プリミティブな感傷
翌日。#名前2#はコールソンにこってりとしぼられた。そんな枯れた状態でファストフード店(Mドナルド)へ向かっていた。昨日の今日でバートンが連れ去られたことに#名前2#はロマノフからも叱られてしまったのだ。 「あんたがいて何してるのよ」 「…すまない」 「それに、敵も殺してないなんて……。いつからそんなに臆病になったの?」 #名前2#はむかっ腹を立ててその質問には答えずに電話を切った。お前らの情愛に俺を巻き込むなと吐き捨てて。 いつものセットを頼んで、カウンター席に座ると隣の男が「なんだ、それ」と聞いてきた。昼のある時間にだけつけてくれるミックスアップルパイを指差していた。混乱した頭だった#名前2#はなぜか「なんだ、欲しいのか?」と聞いていた。 「ちがう。ただ、そんなのはメニューになかっただろう?」 「これはある時間にだけつけてくれる裏メニューだ。……有名だぞ?」 「ここには初めて来た」 「ふーん」 アメリカ人なら大体は買っていると思うのだが。と聞けば 「いつもは部下が買いに行ってるからな」と返される。 「なるほど」 #名前2#は驚きも一緒にバーガーと噛み砕いて飲み込むと「なんだって今日は自分で?」と聞いてやった。男の目はさっさと聞け、と雄弁に語っていたのだ。 「よくぞ聞いてくれた! 今日はここに来るといいことがあるとうちの執事がな!」 「そうか。よかったな、パイのことを知れたじゃないか」 「……おい、それだけか?」 「他になにがある」 「つまらないな、お前ー」 「……俺は誰かに面白いと思われたわけじゃない」 男ートニー・スタークーとはそこで分かれてしまった。バーガーも食べきってないままに#名前2#は出て行ってしまいスタークはいささか鼻白んだ気持ちでパイをオーダーしに行った。 彼らはその後、スコットとジャーヴィスのそれぞれにさっきまで自分がしゃべっていた相手が商売人であったことを知り驚くのは別の話。 ある日フューリーに呼び出されたと思ったら分厚い冊子を受け取った。ダサいロゴで企画のコードネームが書かれている。 「アベンジャーズ計画?」 「に、お前も入るんだ」 #名前2#は全く意味不明な計画書を開いた。フューリーの言う"復讐者計画"とは、特殊能力を持った者たちを集めて起こり得る脅威に備えようーーという超人たちを集めた計画だった。 計画参加者はトップクラスの能力を持つが、それをまとめあげる者はいないし性格破綻者だっている。そしてなぜか復讐者という名前。 ため息をつきたくなった。これでどうしようというのだろうか。カリスマ持ちが何人集まったって烏合の衆じゃないか。船頭多くして船山登るという日本のことわざをフューリーは知らないのか。 「このメンツは今から集めるのか?」 「そうだ。ロキが杖を持って行ってしまった今、こいつらを集めるしかない」 「oui」 それでも頷いてしまうのは#名前2#がフューリーの部下だからである。寝首をかいたならばすぐにこんな命令辞めてやる。 先ほどまでロシアにいたロマノフはブルース・バナー博士を説得しにインドへ、フューリーはキャプテン・アメリカを、コールソンはアイアンマンに交渉しようとすることになっているらしい。 #名前2#はアイアンマンとだけ面識がある。一方的にバナー博士は知っているが彼はきっと#名前2#のことを知らない。キャプテン・アメリカに関しては全く興味が無いので冷凍保存されていたということしか知らないのだ。(コールソンから話は聞いていたが。) 「#名前1#。お前、アイアンマンと知り合いだろう?」 「一応は。でも、俺は話したというよりも喧嘩しただけかと。連れて行かない方がいいと思いますが」 「コールソンはそうは思ってないそうだ。行ってこい」 強制命令のごとく部屋を出るとコールソンが携帯を持って待っていた。 「待ってたのか?」 「スコットに乗ると快適だからな」 #名前2#はため息をついて愛車のもとにコールソンを連れて行った。