番外編
世祖の髪の毛が長くなってきた。いつもなら自分で勝手に髪の毛の色もスタイルも変えるくせに何に影響されたのか俺に切れと言う。髪の毛を切るには専用のハサミがいる。ネットで検索していたら、五虎退がそっと近づいてきて短刀で切ってみたらどうかと言った。そんな危険なことはできない、と言ったが彼は聞かなかった。失敗したら世祖は自分で戻すだろうし、沖野さんが面白そうだからと許可を出したのでやるしかなくなった。 「じゃあ、そこ持っててな」 「はい」 「はーい」 五虎退と今剣が頷く。切れ味の鋭い短刀は少し触れただけでぷつり、と切れてしまう。上手く層を作れるように髪の毛を少し手に取ってはゴムで結び段を作った。ぱちぱち挟むピンが分からないので2人に上に持ち上げてもらって世祖の髪の毛を切っていくことにした。手に取っては刃を当てる。それを繰り返していくわけだが、世祖は暇になると遊んでしまう。五虎退も今剣も話しかけるが世祖はどうにもどこかに視線を向けてしまうので頭が動いてしまう。 「世祖。止まる。とまる」 昔のように繰り返して言うと一定の効果があるがすぐにどこかに意識が飛んでいく。ある意味、世祖の成長ではあるのだがめんどくさいというのが本音だった。何回も何回も中断しては切り、と作業がループしていく。完成したのはどこにでもいそうなセミロングの髪型だった。前髪についてはさすがに無理がある、と判断して世祖は自分で短くさせていたが中々によく出来ているんじゃないか。 「んふふふ」 世祖が抱きついてきたので大きくなったからだを持ち上げた。成長したよなぁ、としみじみとそんなことを思った。 「お、可愛いね」 「へー、よく切れてるね」 「世祖、短くなってるー」 「可愛らしいな」 「似合っているぞ」 「! 前髪がお揃いです!」 「あー、ずるいなー」 「いいじゃん写真撮ろうぜ!」 刀剣たちがやいのやいのと世祖の元に集まった。世祖はこんのすけを抱きしめたままふんすふんすと笑っている。いや、自慢げなのか。世祖に集まる刀剣たちがいる一方でじっとこちらを見てくる刀剣もいた。 「ど、どうした」 「………」 大倶利伽羅は言葉も少ないが要求は確実に出してくるし通そうとする。どうしたものか、と思っていたら太鼓鐘がこちらにやってきた。 「伽羅もお願いするのか?」 「ああ」 「へへっ、なあ#名前2#さん! 世祖の髪の毛いじってもいいか?」 「じっとしないのを我慢出来るならいいぞ……止まってるって出来ないから……」 「ぃよっし!!」 大倶利伽羅も連れて太鼓鐘が世祖のもとに走っていく。セミロングでも髪の毛をいじれるのなら俺も覚えてみようか。そんなことを思ったが絶対に練習が必要になるだろう。誰か練習相手になってくれそうな人がいればなあと思いながらその人だかりを見ていた。次に来たのは太郎太刀だった。#名前2#さん、と声をかけられて俺も思わず正座する。 「どうした太郎太刀」 「お願いがありまして……」 「? 何かあったのか、なんなら目安箱の方に……」 「いえ、これは口でお伝えするのが筋かと」 「筋って……」 「私の髪の毛を切っていただけないでしょうか」 「んんん~~??」 あっ兄貴ずるい!という声が聞こえて次郎太刀がこちらを見ている。極の機動でこちらに来たのは不動だった。 「ずるい! それなら俺も切って欲しい!」 「いや、お前たちのー」 「えーなら僕もやってよ。不動だけなんてずるいし」 大和守も加わった。わーわー声が拡がっていく。切らなくてもなにかして欲しいという声がそこかしこから聞こえている。 「いや、だから刀剣男士は手入れしたら直るんだってば」 「中傷にならなければいいんでしょ!?」 「#名前2#さん、髪切るようのハサミならあるからな」 「ぼ、僕も短いけど! やってほしいです!」 収集がつかなくなってきた。まず沖野さんから許可を貰わないと出来ないんだってことも伝えてないのに。どうしようかと思っていたらバチンと烈しい音がした。 音の出処はもちろんと言っていいのか世祖だった。まだ結んでる途中の髪の毛を無理やり引っ張るとこちらにびょんと飛んできた。慌てて受け取りに体を持ち上げると服が着物へと移り変わりまるで風呂敷で飛ぶ忍者のようにふわふわと俺の腕に降りてきた。よかった、世祖も審神者としてこれを治めるようになったんだなと淡い期待を抱いた。そう、それは期待だった。 「せいが先に きるの!」 あーー違うよーーそっちじゃないんだよーー。