花盛りのくらやみとあなたの裏切り

「…#名前2#が、いなくなった?」 「ああ。彼はやめた」 ガンッとスーツもつけていないままでトニーはスティーブを壁に打ち付けた。襟を握った拳はわなわなと震え、スティーブをその鋭い眼光で睨む。 「やめろ、スターク」 ソーが合間に入らなかったらアイアンマンのスーツがトニーに装着されて壮大な喧嘩が始まるところだったろう。 ホッとしたような気持ちでトニーを見ると、まだその激しい怒りを全身にたぎらせてスティーブを見ていた。 「どうして止めなかった」 「無駄だった」 「あいつが、死んでもいいのか!?」 「祝宴が終わったら顔を出すと」 「それをそのまま受け取ったのか!? 古い人間っていうのは嘘も見抜けないのか!」 「スターク、やめろ」 「博士は黙っててくれ! ……いいか、あいつには自殺願望がある。3年前のニューヨークの事件、2年前の僕と共闘したときも、去年はスコットもオリビアも死んで言い訳を得たんだよ! ベンジャミンを作ったのなんてただの免罪符だ!! ……あいつは、死ぬつもりだ」 ** ガレキを片付けていた。ベンジャミンもロボットモードとなって巨大な壁の塊や、戦車であったものを山のように積み上げる。 「……何してるのよ、貴方」 「ああ、お前らを待っているあいだは暇だったから」 「……」 「ピエトロとワンダ。ストレッカーには志願したそうだな」 「ええそうよ。…力が、欲しかったもの。トニー・スタークを殺す力が」 ピエトロ・マキシモフとワンダ・マキシモフは安っぽい服に身を包み#名前2#のことを見ていた。 ピエトロの足は#名前2#の正面を向き、ワンダの手は#名前2#のことを洗脳しようと準備されていた。 ーー力が。そう言ってワンダの腕が動いた瞬間、#名前2#はビチリと音をたてて自分の爪を剥いだ。 「洗脳はたいてい痛みによって耐えることが出来る。何故か知っているか? 脊髄の通らない痛みの反射による対処が速いからだ。どんな洗脳も脳に送る電気信号であることに変わりはない」 剥ぎ取った爪を打ち捨て、#名前2#は手をあげた。 途端にピエトロとワンダを大量のトランスフォーミウムが襲いかかり車の中に閉じ込めた。ギザギザのコードが2人をしばりあげ、車のドアはガッチリと絞められる。 ピエトロの脚は重点的にしばられ、ワンダの腕も同様である。 「残念だったな。傷は深くない。痛いだけだ。絆創膏はきちんと用意されている。 君たちに聞きたいことはただひとつ。 ……トニー・スタークを殺すのか?」 「ああ、そうだ! 俺達は、あの悪魔をこの手で殺す! そのために力を得た!」 「……。そうか」 「あんたもどうせスタークと同じだわ。人を殺して人を助ける。スタークを助けるために私たちを殺すんでしょう!!」 「……。殺すことを止めはしない。お前達の人生だ。ただ、俺はトニー・スタークを大事に思っている。だから守るだろう。この命をかけてでもな。お前達が相手を守ろうとするように」 「………」 双子は何も言わなかった。家族でもなんでもない人間、ましてや同性の男。しかもトニー・スタークのために! 目の前の男は命を賭けるというのか。 「俺は去年の今頃、家族を失った。大切な2人だった。俺の力が及ばなくて殺した。もう、そんなことは起こさない。仲間のために俺は全力でお前達にあたる。それだけを伝える」 『ベン、もういい』 『いいのか? 殺しとけば楽だ』 『スタークとの決着が必要だろう。スーパーパワーを復讐じゃない道に使うにはけじめがいる』 『なるほどねぇ』 そっと双子が地面に下ろされた。先程までのコードとは違う優しい感触がしていた。 「Bye」 ヒュオン、と戦闘機にトランスフォームしたベンジャミンが飛び出した。 ** 『なあ、#名前2#ー』 『なんだ』 『スタークのことどうすんの!? ウルトロン、やばそうな雰囲気してたんだけど?』 『……自分でなんとかするだろう。俺は人に手を差し伸べることしかできない』 『めんどうだな、#名前2#って』 そういうなよ、という#名前2#の声をベンジャミンは耳をふさいで聞かないようにした。 戻るとほとんどの人は帰っていて、いるのはアベンジャーズのいつもの面々とマリア、ウォーマシンのローズ中佐だ。 「!! ようやく帰ってきたか、#名前2#!」 「ああ、ただいま」 裏から入ったというのに、スーツを取りにきたらしいトニーに見つかって強く抱きしめられた。 「遅いぞ! …もう、終わるぞ」 「パスできないんだ。終了間際でも出ればこっちの勝ちだろう」 #名前2#の言い分にトニーは泣き笑いしてその頬にキスをする。 「今、ソーのムジョルニアを誰が持てるかやっていた! バートンはあっけなく失敗したぞ!」 「ああ、……」 ロキに聞いたことろによると、ムジョルニアはアスガルドの国王として認められたものしか使えないいわゆる選定する役割をになった武器だそうだ。#名前2#もやれよ、というトニーに曖昧に微笑んで皆の集まるソファーへ行った。 「ああ、お帰り、#名前2#」 「すまないな、キャップ」 「構わないよ。やりたいことは?」 「全てしてきた」 「そうか」 手にスーツをつけた状態でトニーがムジョルニアをつかんだ。が、全くうんともすんとも言わない。 ローズ中佐も一緒にスーツをつけて持ってみるが全く持ち上がらない。クリントを見ると掌を見せて「俺にはサッパリだった」と笑う。 「次はだれがやる?」 「バナー、やれよ!」 「え? 僕かい?」 トニーの無茶ぶりにブルースは苦笑いしてムジョルニアをつかんだ。片手ではダメ。両手で一回やってみたが、やっぱりダメ。 しまいには力を振り絞って叫びながらやってみたがどうにもうまくいかない。 「うがああああぁぁぁ…。あれ?」 ハルク化するんじゃないかと少し緊張していた面々はホッとして周りを見た。ナターシャはグラスをまだ持っており、やる気はなさそうだ。やっていないのは#名前2#とスティーブのみ。 「俺がやろう、いいか?」 「ああ、どうぞ」 スティーブの了承をとって#名前2#はムジョルニアの前に立った。どうせ持てないだろう、という心持ではあるがせっかくのこの空気を無理に壊すのは本意じゃない。 ぐいっと力をこめるがとても重い…昔、スコットを助けようとしたときのような……。 「無理だな」 「ラストはキャプテンか」 「はは、やれるかなあ」 スティーブはさわやかに笑いながらムジョルニアをつかむ。ズッと動いたような気がしたが、すぐにスティーブは手をはなして肩をすくめた。 「やっぱりダメだ」 「っはは、仕方ない。みなふさわしくないということだ」 ムジョルニアがビュンッと空をとんでソーの手におさまった。やはり彼が持っているのが一番映える。 「あら? そういえばベンジャミンはどうしたの?」とマリアが言い終わらないうちに、ヒューマンモードのままベンジャミンがラボから吹き飛ばされて落っこちてきた。 『ベンジャミン!』 『#名前2#、危ない!』 近寄ろうとする#名前2#のことをベンジャミンのコードが吹き飛ばし、飛び込んできたアイアンスーツの頭をつかむ。 ぐきり、と嫌な音がしてスーツの首と体が離れた。 「…なんだ、これ」 敵は、その体をぐきぐきと不器用なロボットのように動かしてラボから出てきた。 「私は、ウルトロン。平和のために、生まれた」