風林火山
「あっぶなぁ! って、#名前2#さんやん。なんでこんなところにおるん?」 「お、平次君。和葉ちゃんも」 なんだ、知り合いかと刑事さんに言われる。というより、まず刑事さんの名前すらも知らないのだが。 「お、大阪の探偵坊主。#名前2#くんに絡んでるのか」 「おわぁ、人が増えた」 刑事さんは自分の名前を名乗り、あんたは毛利小五郎だなと睨んだ。やっぱり怖い視線だった。五虎退がおそるおそる「ムカデは、いなかったみたいです」と小さくしゃべった。 「……そうか、邪魔したな」 大和刑事はそのまま事件調査に戻るそうで聞き込みはもう終わりだと歩いていってしまった。由衣さんはふうとため息をついて「家にどうぞ。ちゃんとお話しましょう」と俺たちを誘ってくれた。ついでに家にいた義郎さんの弟、繁次さんも誘って客室の一間をお借りして9人が狭くるしく座った。人が多いのでコナンは平次の膝の上、五虎退が俺の膝上に座った。由衣さんに至っては座らないという手段である。世祖と今剣はもう少し馬と一緒に居たいということで馬小屋で遊ばせている。変に縛り付けるよりもそっちの方が楽しそうだった。 「それで、#名前2#さんは甲斐さんの事件調べに来たっちゅーわけか」 「五虎退と今剣が始めたことだけど、今年は岩融の方も用事があって俺が来ました。世祖も馬は好きだしいいかなって」 「この二人は毎年お祭りに来てくれるから村でも有名なんだ。特に甲斐さんは可愛がってたよ」 「へぇー……」 義郎さんと康司さんの事件について聞いてみたところ、甲斐さんの事件に関わりはなさそうだと言われた。それなら仕方ない、と俺たちもお暇することにしたのだが折角だから泊まっていけ攻撃を受けて民宿から荷物を持ってきてもらった。金勘定はしっかりしたいところなので迷惑料にプラスしてキャンセル料を割り引いた金額を払い戻しした。本当はお金を払うだけのつもりだったが、ここいらの地主なのか虎田家のご当主にお金は払い戻ししろと言われて仕方なくそのようにした。東京と違って田舎はがばがばだ。 朝早く、馬の面倒を見る習慣が思いだされて体は正直にも四時に起きた。二度寝するのも面倒で静かに準備をしていたつもりだったが、短刀二人は勿論のこと、俺がいないことに気づいた世祖が泣きだしそうになったのだ。慌ててあやしながら廊下に出るとまだ少し肌寒く、急いで部屋に戻った。ふと、足に何かくっついてるのを見つけた。冷たい廊下の上でさらに冷たさを発揮していたそれは…… 「白のビニテ?」 「何でこんなところにあるんでしょうか……」 「#名前2#、ぶるぶる」 「うん、ちょっと寒いよなあ。夏の涼しさ飛び越えてるわ……」 世祖を床に下ろしてまずは着替えさせる。顔を洗いに洗面所にお邪魔してから馬小屋へ行くと馬は世祖に鼻づらを押し付けてきた。懐かれたらしい。軽いブラッシングをしていたら人の声が聞こえてきた。母屋に戻るとご飯できてますよ、と言われた。勝手に馬の世話をしてしまったことを謝るとニコニコとして「ありがとうね」と達栄さんが言う。やっぱり俺には悪い人には見えなかった。 ご飯を食べ終えてそろそろ蘭ちゃんたちも起こそうとしたら今剣と五虎退が上にいってくれた。俺はその間に世祖の歯磨きをしてしまおうと自室に戻ったらどたどたと廊下を走る音がして「#名前2#さんも聞いてください!」と蘭ちゃんに体を引っ張られた。 世祖の機嫌が悪くなる前に歯磨きを終わらせて戻るといつの間にかコナン、平次、毛利探偵もいた。 「#名前2#さんは聞きませんでしたか? ギシギシっていう足音とか」 「いや? 五虎退たちは?」 「歩いている人はいたと思いますけど……」 「ぼくもあるいているおとはききました。でも、かなりおとをおさえていました」 「だ、そうだ」 「ねえ、蘭姉ちゃん。