たくらみを隠したままの沈丁花

「人殺しをしなければ人を救えない」 そんな逆説的な意見に賛同する者は誰もいなかった。 だがウィンターソルジャーの一連のニュースを見て意見を揺らがせる者がいた。男は電話をかけることにした。#名前2#・#名前1#。男は、その名前の人間が本当は何者なのか図りかねていた。 「……#名前2#か?」 「ローディ。今の俺は犯罪者だが電話なんかしていいのか?」 「……うん、今の発言は忘れてくれ。#名前2#に俺は電話していない、これからのは独り言だ。わかったな。……はぁ。元気か?」 「なら俺のも独り言だ。元気ではないがまあまあだ。ヒーローなんて柄じゃないのにやってたことがそもそもの間違いなんだから。これを機に正式に引退を考えている」 引退……。引退? ローディの頭の中に疑問符が浮かぶ。この事件に#名前2#は直接的な関わりがないのに引退してまでヒーローの責務から逃れたいのだろうか。だが#名前2#の口ぶりは前々から考えていたことを打ち明けるような何気ないはにかみがあった。 「君の意見は……あー、かなり強硬的だ。それに、強引で、……」 「頭がおかしい?」 「…すまん」 「いいや。俺も自分の頭がおかしいのは分かってるんだ。何度もトランスフォーマーたちを殺すハメになったからな。……もう、心が折れそうだ」 そんな会話をしてローディは#名前2#のいう人殺しとは被害者たちはテロリストたちではなく、トランスフォーマーたちのことを言っていたのかと気づいた。トランスフォーマーなる金属生命体が人間と同等に見ているのだ。そして、事件の度に誰かを失ってきた。スコットだったり、オリビアだったり、ベンジャミンだったり。ベンジャミンは奇跡的にまた蘇ったがもう喋ることは出来ないらしい。 「おい、ローディに似た誰か! 大丈夫か?」 「あ、ああ……。すまん、すこし考え事をしていた。っていうか、名前が長すぎるぞ」 「電話の最中にか? はは、ローディに似た誰かは面白いことを言うなあ。名前も面白いのに」 #名前2#は笑いながらそれでもローディの説得の言葉を聞かないようにするためか「俺は本物のローディやトニーたちと対立しなきゃならない」と告げた。 「……ああ、そうだろうな。薄々だが、そう思ったよ」 「遠慮しなくても、俺が対立するだろうことはあの時にすぐ分かったことだろう」 「……すまない」 「いや、謝らせたいわけじゃないんだ。ただ、……何でもない。ひとつ、分かって欲しいのは俺は何もウィンターソルジャーを守るためにソコヴィア協定に署名しないんじゃないんだ」 「ああ、……お前は、…大丈夫、ちゃんと、分かってる」 「……ありがとう」 #名前2#との電話が切れてローディは体をソファーの中にずっぽりと沈めた。スティーブとサム、そして#名前2#の逮捕。ティチャラ国王の独断。ウィンターソルジャーの暴走。そしてスティーブたちは逃亡した。今、問題を起こさずに待っていられるのはアベンジャーズの基地に残されたヴィジョンとワンダのみ。だが、その2人もこの機会に動き出すだろうという予測があった。キャプテンアメリカが逮捕され、逃亡したとあっては動かない訳が無い。誰がどちらに着くかは分からないが、おそらく混沌極める争いとなるだろう。 これは、ポリシーの戦いだ。どうやって人を救うかという、そんなポリシー。 ピコん、とローディのモバイルにテキストが届いた。それはかつてスコットが使っていたアドレスで、ローディは念のためウォーマシンで確認してみるとウイルスやそういった類はなさそうだった。 「……」 開くと、そこには歯のかけた少年がにっこりと笑う写真が添付されたテキストには『僕は#名前2#を止めたい』と書かれていた。最後にはオートグラフもある。 「J・T・コビンツ……」 写真の背景は#名前2#が設立した孤児院の荒れ果てた姿だった。 「クリント? 車? ああ、ああ、……わかった。すぐそっちに向かう」 クリントとの電話にベンジャミンは心得たようにエンジンをブロロと大きく鳴らして走り出す。行先はクリントの隠れ家だ。水上スキー出来ないのぉ!?と叫ぶ娘達にごめんなと謝るクリントを見て#名前2#は家族を置いてまでのことなのか疑問だった。