裏切りの真相
コナン、安室さん、沖矢さんが波土のもとへ走っていく。探偵が3人いたら文殊の知恵になるのか、船頭多くして船山に上るのか。現場保存できるよう入らないよう皆さんに言ってから警察に電話をかけた。 目暮警部と高木刑事に会釈してから探偵さんたちの方へ案内した。社長さんたちの方へ戻ると「刑事と知り合いなの?」と円城さんに聞かれた。 「ちょっとお会いすることが何度かあって……。また今回も容疑者かな」 「また、って……」 すごく残念そうな人を見る目にされた。流石に世祖を容疑者にはしないだろうが俺はもしかしたらなるかもしれない……。高木刑事は色んな人を呼び出して話を聞いている。あの素振りからして一緒に居るお二人が容疑者と思われているんだろうと察しがつく。 「ね、ねえ……。これって、もしかして私たち疑われてる?」 円城さんが不安げに聞いてきた。布施さんも心配そうにこっちを見ている。 「そうです、ね」 言い淀んでも仕方ない。アリバイはあるのかと聞くと説明するのは難しいと二人ともおんなじことを言った。 刑事さんたちが客席から出てきてホール入り口に集まった。探偵組も帰ってきて 「死亡推定時刻が分かったよ」と教えてくれた。くいっと裾を引っ張られて体をかがめると「あのね、この犯人複数犯みたいなんだ」と教えてくれた。 「だから、ここでお話してる時に何か聞いたりしなかった?」 「特にはないかなぁ」 「死亡推定時刻の午後4時半から5時半の間に長時間姿が確認されていないのは布施さんと円城さんだけのようですね」 「いえ、私は今朝からお腹を壊していてここのトイレにこもっていたんです。それで、#名前1#くんらが来ると三条さんから連絡が着て急いで外に迎えに行ったんです」 「わ、私もホールを駆け回っていました。リハの見学をしたいっていう人たちもいましたし……」 「ん? スタッフに連絡したのに社長が迎えに?」 「こっちの手違いです。本当は園子ちゃんたちも来る予定だったんですけど、来れなくなって。園子ちゃんの方しかスタッフに話が行ってないだろうってことで急遽三条の方に話を通したんです。元は俺たちも別々に来ようとしてたんで」 「なるほど、君たちがこんがらせてたのか」 「すいません……」 「怪しいといえば、彼もそうじゃないんですか!? スタッフジャンパーを金で買ってここにもぐりこんだあの雑誌記者は!」 布施さんが指した先には円城さんと言い争いのようなものをしていた記者さんだった。名前は?と聞かれてしぶしぶ梶谷宏和だと答えた。 「俺がホールに入ったのは午後5時20分ごろだよ! ウソだと思うならこのジャンパー売ったスタッフに聞いてみろよ」 「……だとしたら妙ですね。円城さんがいなくなったのは4時半から4時50分で、布施さんは5時から5時15分……」 「3人のうち、誰か2人が共謀して被害者の首を吊らすのは無理か……」 とりあえず死亡推定時刻から俺が容疑者入りしてないことはいいのだが、よく知らないまま刑事さんたちが話を進められるのは困る。コナンに話を聞こうとすると容疑者の3人に「野球やってた人はいる?」と聞いている。 残った探偵どちらかに話を聞こうかと思ったが……面倒そうだ。……人が死んでいるのに面倒もあるものか。 「沖矢さん。被害者の状況聞いてもいいですか」 「おや、僕に聞いてくれるとは」 煽るような言い方はやめてほしい。安室さんのまとう空気がひんやりしている気がする。 「ライトをつけた鉄のバーを通してロープは一番手前の座席に結び付けられていました。緞帳を動かす部屋には鍵がかかっておりおそらく人力で吊り上げています」 「気になる点はいくつかあります」 安室さんも話に入ってきた。沖矢さんが大人しく口を閉じたのを見てから続きを話し始める。褒めるのを期待されてるのか何なのか。