自分はいつからシールドのタクシー役となってしまったのだろうか。そろそろ金をとってもいいだろうか。不毛なことを考えながら車に乗りこんだ。 「先に言っておくが、俺は交渉には不向きだぞ」 「知っている。日本車は乗り心地がいいからな。乗りたかっただけだ」 心配している、とどうして口に出せないんだろうか。不器用な友人に#名前2#は少しだけ微笑んで「ありがとう」とつぶやいた。 はあ、とコールソンはため息をついてスタークタワーに向かった。その背中を見送って#名前2#は車の中からスタークタワーというビルを見つめた。下からでは思いのほか高く見えて頂上が彼方にあるように見えた。それでも…… 「やっぱりダサいな」 「ダサいとは失礼だな」 「……?」 車の窓の外にはコールソンが呼びに行ったはずのトニー・スタークがにこやかに手を振っていた。本当にMドナルドで会ったやつだと内心驚いてしまう。パイの裏メニューを知らなかったのか、と。 「何してるんだ。コールソンが呼びに行っただろう」 「ああ、お前の車だったから降りてきたんだ。ちょうど外にいたし。S.H.I.E.L.Dの勧誘も面倒だったし」 「なるほど。お前は人に従う器じゃないからな。かくいう俺もそうだが、長官の言うことには逆らえない。アベンジャーズ入りを命令された」 「君が? 君がアベンジャーズ? 君って#名前2#・#名前1#だろう? あのトンラスフォーマー作ったリアル狂人エンジニア!」 「失礼だな」 「#名前2#のそれは狂人と同じだ」とスコットがラジオでしゃべりかけてきた。 「!! 今、この車がしゃべったのか? ああ、君のことをけなしてなんかないさ! なんだ、へぇー、君みたいなやつが仲間? 面白いじゃないか」 「面白い? 人を貶したり面白がったりいちいち面倒なやつだな。おい、スコット。コールソンに連絡は?」 「してある」 「おいおい、ちょっと待ってくれよ。そんなことしたら俺はまた逃げなきゃ」 「あら、もう逃がさないわよ」 可愛らしい声が聞こえた。スタークの後ろにはコールソンとパートナーのポッツがにこやかに立っている。コールソンは渋い顔をしていないので良い展開になったようだ。 「ポッツ!? 何してるんだ」 「今日ワシントンへ飛ぶわ。ねえ、そこのドクターさん。送ってって下さらない?」 「イェア、もちろんだ」 ポッツの問いかけに#名前2#が答える前にスコットがカーステレオで答える。バン、と助手席の扉が開きアピールをしていた。 #名前2#はため息をつきながらも「案内しましょう」と言った。スタークは乗らないと宣言したのでコールソンを助手席に迎えてポッツは後ろの座席に乗りこんだ。 「この車、すごい静かなのね」 「……」 「日本車ですから。クリーンディーゼル車だとか」 「あらそうなの」 ポッツに対して#名前2#は始終無言だった。コールソンがなんとか返事をするがポッツは#名前2#の方に視線を向けていた。 「ねえ、……ドクター」 「ネスト」 「え?」 「ネストとよんでくれ、Ms.ポッツ」 「ネストね。それってヒーローネーム?」 「そうだ」 「本名を教える気は?」 「ない。というより、レディはスタークのことはいいのか? 俺にそんな視線を送るべきじゃないだろう」 コールソンは頭を抱えたくなった。#名前2#はサムライのような気質というか、女性にうつつをぬかしたくないという男だった。 ポッツとしても下心なしに仲良くなりたいという気持ちなんだろう。(ステータスとして友人になりたいというのもあるのかもしれないが。) 「あら、嫉妬してくれるの?」 「そうだな。レディのような美人に一途に愛されるのならば嫉妬するだろう」 ポッツは肩をすくめて前を向いた。コールソンが何か言おうとしたがその前にスコットのケーブルがコールソンの手にモールス信号を送ってきたのだ。『S・T・O・P』と言われてしまえばコールソンは何もしない。友人が喧嘩することもなくこのドライブを終わらせてくれて助かったとしか言いようがなかった。