その鎧って、赤かった?」 きゃ、きゃあああ!! 綾華さんが叫びながら去っていく。後を追いかけそうになる俺の服を世祖が掴んだ。後ろを振り向くと綾華さんのことをものすごい形相で達栄さんが睨んでいた。あ、これはやばい人の目だ。ハッキリと実感した。人を殺すという一線を踏み越えると歯止めがきかなくなる人種がいる。この人はそう言う人だ。 綾華さんはトイレに引きこもってしまった。離れていてくれと言われて達栄さんはご飯でも食べましょうと人の背中をぐいぐいと押す。このままだと綾華さんは殺されるのも時間の問題だ。俺はわざと自分の歩みを遅くすると「ここでずっと待っていれば彼女も出てきますよ、トイレで暮らしてなんかいられないんですから」 「……。女性のトイレを立って待つの?」 「立てこもり犯と同じでしょう、やっていることは」 「犯人だなんて、そんな」 「綾華さんの逃げ方は完全に犯人に狙われているものでしたよ。ちゃんとした見張りがいるでしょう」 「何が言いたいの?」 「貴方を、見張ろうかと」 ニッコリと笑った俺に達栄さんが顔を豹変させた。女は化けるっていうのは本当だ。しかも犯人なら特に。スタンガンが当たる前に手首を蹴り上げて避けさせてもらった。油断をついた一瞬でみぞおちに一発。携帯を確認してみたが暗証番号でつまずいた。倒れてしまった彼女を廊下に寝かせて綾華さんに話しかける。もう貴方を狙いに来る人はいませんよ、と。 「達栄さんは? どうしたの!?」 「貴方を陥れるつもりだったようなので気絶させました。スタンガン持ち出されたので正当防衛で押し切ります」 「……。私達がしたことを、警察に話す?」 「何をしたのか知りませんが。甲斐さんのことでしたらきちんと話した方がいいでしょうね。夜道に襲われて死にたくないでしょう」 はぁ、と綾華さんはトイレを開けて出てきた。泣いていたのかアイシャドウが落ちてしまっている。 「悪いことするとやぱり自分のところに返ってきちゃうのかしらね」 「因果応報ってやつですか? 日本独特の考えらしいですけど……まあそうですね。悪いことをしたらそれを暴く人間は必ず顔を見せるんだと思います。それはどんな見た目か分からないけど」 トイレから出てきた綾華さんは大和刑事を呼んでくださいと頼んだ。気絶している達栄さんも連れてきたら虎田家はもちろんのこと龍尾家からも詰め寄られた。 達栄さんが事件の犯人だったこと、綾華さんと死んだ息子さんたちは事件を起こしたことを話した。大和刑事が到着するころには達栄さんも起きていたが、あまりにも口汚くののしるので手をタオルで縛って外で出待ちのようなことをしていた。パトカーでやってきた刑事は驚いた顔をしていたが、ありがとうと頭を下げてくれた。 探偵たちは自分の力を発揮できなかった、と不満を顔に押し出していたが俺はすぐに終わってよかったと安心している。何より、達栄さんが怪しいと言いだした五虎退が一番の功労者だ。祭りは今剣たちと楽しみ、やっぱり馬っていいなあと思わされた。 後から聞いた話だが綾華さんたちは甲斐さんを殺したと思っただけの人たちで殺人罪には問われないらしい。由衣さんは刑事に復帰することにしたらしく、今は大和刑事といい感じなのだとか。五虎退はどこから情報を得たのかと思ったら死なずに済んだ景さんと連絡先を交換したんだとか。 あの事件でご当主たちは色々と反省したのか景さんは自由に動けるようになったんだそうだ。五虎退は毎年来ていて馬も懐いているようだったから、これに懲りずに来年も来てほしいというメールを見せてもらった。嬉しそうな五虎退の横で兄として喜んでいいのか兄のポジションを奪われそうなことに悲しめばいいのかという顔をした一期が座っていた。