諭したり黙ったりしないでここにいて

 あのバートンを盗んだ男、ロキが捕まえられたと聞いた。やけにあっさりと降参の意を示したことに#名前2#もキャプテン・アメリカも疑問を抱いていた。ただそれ以上に疑問だったのはロキの義兄であるソーが#名前2#たちの仲間になったことだった。 「それじゃあナターシャ。お前の言い分はアスガルドのソーがやってきて、ロキを連れてどこかへ飛んでいってしまい、アイアンマンとキャプテンが連れ戻しにまた追いかけ、アイアンマンとソーは戦い、放置されたロキをキャプテンが連れてきてようやく帰ってきたと。……これが本当にSHIELDの任務なのか? 俺には理解しがたいな」 「街をつぶしたアンタが言えること?」 「……失言だったな」  アベンジャーズが集められた楕円の机を置いた部屋では、ロキがバナー博士のために作られた檻に入って監視カメラからこちらを見ていた。その視線は#名前2#達を順に絡めとり怒りを煽ってきていた。 「この檻は、あの人間の振りをしたケダモノ用か」と、マイクから音声が飛んできた。 「面白い冗談だな」 「バナー博士、本当にそう思うか? こんな男、殴ってしかるべきだ」 「それには及ばないよ。ありがとう」 「おい、ロキはあれでもアスガルドの者だ。そんな風に扱おうとするな。俺の弟だ」 「だからって崇拝しろとでも? 人を支配でしか共にいられないと考えてるような男を神様になど……吐き気がするな」  鼻息荒く言い切るとキャプテンが「彼の言う通りだ」と援護してくれた。#名前2#はまだ言おうとしたが「……いいよ、#名前2#」とバナー博士に止められてしまった。さしもの#名前2#もそれには止まり不機嫌な顔で黙った。 「それに、聞いたところによると金属の化け物を扱う道化師もいる、とか」と皮肉ったような声が聞こえてきた。  視線がこちらに自然と集まった。ソーも周りにつられて#名前2#を見やる。#名前2#は何も言わずに立っているだけだ。言い切った口のまま目はつむられ、スッと線のように立った姿からは何を考えているか分からない。 「#名前2#のことよ」とロマノフが茶化すように言った。 「みなが俺を見ているだろう。そうゆうことだ」 「紹介はしないの?」 「全てのトランスフォーマーを紹介することなどできない。それにアレらは俺にしか従わない」  そう言って#名前2#はまた口をつぐんだ。ロマノフは呆れたように息をついてまたカメラに目を向けた。#名前2#はアベンジャーズの面々を「個性が強すぎる」と評価したが#名前2#もそれに加わっていることを彼自身は知らない。  話は一変して、ロキについて語ることになった。 ソー曰く、ロキはチタウリという軍隊を待っているとのこと。待っているはずなのになぜロキは進んでこっちに来たのか。それにロキの狙いは四次元キューブとイリジウムという原子のはずだった。 「それは俺が説明してやろう」と颯爽と現れて解説をし始めたトニー・スターク。  イリジウムでアスガルドとの通路の安定化を図ろうとしているのだ、と言うのだが科学者でない人間にとっては話がわかりづらい。キャプテン・アメリカにいたっては「英語で頼む」というほどだった。 「あー……このぐらいのモノはバートンならほとんど手に入るな。未入手は動力源か。キューブを、動かすためのな」  スタークの相変わらずの舞台俳優のような動きに#名前2#はうんざりした表情を見せて「動力源は一体なんなんだ」と聞いた。回りくどく話をするのもスタークの悪いくせだ。 「おお、いたのか#名前1#。あの車がないと君も目立たない人間だな」 「Ninjaの才能があるとほめられたと受け取ろう」 「そりゃよかったな。時代遅れが2人も生まれた」 「Mドナルドの裏メニューも知らないからといって時代遅れと評価するのはどうかと思うぞ」  嫌味には嫌味に返す#名前2#にロマノフは思わず拍手したくなった。スタークのあの苦虫を噛み潰したような顔はめったに見られるものじゃない。  スタークはその仕返しなのか、やけに専門用語を使った解説を続けた。仕方なしに#名前2#は話のよく分からない科学者以外のために日常的な言葉を使って話す。 