思想と身体

 半年だったはずの内勤の仕事がなぜか1年に繰り上げられて、この前にようやく終わった。  オリビアは喜び、スコットも笑顔を浮かべて拍手した。どこからかエージェントの活動に戻ると聞いたスターク夫妻には「もう無茶をするな」と釘をさされてしまった。  #名前2#も「ああ、善処する」と答えてはいるがどこからどこまでが無茶の範囲になるのかは分からない。もう少し気をつけよう、とだけ思っていた。  内勤生活をしている間にスタークタワーが復活し、バナー博士と#名前2#がよく招かれるようになった。博士はよく逃げるが#名前2#はジャーヴィスにハッキングされたりして無理矢理にでも連れてこられたりする。ペッパーもタワーによく来るらしく、#名前2#が来る際にはよく顔を見せていた。ワインを飲んだり、昔話をしたり。会話をするには#名前2#は不器用な相槌しかうてなかったが、2人はそれすらも茶化したりして楽しんでいた。  ここでもオリビアはやはり人気だった。トニーとはよく子供じみた喧嘩をしていたが、ペッパーとは親子のような姉妹のようなふわふわとした柔らかい雰囲気に包まれて過ごしていた。  試作品からかなり成長したオリビアだが、彼女はトランスフォーマーだ。いつしか戦いに出さなければならない。 「#名前2#、今いいかい?」 「キャプテン。どうしたんだ」 「……ここじゃ話しづらいな。どこか違うところに行きたい」 「わかった」  スティーブ・ロジャースことキャプテン・アメリカは難しい顔をしていた。眉をひそめ、話すべきかどうか迷っている。#名前2#はそんな彼を見てS.H.I.E.L.D.のことか?と聞いた。  反射的に顔をあげたスティーブを見るとどうやらアタリのようだ。#名前2#はスティーブの腕を引っ張り、車を飛ばした。目的地はとある屋敷だった。  そこでは子供たちが駆け回り、ペットたちがその飼い主を追いかけていた。可愛らしい光景の中に一人の少女が#名前2#のもとに近寄ってきた。 「#名前2#!! どうしてここに?」 「ちゃんと馴染めてるか?」 「もちろんよ!!」  オリビア!と少年が名前を呼んだ。オリビアはけらけらと笑って少年達が集まる中に入っていく。スティーブは驚いてオリビアの背中を指さした。 「あれがオリビア? 人間になってるのか……」 「開発が進んだんだ。あー、……ここはいわゆる孤児院だ」 「そうなのか…」 「ニューヨークのあの事件で親や飼い主を亡くしたやつらを集めてもらった。知り合いのボランティア団体に頼んで面倒を見てもらっている」 「お金、かかるんじゃないのか?」  スティーブの問いかけに#名前2#は屋敷の屋根を指さした。StarCと彫られている。 「スタークが?」 「後からだ。スポンサーになってくれるって言うから頼んだ」  そうだったのか、とスティーブは子供たちの顔を見た。みな笑顔だ。ペットも優しい顔をしている。来る時に見た大きなフェンスはペットたちのものらしい。 「話は? 大事なことじゃないのか」 「…君は、インサイト計画について聞いてるのか?」 「ああ。チームに所属されるところだった。確か、衛星で敵を発見次第ヘリキャリアで食い止める、というものだったか」 「あってるよ。……君ってすごい巻き込まれ体質なんだね」 「トランスフォーマーが皆に大人気ってだけ。……それでインサイト計画がどうした」 「ロマノフが、そのデータを持ち出したんだ」 「どこにだ」 「フューリーに頼まれた、と言っていた」 「ふーん。……それなら、そのインサイト計画には何かあるのかもしれない」 「何かって、」 「分からないが……もしかしたら嫌な事件がおきるのかもしれないな。キャプテン、いや…スティーブに聞く。お前は何を考えている」 「……シールドが、信用できない。フューリーは情報を分断しようとするし、ロマノフはフューリーの任務を優先する」 「そうか」 「でも、君はなんとなくだが…信用できるかもしれないと思った。