赤井さんにはまだ長谷部たちが話しかけるので言い訳も効くというものだがこの人はそうもいかない。仲良くなるのは危険というか、線引きが難しい人だ。 「ステージの袖に置かれていたパイプ椅子とロープと工具箱。ロープの結び目近くに何かをねじこんだような穴、客席途中に落ちていたタコ糸のついた野球のボール」 「ああ、それで野球部ですか」 「まあ、そこは確定できませんが……」 「#名前2#」 世祖に名前を呼ばれて後ろを向くと高木刑事が「ありがとうね、世祖ちゃん」と笑いかけている。 「波土さんの胸ポケットからこんな紙が見つかったんです。携帯を抜いた代わりにいれた紙かもしれないので、筆跡鑑定をお願いしてるんです」 「何て書けばいいんですか?」 「ごめんな、の一言と名前をお願いします。沖矢さんと安室さんもお願いしますね」 名前を書いて一度高木刑事に返却する。確認してもらってから安室さんの方に移った。コナンが近づいてきた。思案顔で世祖に縦ジワをいじられている。 「#名前2#さん、何か気づいたことあった?」 「んー、実際に見てないからなあ。なんとなく想像はしてるけど」 「やっぱり滑車、かな」 「だろうなあ。でも、普通にやったらロープめっちゃ余ってぐだるはずなのに」 「誰かが手伝った、ってこと?」 「他殺の誰かがやったのかもしれないけどな」 「左利きなんですか?」 「ええ、まぁ……。いけませんか?」 「いえいえ。この前、お会いしたときには右手でマスクを取っていたので右利きなのかなあ、と」 「そうでしたか?」 じろりとコナンににらまれた。ごめん、と謝ると「僕が左利きって言わなかったのも悪いよね」と自省してくれてる。 「……。でも。クロスドミナンス……」 「言い訳はできるけど、それをあの人にやらせるわけにはいかないし」 世祖の頭を撫でて抱き上げる。そろそろ立ちっぱなしが辛くなるころだ。筆跡鑑定の結果を待つ間、ベンチに座りたいところだがライブホールなのでそのベンチもなかった。 「何、筆跡は波土禄道本人のものだったのか!?」 「はい……。鑑識さんの話だと、紙は被害者が歌詞を書くときに使っていたメモ帳の一枚で、そのメモ帳に書かれていた他の歌詞と一致したそうです」 刑事さんの声は遠いがまあまあ聞き取れてしまった。被害者は誰かに負い目を感じていて何も抵抗しなかったんだろうか。 「負い目に関して何か思い当たる点はないのかね」 「負い目ではありませんが引け目なら…。『自分は親しみにくい顔だから他のイケメンミュージシャンと差を詰めるのに苦労する』って波土はよく漏らしてましたから」 「『まあ、気にするな』と私は彼に言ってましたよ。君の近寄りがたい雰囲気も魅力の一つだってね」 「そういえば、SNS見てたらなんか雰囲気違ってたな」 「確認したの、#名前2#さん?」 「画像検索してたらなんとなく印象が違うなあって思ってさ。加工した感じもなさそうだったし、SNS見てみようっと思ってさ」 「そういやぁ、波土が整形したっていう噂もあったねぇ。もっともそいつは、波土が高校を卒業したころだったかな」 「前にも言ったでしょ、そんなのデマだって」 梶谷さんの言葉に円城さんがヒスっぽい声で言い返す。梶谷さんの喋り方も厭らしいが、それに乗せられて餌を与えるような姿勢は……見ていて気持ちよくない。 「そのころは私も彼も毎日のように運送会社でバイトして…ミュージシャンを続けるお金を稼いでたんだから」 「…なのに波土は苦労を共にしたあんたを捨てて別の女と結婚したんだよなあ。確か結婚したのは16年前、ASACAは17年前作曲だったか? どうして今になって作詞することになったんだか」 厭らしい話し方だが、情報を探偵たちにばらまいてくれる。耳を澄ませて彼等の喧嘩を聞いていた。