この夜はきっとまだ深められる
「もしもし、ジャーヴィスか」 「#名前2#さま。どうなされましたか? シールドに追われてるとの情報が入っていますが」 「まあ追われている。というか、どこで知った」 「ハックしました」 「素直だな。ーー助けが欲しい。どこかにセーフハウスはあるか」 「もちろんです。トニーさまも向かわれることでしょう」 「あいつはいらないぞ」 そんな悲しいことは言わないでください、とジョークなんだか本気なんだか分からないジャーヴィスの言葉を聞き流し、彼の案内により来たセーフハウスはトニーにしては珍しくウッドベースのものだった。 ドアは網膜認証らしく、ジャーヴィスが開けてくれた。ありがとう、と声をかけるとフランクな英語で「どういたしまして」と返ってくる。ジャーヴィスはクイーンズイングリッシュのはずだから……。 「やあ、遅かったな。#名前2#」 「……なんでここにいる、トニー」 「大切な友人の一大事だ。来ない方がおかしいだろう?」 「どうやってきた」 「自家用ジェット機。バレたら怒られるだろうが…ヒーロー活動の一環とすれば怒られない」 「最低なヒーローだな」 「仕方ないだろう。ヒーローも人間だ。食事、ちゃんととってるか?」 「お前に言われたくない」 「僕はきちんととってるぞ。ジャーヴィスがうるさいからな」 「うるさくさせているのはトニーさまです。それより、#名前2#さま。スコットさまの様子がおかしいようですが」 いつもならヒューマンモードになってジャーヴィスとしゃべるはずのスコットはビークルモードのまま外で待機していた。さながら普通の車のように。 「ミサイルにやられた。記憶が抜け落ち始めている」 「はあ?」 「もう自分がトランスフォーマーだということも忘れてきているんだろう。しゃべることを忘れ、トランスフォームを忘れ。いつか俺のことも忘れる」 「……治す手立ては?」 「ないだろう。記憶の分野はエンジニアにはない」 「……君、これからどうするんだよ」 「インサイト計画は止める。その後はスコットは死ぬことになるだろうな。……なあ、トニー。命って何なんだ」 「何を急に、」 「スティーブが俺に無茶をするなと言った。命をなんだと思っている、とも。俺には自分の命とスコットの命が何が違うかわからない。オリビアも死んだ。スコットもいずれは殺さなくちゃいけない。……いつかは死ぬ俺となにがちがうんだ」 トニーはしばし黙って手をあごに考えた。天才、トニー・スタークはどんな答えを導き出してくれるのか。#名前2#は少しだけ楽しみだった。 「全く違うじゃないか」 「?」 「スコットたちがトランスフォーマーだとしても、君とは決定的に違う生き物だ。いくら人間じみていても根本はちがう。……だけど、相棒なんだろう? 最期は大切に看取ればいいんじゃないか」 「……そうか。…そうだな」 #名前2#はうなずいて外にいるスコットを見た。 トランスフォーマーとして生きられなくなった金属生命体は、ただの亡者と同じだ。 相棒を苦しませずに看取ることが、#名前2#にできる最後のことだ。 ** #名前2#はトニーの持ってきたラップトップによりフューリーたちの会議に参加していた。 「#名前2#!」 「キャプテン、騒がないでくれ。黙って消えてすまなかった」 「#名前1#、スコットの容態は?」 「もうただの車だ。トランスフォームも忘れてしまった」 「そうか……」 「まってくれ、トランスフォーマーだろ? 忘れた、って…」 「ミサイルで何かが壊れた。記憶が流れ落ちてる。だからこっちに来た。それで、俺は何をすればいい?」 「こちらの作戦は3機のヘリキャリアにアルゴリズムの標的を変えるブレードを交換する。ヘリキャリアもヒドラもシールドも破壊する」 「そうか……。そのほうがいいな。シールドは、大きくなりすぎてしまった。 交換手は?」 「キャプテンとファルコンだ」 「ファルコン?」 「俺のことだ、#名前2#」 「なるほど。ピアースはどうする」 「ナターシャと俺だ。網膜スキャンが必要になるからな」 「ヒルは?」 「あなたと一緒にヘリキャリアの操縦よ。プログラミングの腕は衰えてないわね?」 「もちろんだ」 ピアースはのもとには変装したナターシャが。 シールド本部には#名前2#、ヒル、スティーブ、サムの4人が侵入。アナウンスを乗っ取った。 スティーブの演説が始まり、#名前2#とヒルは指令室に来ていた。 プログラミングを操る#名前2#にヒルが近寄り「オリビアのこと、ごめんなさい」と謝った。 「なにを、」 「知ってて、黙ってた。さらなる危険が及ぶと思って」 「……子供たちは?」 「避難させてある。