自分に自信ばかり

 後輩のヴィルはとにかくうるさいやつだが、可愛がればそれなりに黙っている。というよりも黙り込む。むむっと唇をとがらせて俺の頼んだものをきちんと持ってくる。犬みたいだな!と笑ったらカームにドン引きされた。持っていたカルボナーラのパスタがフォークから落ちそうになる。カームは器用に手を動かして中に詰め込んだ。 「あのさあ、あの子って俺たちが思ってるよりも有名人なんだよ?」 「へ~~」  カームはヴィルのマジカメアカウントを見せてくれた。この学園に入る前からモデルだとかマジカメグラマーとして有名だった、と聞いていたが確かにフォロワー数はえげつないことになっている。フォローしてる人間はごくわずかだった。 「これ誰フォローしてるんだ?」 「さあー。俺もマジカメはロムしかしてない」 「そうか……」  別のところに気を取られてしまい忘れてしまったのだが、問題はヴィルのファンだとかいうやつから「ヴィル先輩をパシリにするのはやめてください!」と脅しっぽい文句をもらったことである。カームとかいう姫とそのナイトと呼ばれてたのに今はあのヴィルをパシリにする人間だとうわさになっているらしい。レオナだって人を顎で使っているくせになんていう扱いの差だろうか。 「まあこれを機に後輩で遊ぶのやめれば?」 「えーー」 「あの子も寮長になったしさ、俺たちも三年になるじゃん。新しい後輩のことに目を向ければいいじゃん」 「ああ……あれだっけ、パートナー制度を結んだって子たちが入るんだっけ」 「そうそう」  ここ最近、パートナー制度を結べる年齢が下げられたことが有名になっていた。というのも、年齢が低い彼らにも法で守る手段が必要だとかなんだとかで16歳からパートナー制度に申請できるようになった。その引き下げとともに話題になった二人がそろってこの学園に入学するらしいという噂があったのである。 「ニュースで見た目とか出てたけどぜーーたいうちの寮だと思う」 「見た目で言うのかよ」 「言うよ~。うちの寮は見た目でほぼ決まるじゃん。まあほかにもいろんな要素はあると思うけど」 「浅慮な思考回路してるな」  そんなわけでヴィルのことは放っておくようにしたらヴィルの方から俺に近寄るようになった。飲み物も俺の金ではなく自分の金で払って俺に持ってきたり、水やり当番をわざわざ代わって俺と一緒になったり。小テストをわざわざ見せてきたり。 「あのさあルークからも言ってくれない? ヴィルに1年生たちと仲良くしろって」 「僕もいますけど」 「いや、ルークだけが頼りじゃ困るじゃん」  あいつ、アレでも憧れの的ってやつだろう?と俺が言うとルークはあはははと大声で笑った。中庭だからいいものの、これでうちの寮の談話室だったら怒られるところである。 「おかしい。#名前2#さんも気にすることがあるんですか」 「#名前2#さんだって後輩を目にかけてるって言ってくれる?」 「すみません、何だか意外だったので」  ルークは笑いながら「突然突き放さないであげてください」と言う。 「ヴィルも困ってるんだと思います。一種のコミュニケーションがなくなったわけですから」  そんなに赤裸々にものを語っていいものかという疑問はあったのだがルークがそういうのだから仕方ない。諦めてヴィルにまた買い物リストでも渡しに行くかとポムフィオーレ寮に戻ろうとしたら廊下で人とぶつかった。 「ちょっと、ちゃんと前をむ……」 「あれ、ヴィルだ。ちょうど良かった、あのさあ」  俺の言葉を聞き終える前にヴィルはさっと間にあった小さなボロ紙を掴んだ。ぐしゃぐしゃになったそれを急いで後ろに隠す。なんでそんなにバレるような仕草をするんだ……。 「ヴィル、今の何」 「なんでもありません」 「何でもないわけないだろ! 怖いよ、見せろ!」 「別に呪いとか掛けてませんーー!」 「お前かけそうだから!!」  見せてくれないヴィルに動きを止める魔法をかけた。医療用の魔法だが少しだけなら使えるようになったのだ。ガッチリと握られているメモ帳らしき紙は見覚えのある字と柄が見えた。カームの家から買い取った貨物列車に顔がついたキャラクターのものである。ビックリするくらいに人気がなかったと聞いている。こんなのを使ってるのは俺ぐらいだと思うのだが。 「……これ、見覚えがあるなーー。おかしいなーー」  棒読みで言いながら魔法をとくとヴィルは「ばかー!」と勢いよく俺のことを叩いてきた。右手をつかみ、左手を掴む。動物の喧嘩みたいな姿になった。 「#名前2#先輩からもらったリストですけど!! 何か!!!」  ヴィルが逆ギレするように叫んだので俺も「あ、そうですか……」と返事をするしかなかった。 「……じゃあさ、俺の新しいリストは受け取ってもらえんの?」  そのリストを気に入ってるんだか俺を恨んでるんだかは置いといて。新しいメモ帳を差し出すとヴィルは涙目になりながらも受け取った。 「お金はあとで請求しますよ」 「はいはい。明日の昼までに頼むな」 「お弁当ですか」 「作る予定」 「じゃあアタシも作りますから」 「わかった」  また栄養がなんちゃらとか作り方が危なっかしいだとか言われるのかもしれない。正直、食べられれば何でもいいと思うのだがヴィルにはそうじゃないらしい。 「……それでは」  ヴィルはふっと綺麗に笑って俺を置いて歩いていってしまったが途中で立ち止まりハンカチで自分の目を拭いてるのを見てしまった。やっぱり涙目だったのか。明日はヴィルをちょっと甘やかさないといけないかも、と思う事件だった。  結局、ヴィルをパシリに使うなという脅し文句は来なくなった。俺はよく知らないがカームが何かしたのかもしれない。ヴィルは一緒に弁当を作り、食べるようになった。同じ学年のヤツらと仲良くしてるのか心配だったがヴィルがいるしファンのやつらもいる。何とかやって行けるのだろい。 「#名前2#さん、買ってきましたよ」 「んーー。ありがと」  ヴィルが俺とカームの間に座るようになったのはなにか意味があるのかないのか。分からないままである。