ここにいないだけの心音

墓を、作った。わざとフューリーの墓の近くに。 『スコット・#名前1#とオリビア・#名前1#ここに眠る』と刻まれた墓を。 #名前2#は泣きこそしなかったものの、墓を作った日から一週間は全く眠らず食事もほとんどとらずに過ごしていた。 愛車のプリウスはきちんと洗車され、いつも新品同様の光を放っているにも関わらず#名前2#自身には全く気を配らなかった。 マリア・ヒルには気丈に話したものの、仲間と家族は似て非なるもの。#名前2#はスタークタワーのラボで今にも死にそうな生活を送っていた。 今までだって試作品は何度も壊してきたし、もう一度レーザービークのような鳥型トランスフォーマーを作ることもNinjaをコンセプトにプリウスからロボットモードになるトランスフォーマーを作ることもできる。 だがそんなものは違う誰かでオリビアでもスコットでもないトランスフォーマーだ。 初めて作ったトランスフォーマー、スコットはもういない。 いつの間にかまた感傷的になって#名前2#は頭を壁にうちつけた。なんでこんなにも弱い考えをしているんだ。 ワシントンの自宅に戻ると中に人の気配がした。トニーでもナターシャでも、ましてやクリントでもない誰かだ。 そっと拳銃を握りしめて裏口から中に入った。気配は2人分。物取りではなさそうだ。扉を押しぬけ、拳銃を構えた。 「動くな!」 「……? ようやく帰ったのか、#名前1#!」 「…ソー?、とロキ?」 「ああ!」 Mドナルドのバーガーを食べながらにこやかに笑うアスガルドの兄弟神がそこに居座っていた。 ** 「それで、ロキに更生の余地ありとみなされてこっちに来たのか。期間は一週間?」 「ああ! こっちにいる間は俺もジェーンのところに行こうと思ってな。ロキは#名前1#のところがいいと思って連れてきた!」 「そうだったのか…。茶でも飲んでいくか?」 「いや、ジェーンを待たせているから俺はもう行く。ロキを頼んだぞ、#名前1#」 「ああ、わかった」 ソーはずんずんとドアの壊れた玄関から出て行きムジョルニアを構えて飛び立っていった。 残された#名前2#は外れてしまったドアを適当に押し込みリビングに戻ってくる。先ほどはあえて言わなかったがロキは手錠をしたままソファーベッドに寝転んでいた。 「ロキ」 「スコットは? いないのか」 「……死んだ」 「そうか……。それで、新しいトランスフォーマーは?」 「え?」 「映画では誰かが死んでも次の作品には新しいやつがいたぞ。お前は出せないのか」 それは映画だからだろう、とは言えなかった。試作品は大量にある。AIを入れればそれで完成するものばかりだ。だがそれをしないのは、#名前2#がスコットを忘れられないからだ。 「……まだ、時期じゃない」 「戯言を…」 「もっと高性能にする。そうだな、アイアンハイドのように重火器を振り回すようなやつにでも」 「……。それじゃあ面白くないだろう。お前のオリジナリティがない。グレネートランチャーでも出せ」 「いいアイディアだ」 のそり、と#名前2#が布団を持ってソファーにあがりこむ。ロキも横にずれて#名前2#が入れるすきをつくった。タブレット端末からパネルが宙に浮き、新しいトランスフォーマーの形が3D化して出てきた。 「コンセプトは?」 「邪神にでもしようか」 「ふざけるなよ?」 「冗談だ」 いつの間にか頭はサッパリしていて#名前2#はからりと笑った。気づかいも何もないロキの対応がありがたかったのかもしれない。 「今度はどんなやつにするんだ。相棒なのか、また」 「いや、相棒はスコットだけで十分だ。チームメイト、のようなやつだな。武器の扱いが病的にうまい、とか」 「病的ってなんだ」 「劇的、か?」 「……野蛮な金属だな」 ロキの言い方はなんとなく上流貴族のズレた感触がある。#名前2#は薄く笑いながらトランスフォーマーのところに書き込んだ。トニーのAIを使うので必然的に頭はよくなるだろうが、性格はどうなるか分らない。野蛮にならないように願おう。 「色はどうするんだ?」 「プライムに敬意を表して黒と火炎の模様を入れる。ボルボだ」 「ふーん?」 「すまない、わかりにくかったか」 「別に」 ぐいん、とロキが布団を引っ張って頭にかぶった。もう寝る体形になっている。寝るのか?と声をかければお前もだ、と返事をされた。 仕方なくタブレットはローテーブルのところに置いて#名前2#も横になった。男2人ではかなり狭かったがティーンに戻った気がして楽しい。 「おやすみ、ロキ」 「ああ」 今日は、いい夢が見られそうだ。