死んだあなたに似た午前

 男はガラス越しにかの人を見つけた。笑いもせず、嫌がるそぶりも見せずただじっと近づいてくる男を見ていた。 「なんだ、ピエロが来たのか」 「#名前2#・#名前1#だ。よろしく頼む」  #名前2#はにへらっと笑ってハンカチを取り出した。床に敷いてロキの目の前に座ると「ピエロはマジックが出来ないとダメだと思うか?」と聞いてきた。ロキは興味なさそうに「知らん」と返す。 「すげない言葉だな」  「お前のようなやつがなぜあれを作った」 「スコットか? ……理由という理由はないんだが」 「……。ああ、そうか。親友を亡くしたのか。…へえ、それもゲイの親友だ。彼とセックスをした仲なのか?」 「………。してないよ」 「ふん、いくらでもしらばっくれることが出来る。お前は何をしにここに来た」 「いやあ。ただの様子見だ」 「さっきの女スパイは情報を聞き出そうとしていたがな」 「おお、さすがだなナターシャは」 「アスガルドでなら、お前の親友を生き返らせることが」 「できるって? やめてくれ、俺はあいつともう別れたんだ」 「ハッ! やっぱり付き合ってたんじゃないか。お前がゲイと知ったらあいつらはどう思うだろうなぁ。バナーやスタークと仲が良くなるだろう、とバートンは言っていたぞ。あいつらに知られたら、どうなるか」 「……そりゃあ、気色悪がられて最悪殴られるだろうな」 「見てみたいな、お前のその顔を」 「…………。お前は、男が好きだって知っても怖がったりしねーのな」 「はぁ?」 「ぎゃはは。あんた、面いいんだからこんなことしてないで普通に地球に来りゃあ歓迎したのにな。残念だよ」 「……。歓迎する? 戯言を」 「その疑り深さは別に気にしねーけどこればっかしは本当だ。普通に迎え入れて、観光でもしてやるさ」 #名前2#のあっけらかんとした口振りにロキは口をつぐんだ。#名前2#は全く嘘などついていないと分かったからだ。そして先ほどに来たスコットと名乗る金属生命体。同じことを言った彼らは一体何者なのか。 「ま、この戦争終わったら来いよ。スコットで迎えに来てやる」 来た時と変わらずに#名前2#はにへらっと笑って出ていく。ロキのその表情の変化は全く気づかなかった。 「フューリー長官ですか? ロキの狙いは仲間割れで間違いないかと。それに、バナー博士は繊細な人なので対応に間違えば俺たちが死ぬかと思われます」 #名前2#はフューリーの問いかけに何も答えずにインカムを外してスコットに外に出るように言った。 「外に? なんで」 「ロキの仲間が追いかけてくるころだろう。不審の種がもう埋まっている。抜け出せないならそのまま出すしかない」 「めんどうだ」 「頼む。オリビア、お前は隠れていろ。今回、お前は登用しない」 「なんでぇ!?」 「命令だ、行け」 オリビアは恨めしそうに#名前2#とスコットを睨み「つまんないの!!」と羽をひろげた。そして時折#名前2#たちを見つめながら飛び去っていく。あまりにも哀れっぽいその姿にスコットが「いいのか?」とたずねた。 「なにが」 「心配だからって言わなくて」 「構わない」 #名前2#はそう言い切ってさっさとラボへ行ってしまう。残されたスコットはため息をつきながら歩き出した。Ninjaらしいのは自分ではなく相棒の#名前1#の方だ、と思うのもしかたがないことだ。 「失礼します」 「S.H.I.E.L.Dが大量破壊兵器を造る理由を教えてくれないか?」 #名前2#とバナーの声が重なった。フューリー、ロマノフ、#名前2#の視線が交わりもう隠せないのだとわかった。 「平和のためだ」 「核兵器と同じだな。抑止力のために兵器を作る。