東京都の人質
白鳥警部の車につけられていたという暗号を聞いた世祖は俺に家にいるように言った。爆弾は加州と自分で何とかするから、と。そんな言葉で俺が止まるわけないのにな。それでも俺は世祖の言うことに頷いた。俺が死ぬのではないかと心配してるやつをわざわざもっと心配するようにはできんかった。 「……。世祖、お前さあ」 「ん」 「おかわりか」 「ん」 「飲み物か」 「うん」 「喋れよ」 「や」 「世祖、人がいなくなるってこと分からんのか?」 「……」 世祖は黙ったままそぼろごはんを食べた。俺をじっとりと睨んでいる。カルピスが零れそうだ。 「世祖」 「……んう」 「世祖、よく聞いてくれ。俺が世祖や刀剣男士を守るようにみんなも大切なんだよ」 「……?」 世祖はよく分からないという風に俺を見上げた。大切というのは分かっているのに、本丸にいなかった連中を大切に思う気持ちが分からないのだ。困らない訳じゃない。でもこれで終わっていいはずがない。世祖にとって少年探偵団たちはどうなのか? 大事に出来る相手じゃないのか? おかしい話だと思えないのか。 「世祖、おいで」 ソファーに世祖を連れてくる。世祖は少し泣きそうだった。何が正しくて何が悪いかは分からない。でも世祖にとってこのままは良くないことなのは確かだ。 世祖は俺のようになってはいけない。同じ過ちは繰り返すべきじゃない、人生の無駄だから。 「世祖、昔話をしよう。爆弾魔の試合は明日の正午からだから少しだけ時間がある」 「……うん」 「世祖、萩原さんと松田さんとは同じ世界にいた。大事な人だった。死んだって分かった時は、泣いちゃったな」 「………うん」 「白鳥警部が死なないからって、傷つくのはおかしいだろう?」 「……」 「長谷部にも言っただろ? 死ななきゃ安いっていうのはおかしい話なんだよ。命は軽くない。誰にとっても同じことだ。俺も、世祖も、松田さんも、萩原さんも、白鳥警部も、みんな、同じ」 胸を叩くと世祖は泣きながら膝のところに頭を埋めた。うぇんうぇん泣いた世祖の頭を撫でると、ゆっくりと息が収まって最後は寝ついてしまった。 「ねーんねーん、ころーりーよー おころーりーよー せーいそーはぁ よいーこーだー ねーんねしなー」 久々に子守り唄を歌ったが歌詞は合ってただろうか? ぼんやりとしか覚えてないので心配だ。世祖はくふりと笑ってもごもごと腹に顔を押し付けてきた。 明日も頑張ろうな、と声をかけた俺に世祖は眠ったふりをしていた。 次の日、俺に東都タワーへ連れていってほしいと赤く腫れぼったい目をこすりながら世祖がお願いをしてきた。 「世祖」 「加州とせいは、学校の方いく」 「そっか」 「……#名前2#は、しんじゃだめだよ?」 約束してね、と小指を握る。指切りげんまんの歌を歌って世祖と手を繋いだ。まだ小さな手に少しだけ本丸を思い返した。 俺達のいた本丸はいまどこにあるんだろう。 東都タワーに電話してセキュリティ業者を装い陸奥とエレベーターを調べさせてもらっていたらちっちゃな爆発があって乗っていたエレベーターが止まってしまった。 世祖の話によるとあの暗号は学校も示唆されているので外に加州と世祖を待たせているが午後3時までにちゃんと行けるだろうか? 向こうにも水銀レバーなんてあったら液体窒素使うのも大変なんだが。 「やっべ、これ爆弾大丈夫かな?」 「水銀レバーあるけん、刑事さんたち恨んどったらやらんと」 「なるほど」 陸奥によると今の場所は真ん中の展望台よりちょっと上くらいらしい。前にこんな映画見たことあるなあと思ったら、若い頃のキアヌ・リーヴスの映画だったような。バスジャックの話がメインだけど最初のエレベーターもかなり面白かった。 警察のサイレンが鳴ってしばらくすると扉がこじ開けられた。上にいる陸奥はもう爆弾の解除をほとんど終わらせていて盗聴器のためにこそこそ何か喋っている。 「ぐちぐち喋らんとちゃっちゃかやるぞ」 「はいはい」 「#名前2#さん!? #名前2#さんがいるの!!?」 「コナンー、こっちは爆弾解体作業中だから静かにしろー」 「#名前2#さん、そこで何してるのさ!」 「お前こそ何してんだよ」 「こっちのセリフ!」 一緒にいた高木刑事がコナンを押し上げてエレベーターの中に押し込んできた。