探偵たちは藪の中
コナンが刑事さんと容疑者の3人を集めて話したのは、明度対比の話だった。犯人を見た時の周囲で印象が全く変わるという話。 灰色の濃度が変わったのは、背景が重い色か軽い色かで全く異なるせいだ。白ければ灰色は濃く見えて、逆に濃い色に囲まれれば明るく見える。それと、身長も。周りが身長の高いバスケ部に囲まれると犯人は小さく見えて、逆に身長の低い子どものマネキンに囲まれると犯人は大きく見える。 なので、その錯覚を消したときに身長は阿笠博士よりも同じか少し高いくらいで、服の色は灰原と同じ濃度のグレーを着ている人が犯人だ。そして、歩美にはなぜ犯人が女性に見えたのか。それは犯人の仕草のせいだった。 「あれ? お兄さん、足の下に何かついてるよ?」 「ああ?」 フリーターの男が足をあげる仕草は確かに女性らしいそれだった。普通は前に足の裏を持ってくる。女の子座りが出来ない男がいるように、男の股関節は女のそれよりも硬い人が一般的だ。 だがフリーターは突き指をしていて前に靴を前に持ってこれない。そのため、後ろに足を回して肩越しに足を見るようになるのだ。 歩美はそんなフリーターの姿を見て「ああ~!」と叫ぶ。犯人はこの人だ、と告げているようなものだった。 「だ、だがよ! 俺の背中には2番なんて書いてないだろ!?」 「お兄さん、そのカバン背負って見せてよ」 「ああ?」 「ね、いーから」 コナンに言われるがままにリュックを片側にかけた男の後ろ姿はバスケのユニフォームと同じフォントの形で半分に隠れた2が見えた。 「ああっ、2が見えます!」 「本当ですね! 全部の証言が一致しました~!」 鳴狐の言葉に刑事たちは「こいつ誰だ?」的な雰囲気が醸し出される。世祖が「#名前2#のとぉだち」と言われなければマジで変な人だと思われたはずだ。だが鳴狐はそんなこと気にしていないらしく、犯人のフリーターに「どうしてこんなことをされたのですか?」と聞いている。 「あの人が、あの人が悪いんだ!!」 その言葉を皮切りに羅列されたのは被害者のシェフに彼女の前で恥をかかされたという……。何というか見栄っ張りもここまでくると悲しいし、それだけのことで女性と別れたのはある意味正解であったと世祖も鳴狐も思っていた。 被害者のシェフは自首するまで犯人の名前を言わないと言っていたが、『同じ釜の飯を食った仲間だから』と言っており最早答えを言っているとしか思えなかった。(フリーターは昔、被害者のシェフと働いているから。) 「鳴狐さん」 「どうしましたか?」 「今日はどうしてここにいたの?」 「ああ、世祖の誕生日パーティーの準備の予約にございますよ」 「いいなあ、パーティー!」 本当は少年探偵団たちもお祝いしたかったが、世祖にとってはこのパーティーはルーチンなので新しく人を呼べないと言われて我慢していたのだ。 少年探偵団の言葉に鳴狐は微笑んで「内輪のみのパーティーですが60人ぐらいは来る予定なのでケーキは色々なところに予約しているのでございます」と笑う。どんな内輪か気になるところだが、刀剣のあだ名をつけられている人たちなのだろうなあと予想はつく。 「あれ? じゃあどうしてスポーツ用品店にいたんですか?」 「テーピングが切れてしまったのであります。血気盛んにみな遊ぶのでテーピングが家にないと困りますので」 どんな遊び方なのか周りには心配だが、世祖は何も気にした様子はない。本丸では遊びにだって本気でやることだ、と#名前2#がよく言っていたのでその心根が根付いている。たまにやり過ぎて脱臼しそうになるが、それはそれで笑いの種になるのでかなりヤバい感覚であることは確かだ。 「? 哀、目、目」 「え? 目になにか付いてる?」 えぇ?と哀を見つめる少年探偵団たちはぷふっと笑い出した。マスカラが落ちきれてなかったのか隈をさらに縁どって掠れるように顔に黒いものが出来ていた。 「あはは、マスカラまだついてんぞ!」 「え、嘘、やだ、トイレで落としたつもりだったのに……」 コナンはそんな哀の姿を見てカチコチに固まっている。世祖は鳴狐に「#名前2#、ひみつ」と呟いてからコナンの頭の中を覗き見してみた。世良と写る謎の少女の写真、そして哀がその少女に似ている。そんなことが頭の中で渦巻いていた。 「世祖ちゃん? どうかした?」 黙って頭をフラフラさせる世祖に歩美が心配そうにこちらを見ている。何でもないよーと手をふって真っ直ぐ歩き出した。先ほどの少女は誰なのだろう、と考えながら。 事件から数日後に#名前2#と世祖は阿笠宅にやってきた。瞼を腫らして時差による眠気に戦いながら#名前2#はもごもごと挨拶をした。 「#名前2#君、大丈夫かい?」 「勿論っすよ」 横にいる世祖はポーチを大事そうに抱えていて#名前2#はデパートの包装がされたナニカを抱えていた。 「これ、哀にプレゼントっす。世祖に色々してもらったみたいで」 「あ、ありがとう……」 世祖とお揃いだな、と笑った#名前2#がしわくちゃの顔をしていて泣いてきたのかと直感で分かった。きっとスイスへ行ってきたあとなのだ。 そしてそのままプレゼントを持ってきてくれた。もう元気だから、と教えるように。その他人への心遣いがもっと自分に向けられればこの男も生きやすくなるだろうに。自分は与えられる側だけのことがなんだか寂しかった。 「これ、阿笠博士に」 「これは?」 「糖質低めのパウンドケーキっす」 脂質はありますけど、糖質低い方食べても痩せるってテレビで言われてたんでと出された紙袋に阿笠の目が輝く。哀は止めようとしたが、#名前2#の言葉に仕方ないと肩を下ろして「お茶でも飲んでけば?」と言う。 「いや、やめておくよ」 「あら、女の誘いを断るの?」 キョトンとした顔の#名前2#はけらけら笑って「わかった、お邪魔する」と靴を脱ぎ始めた。世祖はそれを見て一緒に靴を脱ぐ。哀に渡したポーチと世祖のポーチで見せ合いっこをしていたら生煮えの野菜を入れたカレーを持った沖矢が来たのはまた別の話だ。