そんなことを思っても仕方ない。次に起きた論争に俺は耳を塞ぎ審神者たちがオススメする美容室を探そうと思った。 世祖の髪の毛を洗い流すと、わざとなのかその日の髪の毛の色は薄紫のグラデーションに変わった。世祖が髪の色を変えるのはかなり珍しい。前に変えたのは俺が確か病院に緊急入院した時に世祖もまた入院していて泣きじゃくって朱色に変えていた。髪の毛が気持ちによって変わるなんて源氏物語みたいですね、と博識のナースさんが教えてくれたのでよく覚えている。源氏物語って髪の毛の色変わらないよな?などとバカみたいなことを思いながら聞いていた。 「世祖、綺麗だよ」 世祖はくすくすとまた笑っていた。ドライヤーで乾かしベッドに送ると世祖は疲れていたのかすぐに眠ってしまった。 「なんじゃ、もう寝たのか」 「陸奥」 「せっかく祝ってやろうと思ったんに、出られんかった」 おかしい。俺は陸奥を持っているし使えているが彼を制限したつもりはない。なぜ出てこなかったのかと考えて思い浮かんだことがあった。 「……。陸奥、ほかの刀剣男士に遠慮してるのか?」 「ふっふふ。何言っとう。わしがそんなこと気にするはずなかろうて」 でも、さっきまでの近侍には毛利藤四郎がいたから、と俺が言い淀むと陸奥は「気にせんと、明日も早いんやき寝とき」と俺の背中を押した。確かに明日は馬当番なので朝が早い。四時起きである。 「………」 「……」 陸奥はそれ以上何も言うつもりはないらしい。陸奥守吉行の本体を刀掛けに置くと俺も布団の中に滑り込んだ。いつも以上に集中して刀を持っていたので疲れたのかもしれない。すぐに眠りについた。 陸奥守吉行は深夜出歩く。#名前2#が審神者でないため、普通の刀剣男士よりはちょっとした自由がある。それは例えば世祖の部屋に深夜にでも入れるといったことだ。 「むつのかみ、どうかしましたか」 「おお、今日の夜番は今剣だったか! 安心じゃの」 「しつもんにこたえなさい。さっしてはいますが」 「ほうか」 陸奥は自分の持っていた手紙をそっと世祖のベッドサイドのテーブルに置いた。そして先程山で積んできた野花を添える。 「きれいですね」 「……世祖に、似合うと思ってな」 世祖を撫でる顔つきはよく#名前2#に似ていた。今剣はそれを指摘するのもなんだか悔しくて「おわったのならはやく ゆきなさい。つうほうしますよ」と尖った声を出す。 陸奥守は微笑んでそして部屋を出ていった。その姿すらも彼に重なるのがさらにイラついた。 朝起きて陸奥に挨拶をすると、おはよーさんと笑っていた。いつも通りの彼の挨拶だった。昨日のことなど何も無かったかのように振舞っている。それならば、と#名前2#も何も言わなかった。 世祖を起こしに行くか、と刀を提げて部屋に行くと世祖はベッドの上で小さな花をふわふわと浮かび上がらせていた。そして髪の毛が編み込まれて花が飾られる。 「似合うな、世祖」 「うん!」 陸奥の鍔がカチャンと高い音を立てた。
離れ難きもの 「人間らしさ」「刻印」「否定する」 珍しいことに、誘ったのは#名前2#からだった。鶴丸はぽかんとしていたが、「行かないのか?」と言われて慌てて「いく!!」と大声で返事をした。 鶴丸と#名前2#の関係はとても不安定だった。#名前2#は主ではない。元からそこも不安定なのだが、三日月が来てから刀剣たちとの関係性はどこかほつれたりしていた。 刀剣たちは最初から#名前2#とは線引きをさせられていた。主じゃない男に従わなければならないのである。彼が下した「自分に従うこと」という命令はこの本丸の運営のためには仕方の無いことだったし、それは分かるのだが。必ず「#名前2#さん」と呼ばなければならないのは、刀剣たちの口調さえも制限させていたのは「統制」の意図があったのである。どんなにそこに情をつぎ込んでも壊れてくれなかったのだ。それが、三日月はあとから来たのにその錠を壊してしまった。 ずるい。ずるい! ずるい!! その気持ちが刻印されて体がずるずると重くなっていく。 だって、今までいた刀剣たちだって#名前2#のことを愛していたのだ。 れは恋愛感情ではなかったかもしれないけれど、それでも、確かに、彼の特別になりたかったのだ。ずるい、と。妬ましいと思うと人はどこか心がトゲついてくる。欲しいと思っていたものが横から奪われてしまった気分になる。ピカピカのガラスの向こうにあったそれは、いつの間にかSOLD OUTの紙が貼られていた。 