だけど、オリビアが…」 「あいつのことだ。どうせ囮として残ったんだろう。……トランスフォーマーは、人を守るようにと言ってある。あいつらしい終わり方だ」 #名前2#はそう笑ってまた指を動かす。誰かが強制出発のボタンを押そうとしているが、なんとか食い止める。まだキャプテンたちが外に出てきていない。 「#名前1#、きたわ!」 「よし」 ここにある機械だけではアルゴリズムを破壊するには至らない。ヘリキャリア3機がロックされ、三つ巴のように標的をヘリキャリア自身に向けることでスティーブが了承したのだ。 ナターシャはピアースのもとでシールド、もといヒドラのしてきたことを世界に公開させる。 ナターシャも#名前2#も自分の過去が曝け出されることになるが人の命にはかえられないものだ。 「#名前2#、怖い?」 「……なにがだ?」 ヒドラの手下が来る度に#名前2#が応戦する。 銃弾がバチバチと鳴って、廊下には死体がたまってきた。 「また一人になることが」 「………」 1人がいやでトランスフォーマーを作ったはずなのに。スコットもオリビアも死んで、#名前2#の家族はいなくなってしまった。 「いや、怖くはない。もう、仲間がいる」 「そう思えたのならいいの」 「そうか」 「…あら。#名前1#、ファルコン。ラムロウが」 「わかった。サム、あれを持って41階に来てくれ」 「了解!」 ** ドアを抜けたところで#名前2#が鋭い1発を送る。腹に膝をねじこみ、仕込みナイフで目元を切った。 「チッ、」 「覚悟もなしに突っ込んできたのか」 「……ほざけ」 殴り合い、蹴り合い。どこかの映画のような肉弾戦を繰り広げた。 #名前2#の頭をラムロウがつかみ、壁にぶつける。昏倒しそうになる一歩手前でおしとどまり、掴んだ腕にワイヤーアンカーの先をつけた。 ぐっさりと刺さったそれを引き抜くと腕の肉がえぐり取られ、ラムロウも手を離さざるを得なかった。 「#名前2#!」 扉から薙刀を投げるサムに、#名前2#は一瞬でつかみその柄をラムロウの腹にあてた。 ガラスの破片に落ちるラムロウを一瞥したあとサムは#名前2#!と大声で呼んだ。 「ヘリキャリアが墜落する! 外にフューリーのヘリがくる、逃げろ!」 取り付けられたインカムからフューリーの声がする。 41階、北西角だ、と伝えるがさすがに階は分からないだろうなと後から気づいた。 「スピード落とすな、#名前2#!」 「わかってる!」 床が崩れそうになり、ヘリが外に見当たらないとか考える余裕もなくなり2人はガラス窓にダイブした。 空中で一回転しながらヘリに飛び込む。 「41階って言ってたじゃねーか!」 「外には表記はない!」 サムの叫びに#名前2#は少しだけ笑って外を見た。 ヘリキャリアは墜落。本部は壊滅。ヒドラもCIAやFBIに捕まることだろう。 ** ナターシャは敵国のスパイだったことを見られ、諮問会議に出された。 #名前2#もなるのかと思いきや、彼はアメリカとソ連の2重スパイであったことを明らかにされ諮問は無しとされた。 墓に来ると、スティーブとサム、ナターシャがいた。どうやら墓の主であるフューリーはもういなくなったらしい。 プリウスから降りると、ナターシャは苦笑いで 「なにかの墓標かしら?」と言う。 「…忘れないためさ。フューリーは?」 「ヒドラを追ってヨーロッパに。#名前2#はこれからどうするの?」 「トニーに拾われた。マリアと一緒にだ。ナターシャは?」 「まだ決めてない」 「そうか……。キャプテンは、どうするんだ?」 「バッキーを追うよ」 「サムはキャプテンに着いていくんだろう?」 「そのつもりだ」 がんばれよ、と意味を込めて#名前2#はナターシャたちと抱き合った。大事な仲間を忘れないようにきつくきつく。 「それじゃあな、来た時には連絡を」 #名前2#は手を振ってプリウスに乗り込んだ。 「#名前1#さま、おかえりなさいませ」 「ああ。ありがとう」 スタークタワーのラボに戻ると、ロボットモードで体を縮こませてトニーの話を聞くトランスフォーマーがいた。 #名前2#は苦笑いでそれに近づき「そいつはお前のものじゃないぞ、スターク」と言う。 「いいじゃないか、共同制作なんだから。名前はもう決めたのか?」 「ああ、さっきな」 新しいトランスフォーマーは確かにトニーと作ったが、ブルースも一緒である。それを忘れるなよ、とは思ったが何も言わないようにした。 「それで、何にするんだ」 「ベンジャミン」 「数奇な人生か。面白いチョイスだ」 スコットとオリビアのカメラアイをとりつけた新しいトランスフォーマー、ベンジャミンはキュイとにこやかに笑ってみせた。