「イリジウムという超パワーを持ったエネルギーはロキにとって都合よくアスガルドと地球をつなげられるんだ。 時空の壁はそれだけエネルギーを消費する。イリジウムのエネルギーを使えば色んなことが出来る。バナー博士が言ったみたいなこととや、それこそスコットのようなトランスフォーマーが大量生産することも可能だ。 まあ、要するにクリントと一緒に連れ去られたセルヴィグ博士が四次元キューブで道を開くと俺達はロキの仲間と否応なしに戦わなくてはならない。 無闇な戦いの始まりさ。世界大戦ならぬ、異世界対戦だ」  #名前2#が言い終わったところでフューリーが現れてスタークにキューブの追跡をさっさとしろ、と発破をかけた。スタークはげえっと嫌そうな顔をしたがバナー博士に「一緒にやろう」と誘いをかけた。 「#名前1#、折角だから君も来い」 「なぜ」 「面白そうだからだ。さあ、行くぞー」  残念ながら#名前2#はそのまま首根っこをつかまれてずるずると滑っていく。しかめ面の顔ではあったが、抵抗はしない。ラボに着いたら新しいトランスフォーマーについて考えようと思っていた。 「バックレることは許さないぞ。さあ、トランスフォーマーについて聞かせてもらおうか」 「SHIELDの仕事が優先だ」 「喋っても手は動かせるよ。なあ#名前2#。僕からも頼むよ」  そう言われては仕方ない。#名前2#はバナー博士をかなり気に入っているのだ。はあ、とため息をついて携帯を取り出した。ハンズフリーの電話をかける。今、スコットはロキが気になって仕方ないらしく監視役という名のもとに檻のもとにいさせている。 「もしもし、スコットか。ラボに来て欲しいんだが」 「無理」 「わかった」  電話を片手に#名前2#は「ほらダメだったろう?」とおどけたように言う。実に簡潔な物言いにスタークはイライラする。なぜこの男はこうもいけ好かないように動くというのか。 「スコットはロキの方が気になるらしい。聞きたいことはなんだ」 「トランスフォーマーがあの檻にいるのか?」 「違う。スコットはヒューマンモードを取得している。この中にだっていられる」 「トランスフォーマーって、確か車にだけしか変身しないんじゃなかったのかい?」 「外観が金属的なものなら他にもなれる。ラジカセとか、ヘリコプターとか。戦車にも。それに、ビーストモードなら生物にも可能だ。鳥や、恐竜とかだな」 「へぇー。面白い。ほかのトランスフォーマーはいないのか? 見せてくれよ」 「いやだ」といおうとした瞬間に背中を押された。 「すまない。おしゃべりの途中か?」とキラキラした目を熱にたぎらせたアメリカの超人が立っていた。 ** 「すまないが、俺はトランスフォーマーの試作品を取ってきたい。どいてくれるとありがたいんだが」と早口で告げてラボから#名前2#は逃げだした。アベンジャーズ内での喧嘩など無意味だとしか思えない。しかし戻らないとキャプテンが疑う。スコットはもうロキの所から移動していたらしくGPSは開放部分を指していた。行ってみるとスコットはベルトをつけて空を見つめていた。カメラアイがくるりと動いて#名前2#のことを捉えると実に嫌そうな表情をしてみせた。 「スコット」 「なにさ」 「嫌なのは分かるが命令だ」 「……。サイアク」 スコットはベルトを外すとヒューマンモードになった。嫌だ、という顔を押し出して#名前2#の服の裾をつかむ。 「スコット、オリビアはどこにいる?」 「んー、多分だけど戦闘機の辺りかな」  オリビアというトランスフォーマーはまだ試作品段階だった。ヒューマンモードにもなれないし、いいAIも入れられなかったので知能も低い。レーザービークのようなかっこいい暗殺者を目指したが残念ながら#名前2#たちの後を追いかけるヒヨコのようになってしまった。 「オリビア?」 「#名前1#!! 見てみて、あたし新しい銃を使えるようになったよ!!」 「おー、すごいな」  ボロボロになった戦闘機は気にせずに#名前2#はオリビアの頭をなでた。えへへと笑う彼女はStG44を2丁かついでいる。 「弾倉の換えは?」 「うん、ないよ!!」 「そうか。なら一緒にラボに来てくれるか?」 「わかった!!」  バサバサと翼をはためかせてオリビアはスコットの肩にとまった。