刀剣男士と

【一期と】  電話をとると京都で大家族の兄をやっている男からの着信だった。今度、そちらへ伺うから準備していてほしい。そういった内容だった。来るのは己一人なので大きな準備はいらない、あえて言うならば手料理が食べたいので食品はまた追って買いに行きたいと言う。本丸での彼とは違って遠慮なくいうさまはどことなくおかしかった。電話口で笑うとそれが聞こえたのか一期は「何を笑っているのですか」と不機嫌そうに聞いてきた。 「すまん、何でもないんだ。んで、何日泊まるんだ?」 「二泊三日を予定しています」 「ふーん?」 「よいではないですか。鶴丸殿たちは行ったのでしょう?」  一期の「全く困った人ですな!」みたいな声にまたまた笑いが漏れて了解の返事をした。本丸の彼と言い方がそっくりだった。  浅草へ行きたいと言われた理由は浅草寺へ行きたいというミーハーではなく、抹茶アイスを食べたいという京都人のプライドにかけたものだった。  来て早々に電車移動しなければいけなかったのだが、交通の便の良さに特に疲れることもなく数十分間かけて浅草へ来た。外国人の多さは京都にも負けてないという口ぶりに適当に頷いて裏路地へ入った。どこもそうだと思うが、表通りの人が賑わったところよりも裏通りの少し静かな場所の方がいい店を構えていたりする。一期を連れていつもより奮発した定食屋に入ると、女将らしい人がいらっしゃいと声をかけた。 「えらい別嬪さんだね、お連れ合いかい?」  聞きなれない単語に#名前2#が首を傾げると一期がニッコリと笑顔を浮かべて「秘密なのですが……」と言葉を濁した。女将はあらあらと笑って席を案内してくれる。メニュー表をもらって#名前2#は素早くスマホで連れ合いという言葉を検索した。検索結果の一番上には配偶者という言葉が大きく出てきた。前に座る男を睨むと、出てきたお冷をちゅるちゅると飲んで一期はなんにも知らないような顔をしている。 「おい。おい…!」 「私はなんとも言ってませんよ」  ふふ、と一期が笑った。全く、こいつは……と#名前2#は腹が吐き出せない怒りでいっぱいになった。天ぷら定食を頼み、二人で食べ始めたが女将と若い職人の好奇の視線に晒される。食べてる飯が上手いのか上手くないのか不味いのかそれすらも分からずに#名前2#は早く出たいと懸命に食べ続けた。  元から自分が二人分の料金を払うつもりではあったので財布を取り出したのだが、それすらも湾曲して伝わったのか女将は「またご贔屓に」と笑っている。その中身が自分たちをどう思っているのか考えたくなくてすぐに一期の腕を取り店をあとにした。 「すみません。……嫌でしたか?」と、歩いてすぐのところで言われた。悲しげな声に取られた腕を寂しそうに手のひらに絡ませる。まるで蜘蛛じゃないかと思う。男を喰らう女郎蜘蛛だ。#名前2#はため息をついて後ろを向いた。水色の髪の毛が揺れている。そんなにおどおどとするならばあんな素振りをしなければよかったのに。 「めんどくさい事になるだろ。ジェンダーフリーじゃないぞ、この世はまだ」 「それは分かっておりますけれど……。いえ、申し訳ありません。口答えする意図はないのです」 「知ってるよ。……抹茶アイス、食べに行くか」 「はい」  どうせ乱あたりの入れ知恵であんなことをしたのだろうと思いながら再び腕を掴んだ。別に触ることは気にしていない#名前2#はそのまま歩き出す。後ろで一期は顔を真っ赤にさせたのだが、すぐに落ち着かせて横に追いついた。#名前2#のものになりたいが、#名前2#を自分のモノと思うには一期には度胸がなさすぎた。あわあわとしたままその手に引きずられるのが彼にはお似合いなのだ。それをひた隠して必死に顔を作り横を歩く姿は周りからしたらその手の人間だとすぐにバレてしまう。 「わぁー」  そしてそんな姿は大抵、知り合いに見られてしまうのだ。  ほんとにほんとのほんとだもんー!!! 朝から女子小学生の叫び声というのは中々にハードだった。世祖を学校に送り届ける任務を請け負っていた#名前2#は後ろから聞こえた声に体をねじった。世祖も後ろを振り返る。少年探偵団の5人がぞろぞろと歩いていた。