刀剣たちは人間ではないが、人間らしさはある。#名前2#はそれを否定していたくせに、三日月のためにそれを無くしてしまった。だから鶴丸は最近はずっと#名前2#と会話していなかった。たくさんの刀剣たちがいて会話せずとも生活は成り立っていた。会話せずとも、#名前2#はいつも通りで、鶴丸は自分の方が馬鹿みたいに思えてきた。 #名前2#に抱いているこれは一体なんだろう。それは鶴丸にも分からない。なぜ三日月は「情愛」と確信していて、自分にはそれが出来ないのだろう。鶴丸にはよく分からなかった。だから、この分からないが三日月に負けた原因じゃないか、と最近は思うようになった。 会話もないので外から#名前2#のことをよく見ている。好きな物も、世祖を探している時も、こんのすけと遊ぶ時も。彼は笑っていた。彼が笑ってることは当たり前なのに、それを一つ一つ見るだけで鶴丸の心は暖かくなった。そして、その笑顔は自分が居なくても見られることが寂しかった。 これまでは#名前2#と一緒に遊んだりすることもあった。映画を見たりゲームをしたりしていた。それらがサッパリなくなっても自分の世界も彼の世界もいつも通りを装って動いている。これが例えば三日月なら。#名前2#はどこか歪になるのだろうか。寂しがったり、泣いたりするのだろうか。 「鶴丸さん? どうかされましたか?」 一緒に山菜採りをしていた前田に心配された。今日は日差しも穏やかですし、眠くなりますよね。と可愛らしいことを言う。そうだなあ、と鶴丸も頷いた。穏やかな日差しだ。本当に。暖かくていい気持ちになるのが普通だろう。それなのに、鶴丸の心は重く鈍っていた。泥にまみれた服も「面白い」ではなく「汚らしい」と思う。そういうものにしか見れなかった。 前田はこごみやわらびを腰に括りつけたカゴにごそごそ入れると「帰りますか?」と鶴丸に言う。前田も汗臭くなっていた。刀剣だったらいい匂いがするかと言えばそうでもない。汗もかくし、臭いもする。 「先に行ってていいぞ。俺はもう少し山の中にいたい」 「そうですか……」 前田は心配そうにしながらも山をおりていく。極だから木々の間を飛び抜けることもできるのに一歩一歩地面に足をつけて帰る。前田の実直な姿は見てて気持ちいい。#名前2#を思い出す。鶴丸はなぜか帰りたいという気持ちが湧いてこないまま空を見ていた。山にいようと空は空だ。変わらない。なんで自分でも空を見たのか分からない。ただ、見ていると何となく考えごとに集中できそうな気もした。 「ここにいた」 「ん?」 #名前2#の声だった。ぼすん、と鶴丸の足が蹴られる。 「#名前2#さん?」 「前田が心配してたぞ。お前が帰らないって」 「ははは、そりゃすまん」 鶴丸は謝ったが内心では#名前2#が迎えに来たことと久々の会話をしていることに驚いていた。ちゃんと今は普段通りに話せているだろうか。声は震えてないだろうか。心配事は尽きなかった。 「何見てたんだ?」 #名前2#は鶴丸の傍に来て上を見上げた。彼からは珍しく香の匂いがした。 「#名前2#さん、香をたいたのか?」 んっ!?と#名前2#は驚いた顔をした。照れたようなそんな顔をして鶴丸と同じ目線にしゃがみこむ。 「いや、だって、お前が嫌いって言ってたから」 「え?」 「この前、おっさんの臭いは好きじゃないって。さすがに俺もやばいかなあって何も言わなかったんだけど。ちゃんと意識してみた、んだけど。歌仙にお願いして」 つまり、それは。鶴丸のため、と言うことだろうか。いや、#名前2#がおじさんかと言われるとまあそれは否定しないが、それでも#名前2#が自分のためにしてくれたのかと思うとうれしかった。 「鶴丸、そろそろ帰らないと夕飯戦争負けるぞ」 「戦争なのか?」 「今日はテーブルごとにパスタソースが決まる」 「はっ! それは大事だな!!」 テーブルに座れる人数は決まってるのだから早く行かないと人気ソースはすぐになくなる。鶴丸は味にそこまでうるさい人間ではない。むしろうるさいのは#名前2#の方だ。その彼がわざわざ自分を迎えに来てくれるのがおもしろかったし嬉しかった。 後日、鶴丸は自分の方が君に会う香水を選べるぞと言うと#名前2#が「じゃあ一緒に買いに行ってくれるか?」と言った。 珍しいことに、誘ったのは#名前2#からだった。鶴丸はぽかんとしていたが、「行かないのか?」と言われて慌てて「いく!!」と大声で返事をした。