娘が親離れしていくような寂しい気持ちを抱えながら#名前2#はスコットらをつれていく。その背中を見てオリビアとスコットはくすくすと笑った。  ラボに戻るとキャプテン・アメリカとスタークが年甲斐もなく口喧嘩していた。一触即発な雰囲気であるのは感じ取れていたが#名前2#は気にしない。奥にいるバナー博士の方に近寄って「何が起きてるんだ」と聞いてみると答えを得る前にスタークと目が会った。 「#名前1#、お前もこの時代遅れになにか言ってやれ」 「トランスフォーマーを連れてきた」 「……」  黙った2人に#名前2#は入口で隠れていたスタークとオリビアを押し出した。 「男がスコット。鳥がオリビア」 「鳥? そいつ銃を持ってるじゃないか」 「正しくはStG44だ。スコット、オリビア。挨拶」 「スコットです」 「あたしオリビア!! #名前1#が言ったことは必ずするよ!! 偉いでしょぉー!!」  キャプテン・アメリカはため息をついてこっちを見つめてきた。オリビアもスコットもその反応に少し気にする素振りを見せたが目を閉じて直立不動の姿勢をとった。作った主と似てくるものらしい。 「#名前1#ーー君も戦いをジョークだと思っているのか? 全く集中した素振りもないな」 「……そんな砕けた思いなどない。あんたこそ俺達を馬鹿にしているのか。俺達はエージェントのチームだ。ああ、生憎だがオリビアもスコットも俺も戦いなんて無意味だと思っているんでな。国のために戦う気などサラサラ無い」 「……。アメリカが負けてもいいと? 国民が脅かされてるこの事態を見過ごせるのか、君は」 「それは、」と#名前2#が言い返そうとしたところでバサリと大きな翼が#名前2#の顔を覆った。 「やめてよ、#名前1#。あたし気にしないよ。スコットも、気にしないって言ってる」  #名前2#もキャプテン・アメリカもこれには何も言えなかった。オリビアの幼い物言いに、自分たちがどれだけ子どもじみたことを確認した。 「……。すまない、#名前1#」 「ッ、ああ。俺もしゃべりすぎた。すまない」 「なんだなんだ、そんな空気を作って。おい、オリビアだったか? トランスフォームは何が出来る?」 「??」 「おい、#名前2#」  空気をあえて読まないスタークに少しだけ救われて#名前2#はオリビアの頭をなでた。幼い彼女に酷な仕事をさせてしまった。 「オリビアは俺のいうことしか聞けない。スコットともしゃべれるが命令できるのは俺だけなんだ」 「ふーん」  スタークは憤慨だ、とでも言うように鼻を鳴らした。#名前2#はそんな振りをされてもすべてスルーして時計をいじる。  ビピッと音がするとカシャカシャと動き出してスプリングつきの拳銃に変わった。肘から腕にかけて長いスプリングがついており、ピンを外すと一瞬で手のひらに収まるように出来ている。 「すごいな。これってどうなってるんだ?」 「これはトランスフォーミウム。普通のトランスフォーマーじゃ質力変換が出来ないから分子変換を出来るように作った。普通の拳銃よりも軽いから鍛えてない人間が使うと片腕が吹っ飛ぶ」 「なんだその変なやり方は。分子変換? 俺達のことをバカにしている。そんなの有り得ない」 「なら自分で試してみることだ」  空手の構えをとるとスタークも構える。スタークはにやにやと笑い、#名前2#はスッと息を吸う。折角だからやろう、という雰囲気を醸し出すとキャプテン・アメリカが「悪い冗談がすぎる」と俺らをおしやった。  先ほどのオリビアの件でこらえてしまったらしかった。 「#名前1#。お前はフューリー長官の隠していることを知っているのか?」 「知っていても話すと思うか?」 「思うね。 自分の上司が相棒たちを殺す準備でもしてるのかもしれないのに?」 「構わない」  #名前2#の強い物言いに周りは黙ってしまった。 と、いいタイミングでフューリー長官から連絡が入った。 「こちら#名前1#。どうしましたか?」 「ロキが口を割らない。#名前1#、行ってみてくれるか?」 「了解です。……それでは」  #名前2#が一礼するのにならってスコットとオリビアも礼をして後をついていく。不穏の種はもう生まれてしまった。