さっきの叫び声はやっぱり歩美かあと思いながら「おはよー」と声をかける。挨拶の返事を一斉に言われて二つの耳で何とか聞きながら「歩美の叫び声がよく聞こえてなあ」と笑った。 「う、うそ……」 「はは、ほんとほんと。どうしたんだよ、朝から?」  #名前2#の言葉にうぐっと皆が黙った。むむむむむと暗い雰囲気のようなそれが5人を包んでいる。哀なんかはもはや睨んでいる。コナンの方も胡乱な視線だった。うん?と#名前2#が促すと歩美は決心したように口を開いた。 「歩美見ちゃったんだもん」 「何を?」 「……#名前2#さんの浮気場面」  ぽそりと言われた言葉にずるりとカバンが落ちそうになる。 「え、あ、は??」  何を言われているのか分からずに思わず世祖を見るが世祖も事態を把握できていなかった。ハテナだよな、うん俺もだよ。知恵袋ヘルプした方がいいかなあ?とアイコンタクトしながら歩美に話を続けて、と言う。  歩きながら教えてくれたのは、浅草での水色の髪の毛の女性と#名前2#が歩いていたという話だった。訳が分からずんんんん???と首をかしげていた#名前2#だったが世祖に「いち?」と言われてようやく納得した。 「あいつは浮気相手とかじゃない……っていうか、俺まず恋人いないんだけど……」 「ええー!? つきあってないのぉ!!?」  歩美たち3人はかなり驚いていたがまず付き合う相手がいないだろおと#名前2#は苦笑いだった。彼女らの妄想の中で自分は誰と付き合ってたのかという質問は置いて一期について軽い説明をした。粟口薬研や、乱、厚、四藤の後や信の兄であり、ただの友人だということ。彼は仕事疲れを癒すために少しのあいだこちらへ来ていること、浅草へは抹茶アイスの視察のために出かけたのであってデートではないということ、最後に自分には恋人はいないと滾々と説明をした。 「そっかあ」  しょんぼりした様子の歩美になぜかこちらが謝らなければいけないような気持ちになって、そしてそんな気持ちを必死に殺し学校まで歩いた。  大学に着くと加州が席をとって待ってくれていた。笑い話のように一期の話をしたらなんとも言えない微妙な表情を見せる。 「大変だね、色々と」 「ほんとだよ」  あんたに言ってないっつーの、と加州に肩を叩かれた。何すんだよ、と反応すれば黙殺されてしまう。仕方なく授業の準備をし始めた。 【鶯丸と】 鶯丸はマイペースだが自分の意見を通すのが上手い。それを活用してのことか、この世界での彼の職業というのは弁護士だった。俺もびっくりしたのだが沖野さんも初めて会ったときはビックリしたらしい。スーツ姿の鶯丸は似合わないと思ったが何度も見ていたら慣れてしまった。(後から思ったのが鶯丸には砕けた印象が強いのにカッチリフォーマルなスーツを着てることが違和感だったのだ。大包平に直されてなかったらいつも通りの鶯丸になっただろう。)縁が繋がってるのか毛利さんの奥様である妃英理さんとも知り合いらしい。知り合いというだけで何回か会話した程度なので#名前2#や世祖の方が英理についてはよく知っている。 「それで、今日はどんな用事だ?」 #名前2#は鶯丸の法律事務所の人間ではない。なのにたまに仕事を頼まれる。主に大学関係の時によく#名前2#に頼んでくるのだ。鶯丸が得意とするのは問題になりやすいブラック企業のもの。ーー大学生のブラックバイトの訴訟や上司のパワハラなどを得意としている。そのため#名前2#は駆り出されて情報を集めるのだが。今回は違った。なぜかマンション集合と言われていたのだ。そこに知り合いの大学生は住んでいない。 「不倫トラブルというやつだ。修羅場になるかもしれないと怖いからお前を連れてきた」 「さすが鶯丸。自分は戦おうとしない!」 本丸にいた時もそうだったが、この男は極力自分でやることを減らす。特に大包平は鶯丸の手のひらで転がされて色々と仕事をしていた。髭切と膝丸も似たような関係と言えるが鶯丸の場合は分かっててやっているからタチが悪い。 「この部屋のどこにいるんだ? 依頼人は」 「804号室だ。高いな」 「俺なら住まねえ」 「俺もだ」 「世祖が落っこちそう」 「大包平が洗濯物を落としそうだ」 「そこは大包平なのかよ……」 「世祖はどうしたんだ?」 