君たちはその兵器1つで何人死ぬのかもわかってないようだな」 「わかっている」と#名前2#は自虐的に笑った。 「わかっているさ、俺はジェノサイダーになったんだ。人を救うために」 「#名前2#、君も兵器を作ることに賛成なのか?」 「バナー博士。確かに良好な手段とは思わない。だが、やらなかったことで苦労しては困る」 「そんなの兵器に活用されたときの詭弁に過ぎないだろう」 「人間とは愚かなものだな。自ら破壊者になることを選ぶか」 「そうは言うが俺は国の英雄でも国王になる人間でもない。普通の、ギークの、エンジニアだ。道は少ない」 「#名前1#」 「みんなそうだ。黙っておけば誰かが、何かがやってくれると信じている。自由だと言いながらも結局は他人に自分の命を任せるしかない術を持たない。だから異世界が怖い。異世界はそんな俺達と違うからだ。異質なものは恐怖しか産めない」 「#名前1#、やめろ」 「スコットを初めて見た人間はどうだったか。『おい、それはどこの生物兵器だ』などとぬかす。俺が今までどうやってスパイをしてきたとおもってやがる!! あいつらのためにマスタリングしてた俺がただのギークに成り下がった! スコットは何もしていないのに! 殺されるところだった!!」 「#名前2#、もういい。やめろ」 フューリー長官に首を捕まれて床に沈められた。頭から昇っていた余分な血が流れ出る。 「……ああ、すいません」 ガジャリ、とインカムからノイズ混じりの声が聞こえた。 「#名前1#、バートンが来てる。もうそこは爆発間近だ。聞いてるのか、おい#名前1#!!」 「ああ、聞こえている」 爆発と同時に#名前2#はトランスフォーマーを起動させた。シャツの裏地に仕込んでいたトランスフォーミウムがシールド状に広がって爆風から身を守る。 「グっ!」 「#名前1#ッ!」 スコットが落ちていく#名前2#の体をキャッチして壁に張り付いた。 「大丈夫か#名前1#」 「ああ。とりあえずクリントを探そう。やつが一番面倒だ」 「だな」 ** ホークアイが監禁室に向かっている、という情報を受け取った#名前2#はすぐさま拳銃を腕につけた。まだまだ威力は相殺できるほどのものではないが今は文句など言ってられない。 L4でスコットから下りてソーのもとに駆け寄った。 「この機械はなんだ!?」 「俺の相棒。大丈夫、味方だ。ハルクを止めるために置いていく、いいなスコット」 「了解だ」 ラジオで返事をするスコットにソーは驚きと好奇の目線を送った。 「壊れない程度にやってこい。それじゃあ、ソー。あとは頼んだ」 「わかった」 「おい、#名前1#。バートンを追えるか」 「oui」 インカムからフューリー長官の声を聞き取って#名前2#は走り出した。 「#名前2#、バートンの矢を止めることって出来る?」 隣を走ってきたロマノフに#名前2#は渋々と「盾になれと?」と聞いてみた。 「分かってるじゃない」 「俺のは一人用だ」 「あなたもシールドになるから平気よ」 「なるほど、俺は死ぬことが前提か」 珍しく笑った#名前2#はシールドと拳銃を持ってバートンの前に飛び降りた。狭い通路だ。彼ご自慢のホークアイを使われるとトランスフォーミウムで擬態させたロマノフがバレてしまう。 #名前2#はそっと息をはいて笑いかけた。 「洗脳されて使われるとは。いつの間にそんなに弱くなったんだ」 「戦いの最中に話せるほど、お前は強くないだろう」 物陰に隠れながらも矢を放ってくるバートンに#名前2#はイヤイヤおどけた様に前に出ていく。 スコットがそこにいたならば大爆笑されるほどにはおぼつかない足取りだった。 弓をからめとり銃を構える。ミシミシと音を立てながらも#名前2#の腕が曲がっていく。