正しい法則の中で死んでいく

 ストラッカーが死んだそうだ。タブレットにはベッドの上で殺された男と血で書かれたpeaceの文字。見切れてはいるがウルトロンらしきヒューマノイドの背中が写っていた。 『なあ、#名前2#』 『ストラッカーの情報についてなら、俺持ってるけど出した方がいいか?』 唖然とした#名前2#は訳すのも忘れてとりあえずベンジャミンの脚を蹴った。 ガチャガチャと機械をとりつけて情報をトニーのラップトップに移された。情報の波をかきわけてたどり着いたのはある武器商人だった。 「……。こいつなら俺も知っている」 「#名前2#も?」 「ああ。ウガンダで少しな」 「……ウガンダ? ウガンダって言ったか?」 「ああ」 トニーとスティーブは目を合わせるた。武器商人の狙いが分かったらしい。疑問符を浮かべた周りにトニーは人差し指でスティーブの盾をさした。 「世界最強の金属、ビブラニウムが狙いのようだ」 ** 武器庫の中は狭い通路が入り乱れ、#名前2#やベンジャミン、ブルースはジェット機の中で待機ということになった。 ブルースは自分がハルクというもう一人をコントロール出来ないからだ、と思ったようだが#名前2#はそんな訳ないだろうとその考えを捨てるように言った。 「ブルースは自分よりも大物と戦ってこそ栄える存在だからだろう。ブルース、とりあえずはベンジャミンのメンテナンスを手伝ってもらってもいいか? さっきの情報のコピーで調子が悪い」 「え? ああ、わかったよ」 メンテナンスの最中、ブルースはちらちらと#名前2#を見つめた。トニーと#名前2#があの空間で何をしていたのか。相棒であるはずのベンジャミンですら知らされていないらしい。 気になるのは仕方の無いことだった。 「トニーとのことは気にしないでくれ。あいつはアイツなりに考えていた」 「……そうだね」 「……すまない。ここにいてくれ。敵が来た」 「残念、もうここにいる」 気づいた時には、なんてことはよくあることのようだ。#名前2#もベンジャミンもハルクの豪腕にジェット機に叩きつけられていた。ジェット機の壁すらも叩き割って出ないだけマシとは思えない。ただひたすらに血が視界をおおって見えづらいと思う程度だ。 「#名前2#!? おい、援護はいけるか!?」 「トニー? ああ、平気だ。すぐに行く。出し惜しみはするなよ」 「わかってるさ」 ハルクを止めるため、ヴェロニカというスーツを作った。性能は今のところ分からない。訓練としてもブルースは力を使うのを怖がっていたからだ。 ベンジャミンを揺り起こし、翼を出させた。市内地はここから遠い。最高速度で行っても5分はかかるだろう。 「トニー、5分だ。5分だけ止めろ」 「もう止めてるさ!」 空を飛びながら連絡をとってみたが、出てきたのはクリントだけだった。 「クリント、何が起きた?」 「ワンダの仕業だ。マインドコントロールされてみんなダウンしてる」 「……。経験者は語るものだな」 「ぬかせ!」 街は壊滅状態とまでは行かなかったが、被害は甚大だった。手から発射されたビームをいなしながらハルクは目の前のイラつく大男をぶっ殺そうと雄叫びを上げる。 「遅かったな、#名前2#」 「ベンジャミンの飛行タイプは面倒だからかもしれない」 キュルキュルとロールが回ってベンジャミンの腹の部分が開き出した。ハルクのために用意された牢屋である。ブルース自身が所望したものだった。 ビブラニウムとトランスフォーミウムを組み合わせた鉄壁とも誇る牢だ。 「ハルクを押さえつけてくれるか?」 「空に引っ張りあげる。キャッチしろよ?」 ガッチリとスーツの腕がハルクの腕をつかみとった。ミシミシとどちらからか音が聞こえ、トニーも#名前2#もこのままではマズイと感じていた。 スーツの出力をターボにかけた。一気に急上昇したヴェロニカの真下に#名前2#は降下しながら陣取った。 「こい!」 バタバタとあばれまわるハルクの周りにはトランスフォーミウムで作られたナノマシンが集まり腕と脚をアンクルのように閉じ込める。 