彼の標ぼうするアンチ・ニヒリズム
アントマンと名乗るヒーローの本名はスコット・ラングというらしい。スコットという名前に#名前2#は少しだけ苦い顔をした。 「……あー、俺、何か悪いこと言っちゃった?」 「いや。前の相棒(トランスフォーマー)が同じ名前だっただけだ。気にしないでくれ」 そう言った#名前2#の顔はまるで気にしないでいられるような顔とは言えない。クリントに頭を叩かれて#名前2#はなんだよ、と返した。ん、と顎を向けられてスコットを見ると彼は子どものようにキラキラした目で#名前2#のことを見つめていた。 「わお! じゃあ君がネスト! トランスフォーマーを作った人なのか!!」 「あ、ああ」 「握手してくれるか!?」 「構わんが」 たはー、と笑いながら握手してぶんぶん振り回すスコットに#名前2#は笑いだしそうになった。まるで本当の子どものようだった。久々にこんな笑顔になれた。 「ははっ、ありがとうラング」 「スコットでいい、って言いたいけどトランスフォーマーと被っちゃうかな?」 「いや。今のトランスフォーマーはベンジャミンだからな。ありがたくスコットと呼ぶよ。……ありがとう、スコット。久々に笑えたよ」 そう言った#名前2#の顔はとてつもなく綺麗に見えてスコットは握手しただけなのになあと居心地悪く感じながらも照れていた。 基地の近くに爆弾を置いてまずはヴィジョンを誘き出す。抜けた間にクリントがワンダを連れてくる。この算段で困るのはヴィジョンはおそらくすぐに陽動に気づくこととワンダが外に出る決心が出来るかということだった。だが後者に関してはクリントは必ずできると断言した。 「ウルトロンの時も思ったがあいつは男よりも肝が据わってるからな。絶対に来る」 「……わかった。一応、対ヴィジョンで壊されると嫌だからな。トランスフォーミウムで作った弓だが棒形にも変えられる。飛び道具にはならんが使いやすいだろう。壊れても元に戻るしな」 「ヒュ~。さすが#名前2#だ」 「茶化すな」 手筈通りにやれよ、とクリントを送り出して#名前2#は爆弾をセットした。そしてトランスフォーミウムを森にばらまくと一応隠れておく。だがヴィジョンも進化しているのでこれで何秒もつのか分からない、おそらく1分もてば神様に感謝できるレベルだ。 危惧したとおりヴィジョンは早々にアベンジャーズの基地に戻っていった。だが、こんなにも離れたところまで響き渡るほどの何かを壊す音がして#名前2#はワンダが力を使ったのだと確信した。クリントに持たせていたトランスフォーミウムに呼びかけると大丈夫だ、という返事があった。横からワンダが誰と話してるの?と聞いているのも聞こえる。 「そっちに迎えにいく」 ビークルモードからロボットモードになったベンジャミンは長距離の移動で疲れて眠っているスコットと#名前2#を抱えてクリントたちのもとにタイヤを滑らせて走ってきた。 「#名前2#…!」 「ワンダ、久しぶりだな。また戦うのか?」 「ええ。逃げていたって仕方ないもの」 「男前だな、お前は」 この中の誰よりも、という言葉は口には出さなかった。 とある空港の立体駐車場でスティーブたちと待ち合わせていたらまるで古い型のフィアットがぷすぷすとやってきた。#名前2#たちも白いバンに乗っているがこの車の組み合わせは異様だった。 初めに車を降りたのはクリントだった。 「キャプテン」 「出来れば呼び出したくなかったが」 「水くさいぞ。それに借りもあるしな」 ワンダも一緒に降りて行動する時だわ。と頷く。スティーブの#名前2#は?という言葉に#名前2#はヒラヒラと手を振った。生憎と車から降りるのは面倒なほどに運転が疲れてしまったのだ。 「例の新人は?」 「乗り気だったよ」 がらり、と後部座席のドアが開いてラングが外に出された。みなと挨拶しながらひとりひとりの顔をじっと見る。本当にヒーローが好きなんだなあと感心した。 「僕らは無法者になる。つまり、警察に追われるってことだ」 「別に。慣れてるよ」 スティーブの忠告にスコットは軽く返した。まるで捕まったことがあるかのような口ぶりだったが誰も詮索はしなかった。 「もう行かないと」 「ああ。下にヘリを待機させてる」 と、そこにアナウンスがかかった。ロシア語で何を言ってるか分からない。 「空港から避難しろってさ」 「トニーだな」 こんなに金のかかることをやれるのはトニーだけだ。#名前2#の言葉にほとんどが頷いた。トニー・スタークの財力はそれほどにすごい。 「ていうか、ベンジャミンは飛べないのか?」 「ベンジャミンは#名前2#がいないと操作出来ないからな。だが、この通りスタークたちの追手がある。行かせられるのはおそらくキャプテンとあんたの友人だけだ」 クリントの説明にスティーブは納得して衣装を着替え、各自の配置に準備した。 ヘリに1人、近づいたキャプテンアメリカにアイアンマンたちが集まってきた。ウォーマシン、ブラックパンサー、ナターシャ、そして新しく勧誘されたのかスパイダーマンが。まさかの昆虫をモチーフにしたヒーローが今回両方集まるとは。ベンジャミンは笑うイメージを#名前2#に送った。それを見て#名前2#も笑いだしてしまう。 「おい、#名前2#、何笑ってんだ」 「す、まん…。サム…」 無理に笑いを止めようとしてお腹がひきつった。さすりながらキャプテンを見ていたらやっぱり笑いだしそうになって必死に呼吸を止めた。 