この戦いに正義も悪もないが、ここでヒーローとして出てくることはソコヴィア協定の戦いの波に組み込まれることを指す。#名前2#はそれを慮って「……クリント、本気なのか?」と聞いたのだが、 「お前にそれ言われると腹立つからやめろ」 なぜか解せない言葉を言われた。俺がなにかした訳でもないのになあ。と#名前2#は頭をひねる。 「ソコヴィア協定とかは俺は気にしない。引退して長いんだ」 「俺も引退してるんだが」 「トランスフォーマーがいる限りお前はヒーローだよ」 そーゆーものか。#名前2#は納得して車を発進させた。クリントの方にかかってきた電話でアントマンというヒーローを捕まえてきてほしいとのことだった。「アントマン……?」 「ああ」 「……ああ、ジョークか」 「いや、本当だ」 さすがにどうかと思うネーミングセンスだった。クリントも頭を振って「笑ってやるなよ」と釘を刺した。続けて、俺も笑ってファルコンに怒られた後なんだと言う。 「なんだ、お前もか」 「アントマンはなあ。ヒーローとして強そうに思えない」 「だがクイーンのスパイダーマンもなあ」 「は?」 クリントの丸くした目に#名前2#はなんだ知らなかったのかと驚いた声を出した。これでも元スパイ。アメリカの情勢についてはそれなりにベンジャミンに情報を集めさせている。だが#名前2#のネストというヒーローネームも正直意味がわからない。トランスフォーマーという映画を見ていなければ伝わらない名前なのだ。こんな不毛な会話をしていても無駄だと判断したのはクリントだった。 「……。お前、この戦いで今度こそ死ぬ気じゃないよな?」 「………」 クリントはずっと気になっていた。ソコヴィアでの戦いでベンジャミンも1度死んだ時の#名前2#は今まで以上の死にたがりで自分の体の消耗などないような素振りで確実に#名前2#という男を殺しにかかっていた。では今は? クリントの質問に#名前2#は何も答えなかった。 「こんにちは! 僕、コビンツ!」 トニーに一言伝えて孤児院にやってきたローディは少年の幼さに唖然とした。12歳と言ったが彼の体はあまりにも小さく細かった。だがコビンツはにこにこ笑って「#名前2#さんを止めたいんだ」と繰り返す。 「……君は、」 「僕はJ・T・コビンツ。#名前2#さんに能力を認められてね。大きくなったらアベンジャーズに加入させるって言われてたんだ」 「能力?」 「うん。あ、僕アベンジャーズに今すぐ入らせてほしいとか言わないよ! 僕はもうヒーローにはなれないしね」 まだコビンツのことを信じきれないローディはウォーマシンの片腕のスーツを動かそうとするが何かに接着されたように動いてくれない。驚き焦ると同時片足が地面にくっつけられてしまう。 「お前ッ…! やはり、敵か!!?」 「え、うあ、違うよ!! これ、僕の能力なの!!」 パッと拳が開かれるとローディの体がまた動き出す。つんのめったローディは転けそうになるのをギリギリに止まってコビンツをようく観察した。 髪の毛は何とか切りそろえられているがボサボサで、服はもう何年も着古したのかぼろぼろで、ただ目だけが輝いていた。キラキラと、ローディに会えて嬉しがる子どものように。 「僕の能力はね、空間に物を固定する能力なの。でも、この能力は僕の体より小さなものじゃないと出来ないんだ。それに、僕の体重より重い力がかかると取れちゃう」 今もね、ギリギリだったんだ。と苦笑いするコビンツにローディはなぜか#名前2#と似ていると感じた。自分の力をまるで出来損ないだという顔が#名前2#と似ていたからだろう。そんなことない、と皆に言われてもこのタイプは信じられない。そのくせ、自分で出来ると思ったことには真摯にいささかヤケクソにも見える態度で立ち向かう。死に急いでるように見えても仕方ない。この小さな能力者も#名前2#のようになってしまうのだろうか? そう思ったらローディは彼を助けなければと思ったし、戦いに引きずり込んではいけないとも思った。 「僕、#名前2#さんを止めなきゃいけないんだ」 「……」 彼はもうヤケクソのように#名前2#を止めることに頭を使っている。もう止めても無駄だろう。わかったと、ローディはついそう口に出してしまった。その後のことを知った時、ローディはこの選択をずっと後悔することになった。