ガシャン!と音を立てて檻がしまった。しかし、腹を上にしていたせいで#名前2#もベンジャミンもここから地上に安全に降りれるとは思えない。 翼のロケットをすべて足元に集中させて方向転換を図った。せめて人のいない方へ。 誰かが#名前2#の名前を呼んだ。 ヴェロニカの手は間に合わず、ビルの合間に突っ込んでいった。 ハルクは暴れ周りベンジャミンの中身はぐちゃぐちゃである。 「……。任務完了だ」 数時間後、ようやくブルースは吾に帰った。周りの惨状を見せないように、と#名前2#がアイパッチのようにブルースの目をふさぐ。 「戻ろうか、ジェット機に」 ベンジャミンの檻から抜け出てな。 ** #名前2#はまたもやベッドの上に横たわることになった。トランスフォーマーと一緒にいるとはいえ、彼の生命力は一般人よりも少し多い程度であり無理に高度の高いところに行けば内蔵は傷つくし、ハルクに殴られれば血も出るし骨折もする。 平気だ、と笑う彼は今のアベンジャーズの中で1番平気そうには見えなかった。 「また怪我を?」 「マリア……。これくらい、なんでもない」 「いつもそうね。何でもないって言って人を遠ざけるのは悪いくせね」 #名前2#は手をひらひらと振ってもういいと示した。マリアはトニーと少しだけ話して通話を切った。 アベンジャーズの面々は今やヒーローではなく、ただの能力集団となっていた。 ハルクの暴走と、止めにこなかったアベンジャーズたち。それを止めようとしたトニーやトランスフォーマーなどはまだ擁護されている方だ。 過激派はさっさと逮捕しろ、死刑にかければいいと口汚く罵り#名前2#はそれらをラジオで静かに聞いていた。 これが世間なのか、と。なにか感慨深いような不思議な気持ちだった。 ネストというヒーロー名はいつの間にか消え去り、#名前2#というただの男がニュースのトップワードとして出てきていることがあまりにもおかしかったせいかもしれない。 ヒーローとは、なんとも儚い存在だろうか。 ** 「クリントの家じゃないか」 「ああ。ここなら誰も分からない」 ジェット機は空を飛び、クリントのセーフハウスへやってきた。妻のローラに子供たち。 ナターシャとは会うことはあるが、#名前2#はあまり会おうとはしない。赤ん坊の頃に会っただけである。 「ネスト! あなた、ネストね!」 「ああ」 「トランスフォーマー作ってるんでしょう?」 窓の外をキョロキョロと見回す子供たちの頭を撫でて#名前2#は笑った。 「君たちが大人になったら会えるよ、トランスフォーマーに」 「本当に?」 「ああ。君たちのことを支えるトランスフォーマーだ」 そっと、小さなキューブを2人に渡して#名前2#は家を出ていく。 「#名前2#?」 「ソー…。マインドコントロールはキツかったか?」 「……。全く」 「そうか、ならいい。勝手に苦しまれたままなのは面倒だ」 #名前2#は皮肉っぽく言うとボルボにトランスフォームしたベンジャミンに乗って走り出してしまった。 ** 『これからどうする?』 『ヒーローをやめるための仕事をする』 『………』 『ベンジャミン。お前を、殺すために作ったことを俺は後悔しない』 『いいよ、別に。そうしなきゃいけないって知ってる。スコットと俺はちがうから』 『……お前は、俺の大事な相棒だ』 『知ってるよ、そんなこと!』 ベンジャミンは最後にこの男に殺されるのならいいと思っていた。トランスフォーマーなどもう作らないと思ったこともある#名前2#がすぐに戻れるとは誰も考えてない。 もちろん、ベンジャミンとて同じだ。 『しぬって、怖いことかな?』 『…分からないが。お前が死ぬまでは俺が一緒にいる』 『そっか。なら、平気だと思う』 ベンジャミンは笑ってカーステレオから曲を流した。 アヴィーチーのWake Me Upである。ベンジャミンを起動させる際に、トニーがジャーヴィスに言って流させたものだ。ベンジャミンにとっての思い出の曲だった。