東京都の人質
人に好かれることが分からないほど馬鹿じゃないが人に心配されてるって気づくにはそれなりに勘がいる。昔の俺を心配しつづけたあの2人が爆弾魔によって殺された時、俺はようやくあの人たちがいないことへのポッカリとした穴に気づいた。 新聞のおくやみ欄に西暦は違えど同じ日に出た2人に驚いたのは俺だけじゃなかったはすだ。液体窒素使っとけよとか思わなくもないが、爆弾で死ぬっていうのは何となく驚かない話だった。 「えぇー!? #名前2#さんたち、行かないのぉ!?」 「んー…すまんな。大事な人に会いに行く用事があるんだ」 「そっかあー」 それじゃあ行けないね、なんて少年探偵団たちが話してる。コナンや哀には誰か勘繰られてるようだが、お前らは知らない刑事さんだから安心してていいよという意味を込めて笑ったら余計心配された。イマドキの子どもってよく分からない。 凱旋パレードのビデオ撮ってくるからねーと手を振られるので振り返した。今日は11月6日。彼らの命日の前日である。 萩原さんと松田さんとはそんなに付き合いは長くない。2人が早くに殉職したからという理由もあるが、爆弾処理班という命懸けの職業に2人が就いていたからという理由もある。葬儀には呼ばれないような小さな関係だが、それでも礼儀として行くぐらいは怒られないだろう。 世祖が小さくなってしまったので、普通に行くとバレそうで危ないという理由で前日に、しかも他の人には来ないように時間帯を見計らって行く羽目になった。お線香をあげるだけだが、毎年行ける人はなかなかいない。(刑事たちはいつも忙しいものだ。)念のため刑事さんたちのスケジュールを確認してからお宅訪問した。 「悪いわねえ、いつもいつも」 「いえいえ、こちらこそ前日になって申し訳ないです」 「………もう、明日で7年よ」 「はい」 「犯人の1人、捕まってないんでしょう?」 「らしいです、ね」 「………捕まえてほしいわね」 萩原さんのお母さんはそう言ってカレンダーを見上げた。明日のところには黒い丸がついている。全く心が踊らない強調だ。 「妹さん、元気にしてる? アメリカはどーお?」 「元気にしてますよ。この間もうまい中華料理店を見つけてました」 「そう……」 女性の綻んだ表情というのはこちらも笑顔になるものだ。押し付けるような幸せでもなく、縋って受け取る幸せでもなく、ただ少ししたことに喜べる人の顔。 「すみません、そろそろ時間が……また来ますね」 「ありがとうね、今度はお土産なくてもいいわよ」 「……」 曖昧に笑って家を出る。車の中では世祖が誰かと電話していた。こちらを見るとしーっと人差し指を立てて車に乗れと合図をする。世祖はうん、うん、と小声で相槌を打っていたのでエンジンをかけて待っていたら世祖が急に顔を顰めた。 「どうした、世祖」 「ゥンッ!!」 何に怒ったのか世祖は持っていた携帯を後ろに放り投げた。ぼすっという音がしたので、いつもなら「ナイッシュー」と声をかけるが今日はかけないほうが良さげな雰囲気だった。 「どうした、世祖」 「しちょー いって」 「警視庁? なんで」 「いーから!」 どうやらうちのお姫様(笑)はご機嫌ナナメらしい。俺の心を読み取ったのか世祖に脇腹をすごい勢いで殴られた。お前のMAの技術はここで生かすべきじゃないんだが。 松田さんのところに1回寄らせてもらってあんまりお話もせずに警視庁へやってきた。外でコナンたちが待っているのを見ればなんというか、うん、お察しだった。説明を聞くと東京スピリッツのパレードで郵便局強盗を捕まえたらしい。ちょっと意味がわからなかった。イマドキの子はパレードでも犯罪優先なんだろうか。 「それで何で世祖に電話があったんだ?」 「佐藤刑事が明日の実況検分で君たちにも来て欲しいそうじゃよ?」 「……そう、すか」 ああー。これは色々と積もる話があるってやつだな。