贈られた花はまだ枯れない

 バッキー・バーンズはソコヴィア協定署名式爆破の犯人じゃない。それを電話で受け取って、#名前2#は仕方なくヒーローとしてではないがヒーローの仲間たちを助けることにした。#名前2#の相棒であるベンジャミンはもうしゃべれなくなったが、意思疎通はできる。#名前2#との何かの繋がりのようなパスがあるらしく、#名前2#が思うことにベンジャミンは反応してくれるし何かを伝えてくることもある。まるでペットと飼い主のようだ、と#名前2#は思っていた。  電話でバッキーの居場所を聞いてまずはそこに行くことにした。盗聴されているかもしれないと考えたため、途中からベンジャミンの回路を使って。  おそらく捜査線が張られているので#名前2#はそんなに近くまでは行けないと思っていたのだが、ベンジャミンがステルス機能でヘリコプターになってサムのもとにやってきた。 「#名前2#、助かったぜ! バッキーは敵じゃない」 「ああ、分かってる。それで、あの戦ってるやつは誰なんだ?」 「分からん。敵だ」 「……そうか」  空中の中では声はほとんど聞こえないのにベンジャミンがケーブルで糸電話のように言葉を伝えてくれていた。#名前2#たちの下ではバッキーが逃げていて、それを黒いスーツの敵が追いかけていて、スティーブがその2人を追いかけていた。  正直これで黒いスーツの敵を倒しにかかっていいのか心配になるが容赦ない強さに仕方ないと割り切った。 「! バッキーが道路に降りたぞ! #名前2#、先に行け!」 「わかった!」  立体交差している道路の隙間からベンジャミンがトランスフォーミウムに変わって地面に降り立つ。ずずずっと金属のこすれる音がして赤と黒のボルボが#名前2#を捕まえながら形成されていく。  猛スピードで車をぬいながらスティーブたちを追いかけていくボルボを見てサムは追跡中ではあるが口笛を吹いた。ヒーローは引退したと言いながら#名前2#のトランスフォーマーを操る技術は未だに衰えていなかった。  スティーブを追いかけるパトカーの前についてスティーブを拾い上げたのだ。  #名前2#は走りながらスティーブをベンジャミンの屋根の上に乗せた。下手に走らせて時間をかけるよりもそっちの方がいいと判断したのだ。ひゅおん、と黒いスーツの敵を追い越す。その際に、黒いスーツの敵が豹をモチーフになっていることに気づいた。それに、このスーツの男。よく見たら……。  ベンジャミンもそう思ったのかべろり、と青いパネルが出てきた。ワカンダ王国に伝わる黒い戦士。その名もブラックパンサー。と、そんなものを見ている合間にもブラックパンサーが車にひっかかろうとしている。 「チッ……! サム! 頼んだ!!」 「オーケィ」  スティーブたちがなにか叫んでいるが#名前2#はそんなことよりもこの事態をどうしたものかと考えあぐねていた。権力に屈するのもいただけないが、ここで捕まるのはやっかいだ。後ろのパトカーの数はさらに多くなっている。それにバッキーは走行中のバイクを奪いまた走り始めてしまった。  ジャパンの曲で聞いたことがある。盗んだバイクで走り出す、というやつだ。まさかあの歌は予言? そんなふざけたことが頭の中に出てきて振り払った。何とかスティーブに追いつかなければ。と思っていたら、ブラックパンサーがまた追いかけてきた。仕方ない。 「キャプテン! 違う車に移れ! ブラックパンサーは俺とベニーで止める!」 「わかった!!」  車を旋回させてビークルモードのまま#名前2#は屋根に飛び上がった。護身用に持っていたコンバットマグナムを構える。  ひどい轟音だった。ブラックパンサーのスーツで跳弾した銃弾が一般人の車や道路の壁にぶつかる。被害が大きくなる、その前に銃を止めて#名前2#は車の外に出た。ブラックパンサーは誰かの車の屋根に乗ってこちらに目掛けて今にも飛び出しそうだ。  薙刀を構え、対峙した瞬間サムがブラックパンサーを捕まえて飛び去っていった。 「サムが、」  その時やばい、とベンジャミンから感情が伝わってきた。なんだ?と聞く前に体の動きが止まった。止められたパトカーから拳銃を持った警官がこちらを睨んでいる。その顔は憎しみに満ち溢れていた。撃たれたのだ、とわかる前には体は麻酔で動かなくなった。ベンジャミンは#名前2#とのパスが切れたことにおろおろとしてそして最後は何も言わないただの車になった。  麻酔が切れたのは護送車で下ろされた時だった。正確には無理矢理体を起こされた。頭を強く車に打ち付けられたのだ。起き上がるとサムが大丈夫か?