天井からぶら下がっている陸奥の足を見ながら外に向かって待ての合図をする。 「高木刑事はここで待ってて!」 「あ、高木刑事。メール送っていいっすか?」 「へえ?」 「暗号の答えが分かったんすけど、どこか分かんないんすよね。もしかしたら松田さんみたいに死ぬ覚悟とかしなきゃいけないし」 「………」 「暗号の解読方法はメールに書いときました。目暮警部たちに伝えたください。いつでも動ける準備をしておいてくれって」 「………。だめだよ」 「え、」 「そんな危ないことを君だけには任せられない。僕も何とかそっちに…」 高木刑事が警備員の持っていたバールを取ろうとした時また爆発が起きた。俺はなぜか驚く前に空いた扉から中に入っていたコナンを外に放り出していた。高木刑事にコナンが綺麗にヒットして2人とも転けたのが上に見えた。それがエレベーターから見える最後の外の景色だった。 「良かったんか?」 「何が?」 「コナンたちにわざと働かせるなんて#名前2#らしくないき」 世祖にやらせれば爆弾を見つけて、解体して、犯人を突き止めることも可能だろうがそれじゃあ困るんだ。 「世祖にも分からせないといけないんだよ。コナンたちだってやれば出来るって。だから今回は世祖に関わらせないって決めたんだ」 「ほぉー」 陸奥はへらへら笑っていたがすぐに笑うのを止めて「それで世祖は納得するか?」と最もなことを聞いた。俺にもわからんと笑うと靴を放り投げられた。くっさい。 「なあ、#名前2#」 「なんだ?」 「なんか文字出てきたぞ」 「文字?」 「勇敢なる警察官よ」 「警察じゃなくて刀だけどな」 「君の勇気を称えて褒美を与えよう 試合終了を彩る大きな花火の在り処を 表示するのは爆発3秒前 健闘を祈る」 「やべえ死にそう」 暗号を解く要員としてやっぱりコナンを残しておくべきだっただろうか? それとも今電話して聞いてみるか。 「……世祖に電話した方がいいかなあ?」 「決めるのは俺じゃなくて#名前2#やき」 「そうだよな」 これで死んだりしたら元も子もないし恥を忍んで電話してみた。世祖はワンコールとせずに電話に出てきて「暗号でた!?」と聞いてきた。 「ちょっと分からなそうな暗号が出てくるかもしれない」 「……うん」 「だから、この電話をスピーカーにして世祖に送るから。コナンや高木刑事たちのところに行きな」 「………」 「世祖?」 「しんだらおこる」 ぶつっと電話が切られたけどすぐにかかってきた。暗号聞いてないよな、って思わず笑ってしまったけど爆弾犯にこの声は聞こえてないかちょっと心配だ。 アルファベットのEにVにIにT。残り一秒の時点でそこまで出てきてくれた。ぷちん、と音がして陸奥が下りてくる。蛇みたいな動き方だったので「きもっ」と叫んだら蹴られた。靴を履いてない方の足だったので痛みはあんまりなかった。 「世祖、聞こえたか?」 「うん。カースがコナンとお話 してる」 「あ、あと警察に俺達の救助にくるようにいってくれ」 「わかった」 こんどこそ電話が切れた。何分したのか分からないがとにかく救助のレスキュー隊員が俺たちを引っ張りあげてくれた。自分が昔そういうことをする立場をやったりしたせいか、感慨深かった。 「顔、緩んでるぞ」 「っせ」 「帰るか」 「だな。……泊まってくか?」 「加州がいなかったら」 家に帰ると加州はいなくて、世祖ひとりがぽつんとソファーにいた。 「みんなが、ありがとう」 「そう、言ってたのか?」 世祖が小さく頷いた。陸奥は空気を読んで奥のゲストルームに引っ込んだ。世祖はそちらを少しだけ見たあとまた俺の方を見た。朝の泣いたばかりの顔はもう治まっていて今は普通の顔だった。 「#名前2#」 「なんだ?」 「守る は おかしい、ない、ね」 「……ああ、そうだな」 世祖のことを抱き上げると冬の冷気で冷たくなった体をぴったりと押し付けてきた。寒いなあと呟くと世祖がポケットからエアコンのリモコンを取り出して電源をつけた。本丸にいた時には古典的と言われたそれに世祖がようやく慣れたのかと思うと笑えてきた。 「また佐藤刑事たちに会いに行くかあ」 「うん」 いつになるか分からないけど、また松田さんたちの話したいよな。