理由は、わからないが」 「いや、いい。そんな理由に興味はない。それに値すると思われただけのことだ」 「君は、フューリーにつくのか」 「俺は大事なものを守れる方につくだけだ」  送るよ、と#名前2#はスティーブを車に入れた。家に着くとテールランプを点滅させて#名前2#が帰っていく。前に映画で見たシーンと同じだ。  スティーブは不思議な思いで#名前2#とわかれた。シールドのエージェントととしては#名前2#はやけに冷めた考えを持っている。フューリーにすべて従うわけでもなく、過去のスパイという経歴もここでは無視されてることの方が多いようだ。#名前2#は今日は孤児院の方に泊まるらしく道を戻っていった。  家の中に入ろうとすると、隣の部屋に住んでいる看護婦と出会った。洗濯をしていたらしく大きなバスケットを持っていた彼女に手助けは必要なかったらしい。断られて、少しだけスティーブはへこんだ。  どうも自分はスマートに出来ない。  看護婦は去り際に「ああ、あなたの部屋から音が漏れてたわよ。ステレオつけっぱなしじゃない?」と言った。  スティーブにはステレオを動かすような能力はまだない。機械にはまだ慣れていないのだ。ドアから離れて、外側の窓から家の中に入った。レコードが流れている。シールドを無闇に振り回すわけにもいかない。緊張したまま視線を向けると暗闇の中にフューリーが座っていた。喋っていることと顔がそぐわない。盗聴されているらしく、本音はしゃべれないのだ。  シールドが危ない、と記されたモバイル。知っているのはスティーブとフューリーのみらしい。そして、これからの相談もできずにフューリーが狙撃されてしまった。狙撃手は向かいのビルの屋上にいるのが見えた。  家の扉が蹴破られた。敵が入ったのかと思わずシールドを手に取ったが味方だったようだ。さっき聞いたばかりの女性の声が「大丈夫?」と投げかけられた。 「キャプテン・ロジャース。どこにいる?」 「君は、」 「私はシールド特殊部隊所属、エージェント13よ。あなたの護衛」  隣に住んでる看護婦ーエージェントがフューリーの傷を抑えた。まだ息はある。これから救急車を呼べば手術が行われるだろう。 「狙撃手は?」 「僕が追う」  スティーブは駆け出した。ビルに飛び移り、ガラスを割り、扉を蹴破る。その光景を遠くから見ていたオリビアは口笛を吹きながら#名前2#のいる孤児院へとやってきた。 「フューリーさん、狙われてたよ!! #名前2#は? どうするの?」 「……フューリーはキャプテンに最後は頼みに行った。俺も行こう」  ピピッとショートメールの音がした。ナターシャから「フューリー 狙撃」と書かれている。添付された地図には病院までの道が出ていた。  ブレーキの痕を強く残して#名前2#は手術室へ走った。スコットもオリビアも置いていき、走るのは#名前2#のみだ。廊下にナターシャがいた。腕組みをして苛立ったような髪の毛の振り乱れ方をしている。 「長官は?」 「死んだわ」  ナターシャの沈んだ声の一言に、#名前2#は「そうか」と返した。悲しいとは思わなかった。 「ナターシャ」 「ねえ。フューリーは最期にどこに行ったと思う?」 「……。さあな」 「キャプテンのところよ。……私たちは、フューリーに見捨てられた? それとも、あの化石についてけってこと?」 「どっちもなんじゃないか」 「なによ、その言い方。#名前2#は相変わらずなのね」 「お前こそフューリーへの恩義を無理に考えるな。起きたことを何か言っても仕方ないだろう」 「……そうね。ごめんなさい」 「今日はうちに来るか?」 「お願いするわ」  キャプテンはS.T.R.I.K.E.の人と行くそうなので護衛は必要ないな。と判断して#名前2#はナターシャの肩を抱いて歩き出した。狙撃手からその体をかくすように、すっぽりと。