と手を貸してくれた。 「ああ、すまない」 「……」  ブラックパンサーの中身はワカンダの王子……いや現在は国王のティチャラだった。  彼は#名前2#を横目に見たが何も言わずに車を降りた。バッキーは椅子に拘束されてまるで何かの実験動物のようなボックスに詰められている。移動はもちろん荷台に乗せられて、だ。  対テロ捜索本部、ロス副司令官よ。とシールドの元エージェントが教えてくれた。 「武器は押収して保管する。ああ、預かり証は出してやるぞ」 「? ベニーはどうするんだ」 「君の車か? あれなら動かなくなってそのままザラザラとした金属の破片に変わったからね。念のため、袋に詰めて保管庫だ」 「なるほど」  今回ばかりはトランスフォーマーが物言わぬ存在で本当によかった。ロス副司令官に連れられて歩いていくと作戦本部室のような場所に連れてこられた。ナターシャは事態の責任は私たちがとっている、と言ったのがひどく恥ずかしかった。まるでアンタたちは子どものように暴れるだけだと言われているようだった。  作戦本部室ではトニーが誰かと電話していた。目がバッチリあって気まずくなる。アベンジャーズの基地での一件以来、トニーからの連絡は全て絶っていたのだ。 「責任って?」 「ロス長官が君たちを起訴しろってうるさいんだ」 「……盾は返してもらえないのか?」 「そもそもあれは政府の所有物よ。ウィングもね」 「だけど、#名前2#のトランスフォーミウムは違うだろ!?」  サムの一言にナターシャとトニーが歩くのをやめた。ナターシャが振り返って、「あれは……そうね。博物館にでも寄贈しておくわ」と嫌味に笑う。舌打ちがもれそうになった。  トイレに行かせてもらえるとは思ってもみなかった。監視付きではあるが頼んで行かせてもらえるとは。手を洗いハンカチで拭いてまた作戦本部室に戻ると、スティーブが呆れたような声で大声を出した。 「おいトニー! 君は正しいつもりでも…」 「悪いか? 敷地は広いしプールとシアタールームもある! 彼女を、守るためだ」 「? 何の話だ」  #名前2#が話に割り込むと2人は押し黙ってそしてなぜか2人してペンを寄越してきた。 「このペンは?」 「ルーズベルト大統領が使ったものだ」 「さっきの話は?」 「トニーが、ワンダを家から出してないって…!」  ふむ、と考え込んで少しだけトニーの弱点をつくことにした。彼は本音などを隠しやすい人間なので、今質問をしても聞きたい言葉は返してくれないだろうと思ったのだ。 「ペッパーはどうしてる? ついこの前、泣いた電話があったぞ」 「……別居中だ。電話の件は…すまない」 「サムは? どこにいったんだ?」 「別室にいると思う」 「……。このペンからどうすればワンダの話に変わるんだ?」  トニーとスティーブは交互に答えたのにその質問には2人は何も答えなかった。 「ワンダは? トニー」  名指しされたのが驚いたのかトニーは肩を揺らしてもそもそと「ワンダはヴィジョンと一緒に本部で大人しくしている」と答えた。 「……。それはどうして。彼女を守りたいって言うのは分かるが……」 「ワンダにはアメリカ市民権がないんだ。それに力が強すぎる」 「まだ子どもなんだぞ!?」 「スティーブ!」  口論になりそうなのを止めて、#名前2#は椅子に座った。今ここでワンダのことを話していても彼女の気持ちを考えないままの対策など意味がない。 すまん、とスティーブが透明なボックス室から出ていく。反対側のボックス室にサムがいるのを見つけた。トニーは色つきサングラスをかけて遠くを見つめる。#名前2#とは話したくないような雰囲気だった。 「……このペンは、署名を促すものだな」 「ああ、そうだ。君も。スティーブも。署名すべきだ」 「……俺は、もう引退したい。なのに、今こうやって巻き込まれている。トランスフォーマーなんか作るべきじゃなかったかもって後悔する。だが、それじゃあダメなんだよな」 「……#名前2#、君は」 「署名することがベンジャミンを救えるならそれでいい。だが、この署名でベンジャミン含むトランスフォーマーたちを危険視して壊さなければならない事態になることが一番怖い。俺はもう立ち直れない」 「そんなことにならないように! この事態が収束したら、修正案を出せばいい!」 トニーが振り向いて#名前2#と目をかちあわせた。力強い目だ。ペッパーはこの目に弱いと言っていた。そして傷つく姿をもう見たくないとも。トニーはそれを分かっていないようだけれど。 「……俺だって署名したいとは思う。だが、ソコヴィア協定にはリスクが大きい」 「一体なんの!」 