世祖の視線が痛い話だ。事情聴取が終わってからやるそうなので、来るのは自分たちよりも遅くて構わないという話だけ聞いてお別れした。 明日は11月7日。萩原さんと松田さんの命日だ。萩原さんが死んだ後、俺のところにも何度かメールが送られていた。11月になってから女刑事の話があった。その時は恋人でも出来たのかな?と思ってたが、どうやらその女刑事は佐藤刑事だったらしい。 「なんでバレたんだろうなー?」 「……」 世祖は俺にマジックで書いた紙を見せてきた。俺が刑事さんたちとやらかした数々を羅列した紙だ。つまり俺の行動がとっても派手だから佐藤刑事も勘づいたんじゃないか、と。 「……でもそれ、松田さんか誰かが佐藤刑事に話をしたってことだよな?」 世祖はそう言われるのを見越していたのか持っていた紙を裏返した。書かれていたのは『毎年行ってるんだよ?』という一言。線香をあげに行ってる人は段々と少なくなっているが、全く行かなくなった人ばかりじゃない。佐藤刑事は、気にかけたり、して、いるんだろうか。 「わからない、ね」 世祖の笑い方が少しだけ怖かった。なので腹をくすぐってやったらいつも通りきゃらきゃら笑い出した。よかった、こっちの方が世祖っぽいから俺が好きだ。 実況検分のあと、佐藤刑事に少しだけ時間をもらえる?と聞かれた。世祖と子どもたちと阿笠博士はレストランに少しだけ入ってもらって佐藤刑事と向き合った。 「……」 「………」 「私、昔刑事に好きだった人がいるの」 「……」 「その人は殉職しちゃったんだけど……その人のお葬式に、貴方と世祖ちゃんによく似た妹さんを見たわ」 「はい」 「ねえ、#名前2#くんと世祖ちゃんって、」 「……知ったら戻れないですよ」 「………」 「俺も世祖もヤバいところにいます。そこに入ったら最後、帰れません」 「警察にも、言えないこと?」 「国家機密ですから」 「お手上げ。そこまでいかれたら打つ手がないわ」 「はは、そのまま諦めてくれるといいんすけど」 「………」 佐藤刑事はむすっとした顔のまま俺を見たが、ふと顔を戻した。 「何かあったら大人に頼るのよ? 約束して」 「……」 「ちょっと! 聞いてるの!?」 「はいはい! 分かりました、約束しますから」 俺のおざなりな返事に佐藤刑事はまたムスッとしたがすぐに笑顔になって「何か食べてく? 奢るわよ?」と言われた。 「いいっすよ、別に。警視庁行くんでしょう? 送りますか?」 「そうなのよねー。ああ、あと送ってくれなくて大丈夫よ、この距離なら歩いていくわ」 「はーい」 少年探偵団たちに話を聞かれるかと思ったが、世祖に何か言われたのか違う話を振ってくれた。空気を読める存在ってありがたい。 コインパーキングと警視庁の方向が同じだったので一緒に歩いていたら白鳥警部と高木刑事に会った。爆弾予告があったのでこの食品店に来たらしい。 「爆弾予告ですか」 「ああ。今日は7年前と3年前爆弾事件と同じ日にちだから一応来てみたんだけど……」 「嫌な予感でもするんすか?」 「え?」 「浮かない顔してますけど」 高木刑事は苦笑いしたので俺の予想は外れたらしい。世祖から送られてきたイメージによると松田刑事と佐藤刑事がーというものだった。佐藤刑事に惚れている高木刑事からしたらかなりレベルの高いライバルということだろう。そりゃあ浮かない顔にもなるもんだ。 「貴方達も一緒にカラオケいかない? 9時から由美と約束してるんだけど」 「僕は遠慮しましょう。今日はそういう気分じゃないので」 白鳥警部はそう言って路肩に停めていた車に乗り込んだ。その時、なぜか世祖に裾を引っ張られて店側に体を寄せられた。 ん?と後ろを振り向いた瞬間聞こえた爆発音。この時の俺は世祖にとって守るものがなにか分かっていなかった。白鳥警部の爆弾を知ってたから俺を守ったというこの行動は俺には訳が分からなかった。