「がっこー。迎えは今日は宗三がやるって」 「ほう、宗三が……」 いつも代わりに行くのは陸奥に頼んでいるのに、今日はあえて宗三である。鶯丸はじっと見つめて早く話せとせかす。 「特に意味はねーって。長谷部と宗三がこっちにいるって言うから暇な方に押し付けた」 「長谷部が行きたがったろう」 「宗三も小夜に会いに行きたいだろうし、世祖の気晴らしになるかなって。3人でどっか行かせることにした」 「なるほど。長谷部はすこし硬いからな」 「沖野さんと一緒にいるから堅くなったな、あいつ。そんで宗三が反骨精神逞しくなった」 「あいつは元から強くなかったか?」 「そうかも」 強くはないが強かに。前に読んだ小説のワンフレーズが宗三には良く似合う。エレベーターに乗って宗三についてああだこうだと言っていたらすぐに階に到着した。 「あれ? #名前2#さんだ」 「あれ? コナンだ」 わざと合わせた言い方にコナンはむすっと顔を歪ませて「なんすか、その言い方」と呟く。 「ははは、モノマネー」 ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき混ぜるとほかの少年探偵団たちにイェーと挨拶をした。今日はテンション高いですね、と光彦に言われる。 「へへ、今日はレポート終わった日なんだ~。あの地獄から抜けたと思うとタップダンス踊れるわ」 「なら踊って見せてくれ」 「あはは、無理」 歩美がおずおずとその人は?と聞いてきた。初めての緑の髪の毛の人に興味津々らしい。 「鶯谷と言う。弁護士をやっているんだ。君たちも大学生や高校生になったら使うことがあるかもーー」 「はいはい、そんな生々しい話はしない」 口を塞がれた鶯丸はもがもがと何か言っていたが突然ニコニコしたと思ったら#名前2#がうわっと手を離した。 「ん?」 「#名前2#さん、どうかしましたか?」 「ああ、いや、何でもない」 何でもないようには見えなかったが。 鶯谷(鶯丸) 弁護士。相手をやり込めるのが上手い。 【鳴狐の場合】 「あの、鳴先輩って確かこういうの好きでしたよね?」 スマホに映し出された未確認飛行物体の文字に鳴はむむ?と首をかしげた。好きといえば好きだが、信じているかといえば信じてない。こういうのは茶化しながら適当に見るタイプだ。ちょっと黙ってそれからこっくり頷いた。 「やっぱり! あのですね、UFOの種類で細長い円筒状のやつってありますか?」 「……煙草型」 「! あるんですね、やっぱり! 私、この前の夏合宿で見ちゃったんですよねー。UFO!」 「……頭、ぶつけた?」 「ちがいますー!!」 さっき話していたのは女子空手部の和田陽菜だ。すごい仲が良いというわけではないが、映画の趣味があって女子空手部の中ではよく話していた。クラスメートたちがからかってくるのを適当に返事して図書室へ行った。 「返却します」 「はい」 「頼んでた本は……」 「粟口鳴さんですね。ありますよ」 渡された本は#名前2#に言われて読もうと決めたものだ。表紙の絵に図書委員がビックリしている。受け取ってから、UFOの本も借りようかと本棚へ行った。 そんな話をしたのも随分と前だったはずだ。和田がまたクラスに来たときには鳴も頭の片隅にUFOなど押しやってしまっていた。ちょうどオカルト的な本を読んでいたところだったので「あ、」と思いだした。 「鳴先輩、UFO事件解決しました!」 「……おめでとう」 「なんか、まだ解決してなかったコンクリのあの事件も解決したらしくて。すごい場面にあっちゃいましたよー」 「うん」 「見たのはUFOじゃなくてソーラーバルーンっていう、黒い袋が空に浮かんでたっていうオチでした」 「…まあ、UFOはあるかどうかわからないから」 和田の話はなんとなく学校の噂になっている。鳴狐に言いに来なくても大体は察していた。言葉を選んで言ったのだが和田はぷくっと頬をふくらませて「鳴先輩、夢がないですねえ」と言う。 彼女に自分が刀剣男士とばらしたらどうなるか。 想像するだけで怖くもあるしおもしろそうだと思う。#名前2#たちがきっと自分を怒りにくる。怒られるのは嫌だが#名前2#と世祖が自分のために杯戸へ来るのは嬉しかった。