日没に触れて哀しい影の顔

 次の日。昼近くになって#名前2#とナターシャは再び病院に来ていた。  ナターシャがキャプテンの動きが気になる、と言って連れ出したのだ。なぜかガム売り場のところを開き、ナターシャはUSBメモリを取り出した。一緒にガムもとってそれだけ#名前2#に投げてよこす。  くい、と顎で示されて#名前2#は仕方なくガムを買った。苦手なイチゴ味だ。 「#名前2#、その味嫌いだったの?」 「残念なことに。俺は車に戻るからなにかあったら来てくれ」 「一応、新しい車にトランスフォームしといてくれる? 新しくなくてもいいわ。コンチネンタルと日本車以外でね」 「……oui。カマロにでもしとこうか」 「なんでもいいわよ」  スコットは渋々と駐車場を見て回り紺色のカマロをスキャニングした。そしてついでのようにスティーブが病院に来るのを発見した。どこかでバイクを交換したのかいつものタンデムではないバイクだ。 キャップをかぶりパーカーもかぶったその姿は「いかにも隠れています」と主張している。隠密経験がないのかもしれない。 「#名前2#、ロジャースだ。こっちに呼ぼうか?」 「いや……ナターシャの出方を見る」 あいつらはどうやらすれ違ったままみたいだしな。  数分して2人は出てきた。玄関先に車を止めると、ナターシャがスティーブの腕をつかみ後部座席に押し込んできた。ナターシャは助手席に座り、先ほどのUSBを見せて 「簡潔に話すとシールドに追われてる。このままじゃ死ぬわ。これの解析時間は?」と聞く。 「なんだって追われてるんだ」 「フューリーのせいよ。それで、時間は?」 「5分程度」 「スコットを使って?」 「いや、こうゆうのはオリビアの方が得意だ。おい、ちょっと孤児院に行ってもいいか?」 「いいけど、武器でも調達するの?」 「それもあるが、オリビアを連れてくる」 「わかった」  スティーブがあわてふためく間にナターシャと#名前2#は段取りを決め、車を旋回させる。クラクションを鳴らす車の間をぬいながら走り出した。  数十キロ離れた孤児院はすでにシールドの手にかかり家はほとんど形を残していなかった。パキリ、と足が音を鳴らす。オリビアの粉砕した破片が崩れた音だった。 「#名前2#」 「ああ、今行く」  オリビアにとりつけたカメラアイのレンズが1枚奇跡的に形を残していた。何重にも重ねたレンズの1枚だろうし、ヒビも入っているが大事なものだ。 「スコット、これ持っといてくれ」 「なんだよ、これ」 「オリビアのレンズだ」  そういって#名前2#は黙り込んだ。オリビアがいないのでスコットが仕方なくパソコンを借りることになった。解析時間  モールに着いて#名前2#は変装用のメガネと髪色を変えるためのスプレーを買いに行った。ナターシャは「キャプテンは疎いからやめた方がいいわね」という一言を残しスコットと家電店へと行ってしまった。  スコットにはナターシャの言うことを聞け、と言ってあるが少々心配ではある。それよりも心配なのはキョロキョロと周りを見渡すスティーブの方である。  スコットのヒューマンモードは車種によって姿が変わるため気にしないが、#名前2#は念のために買っておくことにした。栗色からブロンドの髪の毛に。ついでに服も買い替えてシャツとチノパンというよくある格好に着替えた。 「キャップ、これを」 「え、目にいれるのかい?」 「いいからはやく」  無理やりにカラコンをつけさせ、大き目の黒縁メガネをかけさせた。ついでに試供品のコスメでに大きめの隈をつけた。  目元の印象が変わるだけで人はその人を認識できなくなる。自分でも満足のいく出来ができた、とうなずいた。 「#名前2#?」  携帯につけたイヤホンからナターシャの声が聞こえた。 「どうした」 「これ自動追尾プログラムかかってるみたい。時間かかりそうだわ。解析と妨害って一緒にできないんでしょ? そっちも変装終わらせてはやく来てよ」 「それで、どこを指してたんだ」  #名前2#が焦れて聞いたところで、前から敵が来てしまった。STRIKEのメンバーらしく横でスティーブがやけに周りを確認し始めた。 「#名前2#! 前から二人来てるぞ!」とスティーブが小声でささやいてくる。 「キャップ、いいか。今から話題ふっかけるから適当にうなずけ」 「え……?」 「だからね、ウィル! 僕は電車のことを車両というのは間違ってると思うんだ! アメリカのことをバカにしていると思わないかい!?」 「そ、そうだよねえ」 「車って呼んであげないと可哀想だよ!」  #名前2#はニコニコと電車についてスティーブに話しながら歩いていく。敵の方も#名前2#たちをギークと判断したのか、若干遠まわりして歩いて行った。 「もういいぞ、キャップ」 「あ、…すごいね」 「この手のやつはギークを嫌がるもんだ。ああ、あそこか」  そこにはスコットがすごい勢いでキーボードをはたいていた。追尾システムのクラッキングを先にしているらしい。ナターシャの説明によると、スコットの中に一部情報が入ってきてしまい今はそれを取り除いてるのだとか。このままではスコットがターゲットにされてしまうらしい。 「だから解析が途中なのよ」 「わかった」  ぐりん、と#名前2#の手首が回って画面が動き出した。ウィンドウがずらりと並び、一枚一枚画像を#名前2#の目が拾い上げていく。最後にエンターキーが押されると、音を鳴らして画面に映っていた情報が吸い込まれていき地図の一点を示した。 「ここ、」 「ニュージャージー州ウィートン。スコット、終わったか」 「ああ」 「はやく出よう。キャップ、コンタクトはモールを出てから外せ。そのメイクも。メガネは俺に。2手に分れて出よう」 「じゃあ、キャップと私。#名前2#とスコットでいい?」 「oui」  #名前2#はUSBをラップトップから抜き取ると足早に歩き出した。近場のトイレに入るとスコットはいやいやながらもスマートフォンにトランスフォームした。  それを片手に#名前2#は電話する振りをしながら道を歩きエスカレーターを降りていく。実際の話し相手はスコットだが、#名前2#が一方的に語っているといってもいい。 「やっべえよ、今回の子。まじでうめぇ! お前にも紹介してやろうかー? きゃー、ラビットちゃぁん!って言われてモテるかもな! 車好きだなんて、いいアピールポイントになるぜ。いいから今度お前も来てみろって。ぜってー楽しいから!」  げらげらと品のない話をしながら#名前2#はモールを切り抜けて駐車場に来た。人のいない影になったところでスコットがカマロに変わる。 「ありがとう、スコット」 「相変わらずの話し方だな」  セックスと酒のことしか考えていないような男の振りがうまいことを皮肉られて#名前2#は手をふる。別にしたくてしたわけじゃない、というアピールだ。 「#名前2#? ちょっと迎えに来てくれない?」 「場所は」 「北口よ」  ブロロン、とカマロが走り出した。