらしい。) (俺のことを許すなよ。) (ごめんなさい、オリビア。) (なんで、こんな世界に生んだんだろう。)  #名前1#はきっと自分の顔を見たことがないのだろうな、と思った。アベンジャーズのみんなも見たことないなって思った。こんなに悲しそうに苦しそうに戦っている人を、休ませないなんて。ヒーローって、もっと子どもたちの憧れる職業であるべきのはずだろう? なのに。なのに、だ。 「#名前2#さん、もう戦わないで……」 「コビ、ンツ」 「もう、泣かないで……」  コビンツの言葉を聞いた#名前2#は薙刀を捨てて慌ててコビンツからどいた。コビンツは力を使わずに地面に落ちて、ぐしゃりと血が溢れた。何とか首をあげると、#名前2#は焦ったように周りを見回した。そしてトランスフォーマーの言葉を喋った。なぜコビンツにもその言葉が聞こえたのか分からない。でも聞こえたのだ。 『戦いを、止めよう』  #名前2#は戦いを止めなければ、と本気で思い始めているらしかった。  ザラザラとトランスフォーミウムが動き出す。戦いをやめよう、と#名前2#がしゃべっても引き離しても止まらなかった。  正義と正義の戦いといえばこの戦いをすることが許される? そんなのは詭弁だ。コビンツも#名前2#も今戦って分かったことがある。この戦いは不毛だ。腹を割って話せばいいことを、わざわざ周りを巻き込んでまで戦いに身を投じさせている。哀れだった。  キャプテンとバッキーがクインジェットに乗り込んだ。その行動が正しいかどうかは#名前2#もコビンツも分からない。けれど、皆によくない結果をもたらすだろうことは分かった。  ガンジーの言葉が#名前2#の頭をよぎった。戦争に敗北も苦痛もつきものだ。この内戦には必ず敗北するチームがある。そして、苦痛を味わう仲間が現れる。クインジェットを追いかけてアイアンマンとウォーマシンが追いかける。それを止めるためにサムも空を駆け抜けた。ヴィジョンもワンダをすり抜けたら向かうだろう。  オリビアを亡くしてから、仲間に対して嫌な予感がするようになった。ハンクの暴走に、トニーへの確執を抱いていた双子に、ベンジャミンを殺そうとした自分。どれもが「嫌な予感」によって突き動かされた結果だった。今また、それが起きている。#名前2#はベンジャミンの上にコビンツを連れて乗り込んだ。ベンジャミンは足からターボエンジンを発射して飛べるようにしてある。下から誰かに声をかけられたが全てを無視した。  誰かが死ぬかもしれないという状況が怖かった。自分は死んでもいいと思えるのに、仲間に対しての妥協は許されなかった。おかしな性格だと自分でも思う。だけど、その性格じゃないとトランスフォーマーとはやっていけない。自分とよく似たコビンツを#名前2#はずり落ちないように抱きしめた。追いかけた先に見たのはゴチャゴチャと動く仲間たちだった。  空中戦は#名前2#はあまりやらないし、ロボットスーツを扱っているとその力を過信しがちなことがある。力はコントロールが難しい。加減することも、目標を定めることも同様に、だ。  ヴィジョンの力は額にはめた石のお陰である、と言った時彼は笑いながら「私は私の意思で力を使っています」と言った。今思うと、それは彼が平常心を保ててこそだったのだ。  サムを狙ったはずのビームは、サムが避けた。当たり前の行動だったし、当たった時はサムは死んでいたかもしれない。彼の装甲は翼なのだし、スーツを……着ているわけじゃない。でもその直線上にはウォーマシンのローディがいた。味方からのフレンドリーファイアは早々にあるもんじゃない。ましてやあのヴィジョンからなんて。ローディが落ちるのを見た。エンジンがきかなくなり、黒っぽい煙があがり、落ちていく。 『ローディを助けなきゃ』  命令ではないそれにベンジャミンは何も言わずに動いていた。落下地点であろう場所を見極めて、アンカーを飛ばし自分の体をそちらに引っ張ったのだ。ターボエンジンの威力もあってベンジャミンはすぐにその場へとやってきた。だが嫌な予感はそれだけで終わらなかった。ヴィジョンのビームがベンジャミンたちにも向けられたのだ。  ヴィジョンの行動は責められない。誰だって敵だったやつが近づけば警戒する。自分もきっとそうする。ベンジャミンが自分の体を盾にしたとき、ちょうどローディの視線が#名前2#と交わった。 「死にたくない」  そう言われたことを刹那に思い出す。軍人の彼は遺書を書いてある。いつ死んでも構わないように。死の恐怖を乗り越えていつも戦っているのだ。#名前2#は彼のような勇ましい軍人としてのヒーローを知らない。 「ローディ!!! 死ぬな!!」  #名前2#の薙刀がトランスフォーミウムとして崩れてクッションのように地面に浮き上がる。  コビンツもまた、叫んだ。仲間に引き入れてくれた彼を助けなければと思っていたのに体が動かなかった。だが#名前2#の声ではっと覚めた。動けば彼は助かるかもしれない。 「HBFS!!」  力は微弱だったがそれでも致命傷を避けるための頭はぐん、と持ち上がった。だが元々コビンツの能力は鍛えられていないし#名前2#のトランスフォーミウムも少ない。ローディの体は地面に打ち付けられた。  すまない。サムの謝罪はその一言だったが、言葉には罪悪感と後悔とが混ぜこぜになっていて彼だけを責めることはできなかった。戦争にはこういうこともある。ただ、神様はターゲットとしてローディを選んだ。助けるために全力を出した。死ななかった。それだけでも成果だ。#名前2#はヴィジョンに何も言わなかった。  同じように、トニーもヴィジョンもベンジャミンを逃すことに何も言えなかった。彼は#名前2#に言われてコビンツを自分の中に閉じ込めてどこかへ消えた。戦いにはもう参加させない、という#名前2#の考えに強くは言い返せなかった。12歳の少年と#名前2#がいなければ動くことの出来ないトランスフォーマー。誰も気に止めないし、ヒーローとして祭り上げることもない。  警察のサイレンが聞こえる。#名前2#は笑った。 「よかった、これで戦いが終わるんだな」  誰も笑えないこの状況で笑ってみせる#名前2#はこの時既に精神を危うくしていた。元からヒーローに向かない男がよく持ったと褒めるべきだろう。全力で向き合っていたし、スパイの自分もギークの自分も忘れてよく頑張っていた。  ネストこと#名前2#・#名前1#には休息が必要だ。自分を責めなくてもいいということを教える人が必要だ。  彼には、考え直すための時間が必要なのだ。