「見つけたぞ。第5格納庫北にクインジェットがある」 サムの声がトランスフォーミウムを通して聞こえてくる。キャプテンが手を挙げてスパイダーマンの糸で捕まっていた両手をクリントの矢でやぶかれる。 戦闘開始の合図だ。 まずは挨拶がわりの1発にアントマンがキャプテンアメリカの盾から飛び出てスパイダーマンを殴ってみせた。 「駐車場に2人、1人はマキシモフだ。僕が行く。ローディ、キャプテンを頼む」 「ターミナルにウィルソンとバーンズだ」 「バーンズは私が!」 混戦が、始まった。糸を出そうとするスパイダーマンの行先をベンジャミンが襲う。 「わあ、トランスフォーマーだ! 僕、この人のファンでもあるんです!!」 「それはありがとうなっ!!」 ベンジャミンの肩から飛び出た#名前2#の薙刀がスパイダーマンの肩を襲った。わわわ、と慌てながらも両手首から出した糸をターミナルの柱にくっつけて空中を浮遊する。 「コビンツくん! 出番だよ!!」 #名前2#はその名前を聞きたくはなかった。頭が固定される感覚。飛び込んできた小さな体。ごふりと腹が逆流する感覚。 「#名前2#さん! バーンズを渡さなきゃダメだ!」 J・T・コビンツは2年たった今でも昔と変わらない身長だった。 J・T・コビンツの能力はHBFSと名付けられた。アイアンマンに付けてもらい結構気に入っている。今回の仕事はあくまでもキャプテンたちを止めることだ、とアイアンマンに言われてコビンツはちゃんと「#名前2#を傷つけずに止めること」と理解した。能力的にはスーツなどはいらないし、コビンツも嫌がった。すばしっこく動けるのは特技であるし、小さな体だと色んなところに潜り込める。ベンジャミンも気づかない、と笑ったためにスーツは見送られた。 代わりに与えられたのは長い鎖のついた鎖鎌だった。鎖を固定すればコビンツのみなら動けるし鎖鎌飛ばせなくとも空気を少しずつ固定すれば動かせるだろうというアイアンマンのアイディアだ。しかも高性能なことにこの鎖鎌。ボタンを押すと槍に変わるのだ。#名前2#から棒術を習っていたコビンツとしては願ってもみない機能だった。 ここでトニーはコビンツが実のところオリビアの相棒となる人間だったということを知らかった。そして#名前2#が設立した孤児院で助かった2人のうちよ1人だということも知らなかった。ローディから言われたから、それだけで信じきった。だがそれでもコビンツは構わなかった。#名前2#を止めなければいけないと信じていた。最初の目的はウィンターソルジャーにオリビアを殺した理由を聞き出して謝らせることだった。なぜか復讐しようなどとは思っていなかった。深い悲しみと絶望は怒りには転じなかったのだ。なのに。#名前2#がウィンターソルジャーを助けるような動きをしていた。そこにコビンツは衝撃を覚えたし、#名前2#が悪いはずがないという思い込みもあった。なぜならば#名前2#はオリビアやスコットを作ったヒーローネストなのだから。バーンズは国連を爆破して人を殺す事件を犯した。これは裁かれる事態だ。 コビンツはきちんと理解してきちんと行動に移した。殴った#名前2#はひどく苦しい顔をしていた。 殴られたのをそのまま受け流して#名前2#はトランスフォーミウムに変わったベンジャミンと共に第5格納庫へと向かったがウォーマシンに止められてしまった。 「やあ、ローディに似た誰かさん」 「そのネタは聞き飽きたぞ」 「そうか。残念だな」 くるり、と#名前2#とロボットモードになったベンジャミンが半回転した。後ろに迫っていたコビンツの鎖鎌には#名前2#の薙刀が。ウォーマシンにはベンジャミンのケーブルが対峙した。 「#名前2#てめっ!」 「俺はお前達と戦いたいわけじゃない」 ベンジャミンはそのままウォーマシンを体に閉じ込めて一回転して体を地面に叩きつける。ぐぱりとウォーマシンが出てきた時にはスーツが少しだけ壊れたようだ。 確認していたらコビンツの鎖鎌が#名前2#を襲ってくる。薙刀に鎖が絡みついて引っ張られそうになるが#名前2#が逆に引っ張ると自分の体を固定する。引っ張りあう力にミシミシとコビンツの体は音を立てる。思わず薙刀の力を緩めるとコビンツが#名前2#を空中に放りあげて一瞬だけ固定する。その間に鎖鎌は槍に変身して石突で#名前2#の喉をから腹にかけての一直線をぐにん、と引き裂くように振り回した。 「かハッ…!」 空気が一瞬にして飛び出して呼吸がままならない。咳き込む間にもコビンツが近寄ってくる。 「くそっ! ベニー! 格納庫へ急げ!!」 トランスフォーミウムが#名前2#の体を攫いずずずずとキャプテンとアントマンも捕まえて走り出す。 クリントやワンダ、サムとバッキーも合流した。あと少し。 そう思った時にまだ出ていなかったヴィジョンがビームを発した。地面が割れる。まるでそこから先には行かせないというラインだった。 「投降してください」 ヴィジョンの言葉に合わせてアイアンマンたちも揃い踏みになる。7対8。ただしトランスフォーマーが数えられれば、の話だが。 対峙したコビンツは#名前2#に笑いかけていた。幼い少年が武器を持って笑いながら戦場にいるというのはあまりにも不釣り合いだった。 「どうするキャプテン」 サムの声にスティーブはヒーローの仮面を捨てて答えた。 「戦う」 そして一斉に歩き出す。走り出す。誰も彼もがこの戦いを止める気はなかった。