苦悶の表情を浮かべながらも#名前2#は耐えていた。 離さない#名前2#にバートンは仕方なく腹を蹴っ飛ばした。 「そのやわな体で何が出来る」 散弾つきの矢が放たれた。拳銃で撃ち落とすと同時に距離をつめられ頭を沈められた。肺から空気が一気に飛び出て視界がチカチカと光った。それなのにバートンの鋭い視線と上に隠れたロマノフの真っ直ぐな目だけは把握している自分がいる。自分でも呆れるほどに#名前2#は単純に仲間を視認していた。 「やってくれ」自分もろとも。 上から飛び降りたロマノフの力の入った蹴りが決まった。続けて回し蹴りがバートンの顎にヒットして通路のフェンスにぶち当たる。 「痛い」 「痛くしたわ。ほら、そっち持って。医務室に連れていかないと」 #名前2#は頭をさすりながらバートンの右肩をつかみ担ぎあげた。彼は前よりも少し痩せたようだった。 コールソンが死んだ。フューリー長官の口振りはまとまれないヒーローたちのせいだと責めているようでもあり、助けられなかった仲間を悔やんでいるようでもあった。インカムが珍しくヒートした。 「通信は不能。キューブも不在。ソーもハルクもいなくなり、情報はない」 円卓テーブルに集まった#名前2#、キャプテン・アメリカ、スタークはコールソンの形見であるキャプテンのカードを見つめた。血濡れのそれには彼がほしがっていたサインはない。 「……私のせいかもな」 「いや。それを言うなら誰のせいでもありません。正義だ、理想だ、科学だなんだと俺達が言っても結局仲間すらも守れなかったのが俺達です」 自虐的なその言い方に周りは#名前2#を見つめた。コールソンと特別仲がよかったわけじゃない。友人ではあったが相棒ではなかった。それでも#名前2#は救えなかったことを悔やみ、苦しんでいた。ガツリ、と金属が響く音がして#名前2#の頭から血を出させた。 「俺はアベンジャーズ計画に入ることが面倒だった。超人を集めて脅威と戦うなんて、バカみたいだと。でもコールソンは信じて待っていた。ろくな化学反応も起こせない俺達が結束するのを」 ** 「おい、#名前2#。ちゃんと生きてるか?」 インカムからスタークの声が響いた。焦ったような騒ぎ立てたいようなそんな声だ。 「勿論だ」 「ロキの居場所がわかった。あの野郎は俺のスタークタワーを狙っている。おい、お前のトランスフォーマーは飛べるのか? まさか船にでも変わるっていうんじゃないだろうな」 「平気だ。乗り物はある」 ズタボロの服を着替えてバートンたちと同じ戦闘用の服に着替えた。レザー製のそれはロマノフのように全てが繋がったスーツだ。自室でテレビに姿を変えていたオリビアが着替え終わった#名前2#のもとに絡みつく。 「#名前1#!! 私もついてく!! いいでしょ、ちゃんと乗り物になるわ!!」 「ダメだ。乗り物なら前に作ったものがある」 「あれは操縦がうまくいかないって!!」 「そうだな」 「なら!!」 「だがそれは理由にはならない。大人しくしていろ」 「スコット」 「ライフルと車両用のマシンガン。手榴弾は積んでおいた」 「拳銃じゃたちまわれないんだ。俺用の武器がほしい」 「ケイドの使ってたあの銃はどうだ?」 「いや、あれはケイドが使ってないと。……ああ、そういえば前に薙刀とかいうものを作ったな」 バイクのようなおどろおどろしい小型宇宙船に乗り込むと操縦席に#名前2#、後ろの戦闘席にはスコットが座った。 「ナターシャ、キャプテンたちは?」 「私とバートンとキャプテンはジェット機で行くわ。#名前2#こそどうするの?」 「宇宙船だ」 「ハァ?」 馬鹿にしたような声を聞き流し、#名前2#は1万フィートの空を駆け抜けた。