「独裁体制は弱者を殺すものだ。ニューヨークの一戦で生まれた孤児たちの3割ほどしか俺は救えなかった。ウィンターソルジャーの時にはその子達のほとんどが死んでしまった。生き残ったのはわずか2人。ソコヴィア協定っていうのは、今までの戦いで生まれた戦争被害者である弱者を殺す。俺達がまだ民間である時は俺達を責めればいい。だけど、国連の力には上がない。引き止めるパワーがない」 「………」  トニーには#名前2#の言いたいことが分かってしまった。国連の決定により戦場となった地域は仕方ないと割り切るしかないのだ。たとえ家族が死のうとも、家を壊されようとも、歯を食いしばって耐えるしかない。そう言っているのだ。 「トランスフォーマーは人助けするために作った。トランスフォーミウムは一般人への被害を少なくするために盾にもトランスフォーマーにもなれるように作った。なのに、今は保管庫で袋詰め。これじゃあ俺は信じることなんてできないな」  かちゃり、とペンが机に置かれて#名前2#が出ていく。トニーの顔は沈んでいた。#名前2#の言葉になんの反論も今は出来なかった。弱者を全て助けることなど出来ないのは分かっている。だが、権力に声を荒げられない世界とは……ヒーローのいる意味がない世界だ。  スティーブたちのいる部屋に行くとバッキーが嵌められたんじゃないかという話をしていた。 「私たちに捕まえさせてなんの得があるっていうの?」 エージェントの言葉に#名前2#は少しだけ考えて「もしかしたら、バッキーさえも気づかない爆弾を仕掛けているのかもな」と呟いた。え、とみんなの視線が#名前2#に集まる。 「まさか……!」  今度は監視映像に目を向けられて精神科医にスポットが当たる。あいつか、とスティーブの口が動いた。すると、突然の停電が起きた。どうするんだ、と目で訴えかけるとエージェントは「東棟。地下5階へ」と教えてくれた。 「行くぞ!」  着いた先は先ほどの映像よりも狭く感じられる部屋だった。監視員たちはみなやられて気絶している。ウィンターソルジャーの手口だった。 「……」 トランスフォーマーがいない丸腰でウィンターソルジャーには#名前2#は敵わない。仕方なく#名前2#は囮としてあの精神科医に近づくことにした。 「おい、お前」  何が目的だ、と聞く前に入口に隠れていたウィンターソルジャーに首を掴まれた。意識が飛びそうになるのを必死にこらえて蹴りつけようとするが後ろからやられているため足がうまく動かない。 「#名前2#!」  スティーブのタックルがウィンターソルジャーにヒットした。ゲホゲホと息を吐く#名前2#にサムが手を貸す。 「すまん、サムッ! ぇげほっっ!」 「いいって。それよりあの精神科医を追うぞ」 「ああ、分かった」  ウィンターソルジャーはスティーブに任せるのが一番だ。2人は非常階段をかけ登った。対テロ本部の入口は上にはないが停電してる今は階段を使わないといけない。しかも、階段は途中で途切れているため1度上にあがらないと下に下がれない仕様になっているのだ。悪態をつきながら外に出ると非戦闘員のおそらく事務員たちが恐怖の叫び声をあげながら走っていた。隙間をぬって外に出ると先ほどの精神科医のスーツのジャケットが道端に脱ぎ捨てられていた。 「……逃がしちまったな」  #名前2#は悔しそうにそうだな、と返した。  廃工場にずぶ濡れのスティーブとバッキーを連れてきたのはビークルモードで救急車の姿になったベンジャミンだった。 「ベンジャミン!? またなんで……」  驚いたサムに#名前2#が笑いながら説明した。金属製の左腕を巨大な万力に挟まれたバッキーやスティーブも驚いていたようで耳をそばだてていた。 「実はバッキーの部屋近くに保管庫があったらしくてな。ベンジャミンがどうする?と聞いてきたからドリルにでもなって保管庫から抜け出してこいと命令したんだ。それと、キャプテンは必ずバッキーを救うと思っていたからな。スティーブたちを助けて俺の元に帰ってこいとも命令した」 「なるほど……」  ベンジャミンが喋れなくなったのは聞いていたがまさか会話しないで命令できるようになっていたとは驚きだった。#名前2#は説明を終えると調べたいことがあるから別行動させてくれと願い出た。連絡をとれるように、と車の中に一緒に入っていた薙刀からトランスフォーミウムが3つの三角形の何かを形作る。それはぴこん、とそれぞれの耳にくっついた。 「これがあるとトランスフォーミウムを持ってるやつに超音波で言葉を送れるようになる。何かあったらこれに触れて呼べばいいんだ」