アマリリスが死を惹く
目を開くとジェット機に横たわっていた。ヒューマンモードのベンジャミンがその青い目を潤ませてぼろぼろと涙をこぼしている。 『うぅ、よかったぁぁ。みんあぁ! 起きたよ、#名前2#!』 「ベンジャミン、落ち着いて。見ればわかります」 ジャーヴィスの冷静な声に#名前2#はもちろん周りも笑うのをこらえて#名前2#をみやった。大きく開いた穴の痛々しさもものともせず#名前2#はさっと起き上がって横にいるクリントを見た。 「なんだ、クリントもなのか」 「お前のより傷は小さいさ」 「そうか、よかった」 いまだにぐずつくベンジャミンを押しやって周りをちゃんと見てみた。ジェット機は無人操縦。ジャーヴィスがたぶん操縦している。ブルースはナターシャと共に子守唄のヘッドホンをかまって、ソーとスティーブ、トニーはようやく獲得した杖を見ていた。 「起きたな、#名前2#。キャプテンからの許可もとったし、宴をやるぞ!」 「宴?」 「ああ。戦いの終了の祝宴だ!」 「……パスしたいんだが」 「アベンジャーズは強制参加に決まってるだろ!」 べちん、と#名前2#の腕を叩くとベンジャミンがぎりっとトニーを睨んだ。その眼は『傷に障ったらどうするんだ』と語っている。 ヒュー、とトニーは口笛を吹いて#名前2#から離れた。面倒な番犬がいないときに#名前2#に構えればいいや、というスタンスだ。 「ベンジャミン、そう怒るな。#名前2#はすぐにチョー博士が助けてくれるそうだし」 『……そっすね』 そういってベンジャミンは目を閉じてスリープモードに入った。なぜかソーの言うことはほかよりも割と素直に聞く。王としての風格を備え始めたからかも、と#名前2#は思っていたがトニーやブルースからすれば連敗した記憶がよぎるのだろうと予想はついていた。 「すまない、トニー」 「いやぁ、平気さ。ベンジャミンが#名前2#にベタぼれになったのはまあ自業自得というやつだ」 「…? そうだったか?」 「ああ」 実を言うと、ベンジャミンが#名前2#のことをやけに気にするのはトニーがよく#名前2#のことを話して聞かせていたからである。その情報をまるっと飲み込んだベンジャミンはさすがに本人に『めっちゃすげーな! アンタ!』と言うことはないが命令には従うし#名前2#がいないときには#名前2#のことを気にしてばかりいる。天邪鬼のような新しい相棒に#名前2#はさして困惑などもせずに「こうゆう個性なんだろう」と受け入れていた。トランスフォーマーが好きな人間だからこそできる技である。 ** #名前2#がダミーの細胞による治療を受けている間、ベンジャミンはトニーとブルースと共にいた。 杖のパワーによる新しい武器の開発。宇宙からくる敵に立ち向かえるほどの力をもった人工知能ーウルトロンーを作る。それがトニーの目指したことであり、ブルースが止めることのできなかった考えだった。 ベンジャミンはそれほど機械工学の面で頭がよいわけではない。人よりもよくできている、という程度だ。なので2人が倫理観がどうのこうのと言っていてもさすが科学者だ、ということしか思っていない。止めようなどとは全く思っていなかった。 彼が気にするのはただ1人の男である。 『ジャーヴィス、ちょっと通訳してくんない?』 「トニーさま、ブルースさま。ベンジャミンがお二人に話したい、と」 「ベンが? わかった、通訳してくれ」 『こんなことして#名前2#に怒られても仕方ないって』 「ウルトロンを作ることは#名前2#さまに怒られる、と」 トニーもブルースもベンジャミンの方を見た。まっすぐに立ったその姿は冗談とかでもなく本気で言っているのだとうかがえる。ブルースはトニーの方を心配そうに見つめる。ウルトロンをいい考えとは思わないが、興味深いとは思う。ただ、確かに倫理に反した行動なのだ。いつもはトニーが#名前2#を怒ることが多いが、トニーの行き過ぎた行為にはいつも#名前2#がストッパーがわりになっていた。 大体はギリギリのラインを#名前2#が見極め、トニーは渋々従うという形をとっていた。が、今回ばかりはトニーはひかなかった。 「……。叱られるのは百も承知だ。あいつを失うことの方がよっぽど怖い」 トニーのその言葉にベンジャミンは黙ってラボを出て行った。ベンジャミンとて#名前2#を失うことなど考えたくはない。 ベンジャミンの姿が見えなくなったところでキュイン、と音が鳴った。 ベッドに横たわって#名前2#は細胞同士をつなげてもらっていた。チョー博士をクリントの方にやって、一人でベンジャミンと内線会話をしていた。 『スタークがまたなんかやるみたい。キーワードはウルトロン』 『ウルトロン?』 『ジャーヴィスと同じみたいだ』 『AIか……』 『正義のためだって』 返事をしようとすると、カチャンと音がして#名前2#の腕にはめ込まれていたトランスフォーミウムの破片が引き抜かれた。 「痛かった?」 「少しだ。マリア、俺たちを襲った強化人間は?」 「マッハ男と魔女ってところ。意味わかる?」 「大体は。そうか、俺はそのマッハ男に?」 「男がピエトロ。女はワンダ・マキシモフ。双子よ」 「ストラッカーの実験体か。……マリア、悪いんだがボスに少し個人行動をさせてもらってもいいかー」 「許可は自分で」 「ダメか」 仕方なく#名前2#は起き上がるとチョーが「またすぐにお腹をあけるの?」と茶化してきた。それに#名前2#は少しだけ笑って無言で立ち去る。 「……」 「あれ、どうしたのチョー博士」 「バナー博士…。どうしよう、#名前1#」 「ええ?」 #名前2#は階段を下りて空を見つめるスティーブの後ろに立った。気配は漏れているので彼は誰が来たかなどすぐにわかるだろう。ずっ、と視線が上から降りかかってくる。ロボットモードとなったベンジャミンが#名前2#とスティーブのことを凝視していた。カメラアイがくるりと回ってスキャンする。#名前2#は緊張、スティーブは警戒していた。 「キャプテン」 「ああ、#名前2#。傷はもういいのか?」 「平気だ。それで、少し頼みたいことがある」 「僕にできることならなんでも言ってくれ」 「ああ、簡単なことだから平気だ。アベンジャーズを抜けたい」 「……はぁ?」 「ーー…というわけだ。構わないか?」 「まあ、それはいいが……。終わったら本当に戻るのか?」 「ああ」 「わかった」 次の日。#名前2#はアベンジャーズを脱退した。ベンジャミンを連れ、スティーブ以外には何も言わずに。