誰かのためになんて言わない
#名前2#の知らない間にロキが捕まっていた。ソーが力を使えないように、と体を縛り上げた。戦闘の禍根も残る中で「シャワルマを食べよう」とスタークが言い出した。近くにいい店があるんだ、と。ロキはビークルスコットの中に放り込み、その店にやってきた。 被害の少ない店であったからよかったものの、これで潰れていたなどとなったら危ないところだったろう。 仲間達は無言で食べている。ビークルのスコットは食らべれないが、外からでも#名前2#の顔を見る限り美味しそうであるのは確かだ。 「#名前2#、上手いのか?」 カーステレオからそんな声が聞こえた。#名前2#が答えようとするとアベンジャーズの面々がじっとそれを聞こうとしている。思わず口を閉じてしまった。 「なんだ」 「いや、お前の口に合ったのかどうか気になっただけだ」とスタークが言う。それはまあ、分かる。その理由が取ってつけたような物であったとしてもだ。 「いいだろ、別に」とバートンたちが言うのは分からない。全く良くない。そんな注目されることじゃないだろうに。 「それで、どうなんだ。#名前1#」 「普通にうまい」 「ふーん」 #名前2#の滔々とした言葉にスコットは「少し味が濃いんだな」と感じ取った。長年一緒にいる相棒の言葉なら、なんとなくニュアンスが感じ取れる。 周りは……そうではなかったらしいが。明らかにつまらないという雰囲気を出したアベンジャーズにスコットは優越感で少しだけ笑った。 「おい、金属」 「…その呼び名はやめろ。邪神め」 「お前の方こそ。あの男についてそんなに考えるのはどうなんだ。ケーブルからビリビリと伝わってくるぞ」 「……」 スコットは押し黙った。人間であったなら目をしばたかせていたことだろう。居心地悪そうに車体をゆらすとロキが「やめろ。やめろと言っている!」と転げまわった。 「……お前の、作り主」 「#名前2#のことか」 「#名前2#は、私にまた来いと言っていた」 「そうか。……なら来たらいいんじゃないか?」 「あれは演技だろう?」 「演技だろうが#名前2#は嘘は言わない」 スコットの言い分にロキは黙って頭突きをくわらした。少しだけ信じたいという気持ちが生まれていた。 テレビではアベンジャーズの話題で盛り上がっていた。ヒーローファンに、政府の陰謀説、トランスフォーマーの危険性についても語られることになった。おちこぼれの#名前2#・#名前1#から英雄となったというのに、彼はほとんど変わらず人を貶したり自分の世界に閉じこもったりしていた。もとはただの開発者である。ヒーローとして祭り上げても通常運転のままだった。変わったところと言えばロキのもとに#名前2#はよく出かけた。 「…また来たのか」 「ああ」 何か話たいことがあってくるわけでもないし、監視でもない。来てはマンガを読んだり歌を歌ったりトランスフォーマーを見せたりする。映画を見せたり、アカデミー賞の授賞式を見たり。 ホラーゲームをやったときはロキのあわてようにスコットも#名前2#も笑いが止まらなかった。ジュマンジをしたあとは人生ゲームができなくなり、零を見た後はカメラが怖くなった。 「おい、#名前2#。このトランスフォーマーのようにスコットはヒゲは生えないのか」 ロキの指差す先にはロストエイジのハウンドがタバコを吸いながら敵をぶち倒すシーンが映っていた。 「髭か……」 想像してみるもなんだか滑稽のような気がしてならない。 「ロキ、お前どんな髭がいいと思う」 「髭……」 ロキの頭にはチャーリーモルデカイのあの愉快な髭が出てきた。ガラスに息をはき書いて見せた。#名前2#は肩を震わせ、スコットは「げげーっ」という顔をしている。 「ロキ、お前…ッ!」 #名前2#は笑いをこらえきれずに崩れ落ちる。スコットが腹いせにその横っ腹をふみつけて出て行った。 「? 似合っていたろう」 「ああ、本当に」 ロキが帰る際には#名前2#はプリウスに乗ってやってきた。きちんと車として動くトランスフォーマーに呆気にとられる面々もいたが#名前2#は気にしなかった。 「さよならだな、ロキ」 「……」 口枷をされている人間には何も答えることはできない。ただ#名前2#はその雄弁に語る目に笑って 「今度来たら連絡を」と言う。 「#名前2#、不謹慎じゃない?」 「別にそんなことないだろう。俺は友人として言ってるだけだ」 力の振るい方を間違えただけだろう、と#名前2#は言ってソーたちに手を振った。 彼らには、もうほとんど会えないだろうと分かっていた。だから#名前2#はこんなにも優しい気持ちなのだろうか、とも思ったが違うだろうとすぐに否定した。哀れんだわけでもない。ただ、ロキの話は面白かった。それだけのことだ。 ロキは#名前2#に何も返さずに去っていった。それでも、その目から#名前2#はある言葉を受け取っていた。 『また会おう。1000年後に』