カウンセラーにも話してない秘密
それは急な電話だった。知らない電話番号にスコットはいいのか?と聞いたが#名前2#はどうせアベンジャーズのイタズラだろうと電話をとった。 「もしもし、こちらネスト」 「あー…#名前2#の番号で、合ってるかしら?」 「? そうだがー…その声はペッパーだな。どうかしたのか?」 「あら? あなた本当に#名前2#?」 「すまない、今少し喉が傷んでいるんだ」 「そうなの。……ねえ、#名前2#。お願いがあるの」 「なぜ俺に?」 「貴方なら、その……分かってくれると。思ったの」 ペッパーの話を聞いて#名前2#は仕方なく重い腰をあげた。現在、シールドの任務はないのでバイトでもしようかと思っていたところだ。暇つぶしにはちょうどいいかもしれない。それにポッツは良い女性だとあの事件のあと知ることになった事実だ。友として助けようという思いもあった。 「わかった。話を聞こう」 ペッパーの話によると、トニー・スタークが最近おかしいということだった。いつもじゃないのか?という軽口にポッツはそうじゃないのと念を押した。あなたもこんな経験はないの?となじられる。スタークの不眠症はひどくなり、アーマー中毒で作るか着るかのどちらかで、さらにはずっと世話になっているボディガードが死にかけた。心の亀裂はもはや修復が不可能になる一歩手前だそうだ。 「……ネストは、ほら、力を持ってるわけじゃないし。それに、あなたは自分で一般人って言うじゃない」 「まあな」 だがスタークの方は俺より鍛えてるんだぞ、という言葉を飲み込んだ。アベンジャーズには明確な格差があるのはポッツも分っているのだ。神様だったり、超人だったり、凄腕のアサシンだったり。俺とスタークはそんな中にいる「ただの人間」なのだ。 「だから、トニーのこと、わかってくれるんじゃないかなって」 「……あー、ボディガードは死にかけたのか。死んではないんだな」 「テロ組織、マンダリンにやられたのよ」 「テレビで騒いでるやつか……シールドの方でも動いてる面々はいるがイマイチ情報が掴めないらしい」 「シールドも動いてるの?」 「内勤のみだがな。動くのは、アイアンパトリオットの仕事だ」 「…トニーは絶対にマンダリンを許さないわ。お願い」トニーを助けてという小さな呟きが耳を叩いた。少し前の昔なら嫌だと断るところだ。そんな自己満足に手を貸したくない、と突き放すところだ。 「わかった」 「……」 「俺には出来ることしかできないが、やってみよう」 通話の先にいるペッパーは泣きながら「ありがとう」とつぶやいた。そしてごめんなさいとも言った。大丈夫だと答える。大丈夫、俺は弱いけどそれを知ってここにいるんだ。 ペッパーに案内されて#名前2#はスタークの家に来た。来るときに注意されたのは、今トニー・スタークは本当にひどい状態なのでヒーロー扱いしないでほしいということだった。 スタークタワーは未だに完成されず、こちらのラボで最近は開発しているらしい。散乱したアイアンマンのスーツに一体ずつ並んだ完成されたスーツ。動くアームの後ろにスタークは腰を下ろして新しいスーツをかまっていた。 「トニー」 「!? ……#名前2#か、なんなんだ」 「スコットがお前のラボに興味を示したから連れてきた。前に連れてこいって言ってたろ」 #名前2#の後ろでヒューマンモードのスコットがにこやかに手をあげる。 「初めまして、#名前2#さま。スコットさま。私はジャーヴィスと申します」 「……声だけか?」 ぶふっ!とトニーが笑った。エンジニアのくせに分からないのか! 久々に笑ったという事も忘れていたので頬の筋肉が少しかたかった。 「私めはAIですから。スコット様のようにヒューマンモードは取得しておりません」 「そうだったのか」 #名前2#はうんうんと頷いてスタークの近くに寄るとその頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。 「なにするっ!?」 「話はペッパーから聞いた。ついでに愚痴も」 「なんだって?」 「あの大きなウサギはどうかと思うぞ」 くいっと#名前2#は親指で玄関先に置かれた大きな兎を指した。お世辞にも可愛いとは言えないしろものだ。ペッパーも恋人に面と向かってそういうことは出来ずに#名前2#に愚痴っていた。スタークはむっと唇をとがらせる。 「口うるさい男だな」 「お前こそペッパーとベッドも一緒に出来ないと聞いたぞ」 スタークは痛いところをつかれた、という顔を見せた。そして嫌な男だな、と#名前2#を見上げる。子どものような目だった。 仕方なく#名前2#も床に座った。スコットは#名前2#から離れて階段をのぼっていく。人間2人にしようとしてくれているかのようだった。 「……お前は悪夢を見たりするのか?」 「悪夢? ……死にそうになる夢は沢山あるが、怖くはない。そうだな、……ああ最近1番だったのは」 「だったのは?」 「俺が初めての人を殺したときの夢だな」 「その時、お前はどうした?」 「起きてからもすぐには立ち直れなくて、…血が怖くなって」 「ああ、そうだろうな」 「それで、俺が今までの任務で救えなかったシールド職員の写真を部屋中に貼り付けた」 「……」 「俺が動けなかったことで救えなかった命だ。荒療治だがかなり効いた。もっと強くならないと、さらに犠牲者を出す。そう言い聞かせた。トランスフォーマーもそこから本格的に動かすようになったんだ」 帰り道、トニーは#名前2#のことを抱きしめてきた。アーマーのつけていない体はぼろぼろだった。彼自身がスーツを大事に思っていて、生身の体に自信がないのだ。自信がなくて、どんどん追いつめる。それが一番体に悪影響を及ぼす。悪循環だった。 「トニー、休めとは言わない。ただ、…お前がそうやって気を張り詰めたところでどうにもならないと自覚しろ」 「俺は、スーツがないとダメなんだ」 「だからどうした。お前の頭脳をもってしても、今のこの状況の理由になんかならないぞ」 「……なら、どうしろっていうんだ」 「昔の自堕落な自分を恨んで、周りを見つめることだな。お前を心配するAIや、パートナー、元ボディガード。ああ、アベンジャーズの仲間も入れよう」 「ふっ、最後のやつはごめんだな…」 スターク邸を出て#名前2#はペッパーに連絡を入れた。 『俺にはこの程度だ』 すぐに返信が届き、スコットが読み上げる。 「ありがとう、と言っている」 「……そうか」 #名前2#は笑いながら道を進む。テロリストの存在にはまったく気づけなかった。