フランクルの表紙に額をつけたまま黙る

 #名前2#にミッドガルドにいる間は日記を書くように言われた。全く書く気などなかったが書かなければ家を追い出しアベンジャーズタワーの牢屋で過ごすように言われてしまった。 仕方なく、この品性のかけらもない「ロキのノート」と書かれたコレに描くことにする。 最初にしたことはもちろんこのノートのタイトルを消すことだ。 晴れの日 #名前2#が予約をとってくれたらしく簡単にあがれた。ワシントンモニュメントは確かに見晴らしのいい場所だったがそれならニューヨークのアベンジャーズタワーの方がよかったと言ったら苦笑いされた。意味がわからない。 外を歩く女たちが#名前2#にすり寄っていた。#名前2#は私のついでに話しかけているだけだと言ったがそうではないと思った。#名前2#は鈍い男だ。 くもり #名前2#は前から思っていたがずぼらな男だ。……さっきの言い方は#名前2#たちのいうスノップみたいな感じがするな。だらしがない男と言い換えよう。#名前2#のだらしなさは一見しても少ししゃべってみても共闘してみてもわからない。 一緒に暮らしてようやくわかるのだ。 くもって雨が今にも降りそうな今日みたいな日は洗濯物を外に干さず部屋の中に干すが、アイロンもおざなりにしまうのはなんなんだ。あの男、もっと品のある生き方ができないのか。 話は前後するがこの日は#名前2#がスミソニアン博物館へと足を運ばせた。キャプテン・アメリカが展示されているのを見て苦い思い出がよみがえってきた。#名前2#は"バッキー"・バーンズという男を指さしてコイツと戦ったんだ、と言った。 ほら話をしてもお前は超人にはなれないぞ、とせせら笑うとキャプテンに会わせてやろうか?と返された。そんなのゴメンに決まっている。 Rainy Day 昨日の夜から雨だった。 #名前2#は外に出るのを嫌がって家の中で本を読んでいた。Japan、という国の本らしい。記憶をさぐると海の向こうのほんの小さな島国が思い浮かんだ。『ノルウェイン・ウッド 作H・ムラカミ 訳ジェイ・ルービン』と表紙に出ていた。真っ赤な表紙だ。 どんな話か聞くと#名前2#は少しだけ笑って「お前はこの主人公に腹を立てるだろうから」と教えてくれなかった。昼を食べた後、#名前2#はこの本をスコットとオリビアのために買ってやったのだとつぶやいた。続けて「俺は人間くさいやつが好きなんだ」と目をうるませていた。 #名前2#は大馬鹿野郎だ。悲しんでいるだけでは死んだ奴らは報われないのに。 #名前2#の書斎で面白いタイトルを見つけた。『華麗なるギャツビー』という本だ。 愛を片手に暴力を振り回す登場人物たちはこっけいで全く愛らしいとは思えない。#名前2#の考えはよくわからないがギャツビーみたいに#名前2#をMy Dearと呼ぶのは悪くないだろう。 やめ。そんなこと言ったってあの男はこっちになんて来ない。悲しんで終わるんだ。 少し雨の日 #名前2#が食材と一緒に本を買ってきた。新書じゃない、子どものための絵本だ。『Pala,a Blanca』というタイトルだが英語じゃない。読めない。 #名前2#から聞いた話によるとエクアドルの本らしい。スペイン語なんて読めない、と文句を言ったら#名前2#が読んでくれた。タイトルは白い鳩というそうだ。 キレイな世界と汚い世界。白い鳩とうすよごれた灰色の鳩。 「おい#名前2#」 「なんだ?」 「これはアスガルドでも起きていると思うか?」 私の問いかけに#名前2#は笑った様子もしかめた様子もなくまっすぐに私を見て 「それはお前が一番よく知っているだろう」 と言った。 晴れた 最悪だ。まさかそんなことするなんて。 また晴れだ。 昨日は最悪だった。あの女が悪いのに私が責められることになった。私の前であのbxxxが電話番号などを渡すからだ。#名前2#も大事そうに受け取るなんて。 せっかくだから、とお返しに選んだ本はベッドノマットにはさんでやった。あいつはきっと見つけられない。 最後の日になったが、ようやく私に相応しいこのテキストのタイトルが決まった。 『COCOON IN RED』 ** #名前2#は『CIR』と書かれたそのノートを読みながら笑ってしまった。ロキという男は小説の登場キャラクターよりもよっぽど人間らしさをたたえた青年だった。ノートにあるようにマットを探ってみると小さな文庫本が手に当たった。どこで買ってきたのだか。 『変身』というその小説はザムザが虫となって死ぬまでの一生を書いた話だったはず。途中のページに大きなポストイットが貼られていた。 "お前は虫だ"と走り書きされていたそれは何度も書いては消しという行為を繰り返したようだ。 「ロキは俺に死んでほしいと願っているのか?」 #名前2#のつぶやきに返すものは誰もいない。