黒鉄のサブマリン
コナンが阿笠博士の発明品である水中スクーターで助けに行くという。さすがに海底に私服のまま行っても足でまといになるだけだろう、と#名前2#は待っていることにした。 数十分したあと、古今たちが海面から出てくるのが見えた。古今伝授は慣れたように船へ戻ったあとへらりと笑った。 「帰りました」 「……おかえり」 抱きしめると、濡れますよと突っ込まれたが#名前2#にはどうでもよかった。お前疑われたんだぞ、と言うと「それはそうでしょうねえ」なんて笑っていた。 「レオンハルトが死んだんだ」 「!? ピンガが?」 「おそらく」 パシフィック・ブイで#名前2#も着替えたあと急いでメインルームへと戻った。世祖は既に仕事を終えたらしく、手慰みに何かまた作っているようだった。なにそれ? トリトン。また何かわからないものを作っているようである。 すると、コナンが推理ショーをはじめた。世祖は既にわかっているが助けるつもりはなさそうだった。どうなるのかと思ったが、グレースがピンガだったことが発覚し俺の方も狙われることになった。 「来い!」 「ぉえっ!」 しゅるりとまるでマジシャンのように世祖が持っていたものがポケットに詰め込まれた。 「おい、スプリッツァー! お前なんだろ!?」 「あぁ!?」 「仕事しろってことだよ!」 人質のようにされて#名前2#は一緒に走ることになった。#名前2#さんを、離してっ……! 蘭の声が聞こえる。ピンガがそれに反応するタイミングで、音もなく白く細い腕がのびてきた。 「おかえりなさい」 「古今伝授……!?」 「はやく戻りますよ」 これからのことをどうするのかはコナンたちとも話し合っていない。組織の潜水艦をどうするのか。世祖は分かっているのかもしれないが、#名前2#は知らないままだ。これからどうするのか。このシステムはどうするのか。聞きたいことはまだあるが、世祖はパソコンを閉じてどこかへ行こうとしている。まって、と声を出す前にピンガの強烈な蹴りが古今と#名前2#をそのまま襲った。蘭への威嚇だった蹴りがそのまま#名前2#たちのもとに当たったのだった。 世祖、と声を出す前に世祖は#名前2#たちを見ないでそのまま走り去っていた。 潜水艦をどうするかは世祖は元々決めていた。コナンたちが仕事するのであればそれはそれで構わなかった。哀のためだから自分がやってあげようと思った。それと同時に、世祖は大好きな蘭のために動いてあげたかった。 トリトンはその名の通り、海の王さまである。こんな時のために、と沖野が送ってくれた水中呼吸器だった。水の中の動きに関しても、世祖の力ならばなんとかなる。どぉん、と呟いて世祖は海の中へともぐっていった。目的は潜水艦につける光る装置をつけてやること。そしてコナンを連れて行ってやることだった。 岩陰で待っていたら、コナンが水中スクーターにのってやってきた。世祖が手を振るとコナンが驚いたように息をあげる。 静かに、と人差し指をあげるとコナンはもごもごとこちらに近寄ってきた。世祖は自分の持ってきた海中用ライトのボールをを見せるとコナンの靴を指さした。こくり、と頷いてコナンは潜水艦に向けてボールを打ち上げた。思った通りに光は水中を反射していった。これなら大丈夫、と世祖は上を見上げる。予定では長谷部たちがヘリコプターで潜水艦を狙っているはずだった。まあそれが赤井になっていようと、世祖にはどちらでもいい。仕事さえしてくれれば。 爆撃にそなえて世祖はコナンに覆いかぶさった。もがもがとコナンは暴れていたが世祖の方がまだ慣れている。衝撃波により岩肌も削れて世祖たちはふたりとも遠くへとさらわれてしまった。コナンは気を失ってしまったようだが、世祖は当たり前のように自分の体を守っていた。#名前2#を置いてきてしまった。きっと怒られる。でも、ここまで頑張ってよかったとも思う。古今伝授は大丈夫かな? 疑いはちゃんと晴れたかな。#名前2#と逃げてくれたかな。あの刀は世祖の気持ちをよく考えてくれる刀だからあんまり心配していない。 先程まで隠れていた岩礁はどこへ消えたのか。コナンと世祖は海の中の何もないところに漂っていた。コナンの呼吸は? ……まずい。世祖はコナンにトリトンをつけてやるとそのままぐっと呼吸を取り戻してやった。力を使ったとしてもこのタイミングならバレることはないだろう。 クラゲってこんな気分なのかな、と上を見つめる。キラキラしたものが見えていた。水中はいい。世祖の視界にはいつもは余計なものが見えすぎているから。ただちょっと洋服が張り付くのが気持ち悪い。目を覚ましたコナンがトリオンを世祖に返す。いらない、と世祖は断った。もうひとつ持っているのだ。ポケットから取り出そうとするが、ふと気を抜くとまた沈みそうになる。どうしようと思っていたら、音が聞こえた。エンジンの音だ。ぐっと腕を伸ばす。洋服のリボンがふわふわと漂っていた。哀だ。みえたと思ったら、音が消えた。電池切れらしい。ばっとスクーターを手放して哀はぐいぐいと泳いできてくれた。 コナンにトリトンをあげてしまったので、世祖に慌てて哀はレギュレーターを渡してくれた。もうひとつあるのだけれど、世祖はありがたくレギュレーターを使った。 三人でふたつのレギュレーターを使いながら、ゆっくりと上がっていく。哀は自分のせいで二人も巻き込んだというけれど、コナンと世祖は自分たちで関わりに行ったのだから哀は気にすることなどないのだ。 ぷはっと水面から顔を出したら、八丈島の船着場のところにたどり着いた。どこかのホテル専用だろうか。じゃばじゃばと水を滴らせてあがってくると、世祖はぎゅっと哀を抱きしめた。 「せい、そ……?」 「だーじょぶ」 「え?」 「せい。あいといっしょ! だーじょぶ!」 ふふっと笑ってみせる世祖は自分が哀を囮にして被害を抑えようとしたことは言わないでおこうと思った。たとえバレたとしても、それが哀たちに嫌われるようなことだったとしても、これが最善であると思ったから。なにかの爆発音がして、水柱があがった。吹き飛んできた丸い何かをコナンが慌てて蹴り飛ばす。まるで流れ星のような姿だった、と#名前2#は船から見ていて思った。 船から飛び降りると、世祖はジャンプで#名前2#のもとに飛びついた。 「ばか! なんであんな危険なことしたんだ!」 「うぅ」 「コナンも! 哀も!! 俺たちを放置して勝手に動いて!! もっとこっちを信用しろ!! 生きて帰るからいいんじゃねえんだぞ!! 人を助けて、自分のことも助けて帰ってこい!」 古今伝授が#名前2#の肩に手を当てたが、#名前2#はまだまだ喋り足りないようだった。だが、世祖を見て言いたいことなど消えてしまった。泣きじゃくって#名前2#の足にくっつく子どもに#名前2#はそれ以上は怒れなかった。 「……子どもを信じて俺たちが変われるって言うんなら。お前たちも俺たちを信じてくれ……」 #名前2#の言葉にコナンと哀はごめんなさい、とうなずいた。 あれからピンガからメールは届いていない。どうやらジンに始末されたようだ。