風林火山

 ぐいっと引っ張られて座り込むと相手の二人も真剣な表情で正座した。なんでもその毎年の流鏑馬がどうもきな臭くなってきたようで、今回の手伝いはその原因を突き止めあわよくば膿は全て抜いてしまおうというのが今剣と五虎退からのお願いだった。この二人がなんで流鏑馬を見に行っていたのかということは置いといて、長野に行きたいと言いだしたことの方が驚きだった。だって全然関係ない、と言うと五虎退が川中島古戦場によく行くついでに長野観光をしていたのだとなるほど、と深くうなずいた。金は出してやるから一緒に行こうと言うと二人は顔をほころばせた。  新幹線の中でその流鏑馬について聞かせてもらった。とある二つの村が毎年合同で祭りをやっているらしい。その花形である射手は一人きり。どっちの村から出すかは祭りの前に決定戦を行って決めるのだそうだ。しかし、村の中にも対立する家族がおりそこでは予選を行うのだとか。楽しそうだな、と言うと今剣は「あんなの、ちからのこじを しめすだけなので!」といい笑顔で言った。そっかあ、と俺も乾いた顔になった。  六年前、今剣が推していたらしい射手が亡くなってしまい今はまあまあ上手い男が村の代表を務めているのだとか。とりあえず村の家系図を見てください、と五虎退が図にしてくれた。虎の一族と龍の一族。示し合わせたような名前だった。 「まずは虎の方…今のご当主は虎田直信さんです。奥さんは虎田達栄さん」 「辰だったら完全にスパイだな」 「この人が一番怪しいです。不気味な男の人たちとコソコソと……。それに6年前、猟銃も祭りに持ち込んでいました」 「完全に真っ黒の人じゃん……。でも、しっかりした証拠がないと事件性があるって言えないもんな」 「息子が二人います。義郎と繁次さん。善郎さんにはお嫁さんがいて、由衣さんです。元刑事さんらしいです」 「つぎは りゅうのいちぞくです」 「当主は龍尾為史さんです。こちらは先代の盛代さんもいます。息子さんも二人。康司さん、景さん。本当は康司さんにはお嫁さんがいたのですが亡くなっています。景さんにはお嫁さんの綺華さんがいます」 「……なんで、こんなに知ってんだ」 「かいさんが しんだりゆうを さぐるためです!」 「頑張りました」 「その甲斐さんってのは一族と関係ないのか?」 「おまわりさんなので……」 「あー、地方公務員だっけか。あれって地元に就職できなかったか?」 「かいさんは いちぞくとはかんけいないですが じもとしゅうしょくで あっています」 「なるほどねー」  村の中に民宿があるらしく二人についていったら、道の途中でいつものメンバーに遭遇した。つまりは毛利探偵ご一行なのだが、向こうも俺がいるとは思わなかったのかすごい顔をしている。 「なんっで、お前までここにいるんだよ!」 「まで?」 「服部の兄ちゃんたちもいるんだって、さっき聞いたんだ」 「へー」 「#名前2#さん このひとたちは?」 「あれ、今剣たちは初めてだっけ。えーっと、自己紹介して」 「さんじょう つるぎ! しょうがくせいです!」 「粟口五虎です……」 「毛利小五郎さん、は知ってるよな。御嬢さんの蘭ちゃん、一緒に暮らしてる江戸川コナン」  #名前2#の慣れたような紹介に毛利たちも頭を下げた。今剣と呼ばれた少年たちは恒例のようにあだ名を教えてくれる。今剣と五虎退だそうだ。分かりやすい。事件があったのかと聞くと新幹線で聞いた両家の息子が一人ずつ亡くなっていることを知った。 「6日前か、じゃあ東京に情報とかは来ないよなあ」 「流鏑馬のお祭りってそんなに有名なの?」 「知ってる人は知ってるっていう感じ、でしょうか。僕は馬を見るのが好きなので…」 「ぼくは ごこくんにさそわれました!」 「競馬場に行きたがる小学生なんてお前らくらいだよ、全く……。それで、これからどこかへ行くんですか?」 「今から龍尾家に聞き込みだよ」 「龍尾家の方かあ」 「ああ? なんか用事でもあんのか?」 「流鏑馬のお祭りの方のことなので毛利探偵には関係ないかも…」 「で、でも……甲斐さんの事件と関わりがないとは言えません、す、すみません」 「甲斐さんってあれか、前までは射手をやってたっつー」 「今剣たちがずっと追いかけてた射手さんですね。刑事だからほとんど大会とかには出なかったけど、いい腕をしてて応援し続けてたって」 「ごねんまえ、いつもどおりみにいったら かいさんがなくなったことを きかされました」 「なるほどなあ。坊主どもは虎田家、龍尾家とは知り合いじゃないのか」 「顔見知りってくらいでしょうか……」 「俺たちは別のことが気にかかってここに来てるので、このまま虎田家に行きますね」 「なら毛利探偵の助手とでも言えばいい。案内してくれるだろ」 「わぁー、太っ腹ぁ」  五虎退と今剣の頭をわしゃわしゃと撫でてから毛利探偵たちは行ってしまった。コナンは不安そうにこっちを見ていたが蘭ちゃんに手を引っ張られて前を向いた。ごそごそと鞄で何かを探していた世祖はようやく顔を表にあげてにっこりと笑った。  虎田家に毛利探偵の助手と偽って入ろうとしたが、普通にお祭りの見物客と勘違いされた。五虎退が言った通り本当に顔は覚えられていたらしい。いつも来てくれてありがとうね、と達栄さんが笑った。この人が怪しいということだったが、第一印象は良い笑顔を浮かべる人、だった。  馬小屋を見せてくれると言って義郎さんの奥さんである由衣さんが俺たちを案内してくれた。本丸にいたので馬の世話には慣れている。世祖は馬と何やらごにょごにょと会話し始めるのを横目に馬小屋の掃除を手伝った。きちんとやらないと繊細な馬の心が傷つくのだ、と刀剣男士に口酸っぱく言われていたことが染みついている。 「ごめんなさい、お客様なのに……」 「いえ、馬の世話は割と好きなので。世祖も楽しんでるみたいだし」 「あの子は何か……えっと、」 「自閉症、ですけどサヴァンもあって、ちょっと扱いがめんどくさくて」 「妹さんでしょ? そんなこと言っていいの?」 「血は繋がってないんです」 「! ごめんなさい」 「いえいえ、楽しく暮らしてますから」 「#名前2#さん、誰か男の人が…!」  俺の元に五虎退が、世祖の元に今剣が駆け寄った。え、と由衣さんの声が聞こえたと思ったら扉はすぐにがらりと開かれた。褐色肌で顔に傷をこさえた男の人がいた。まるで田舎のヤクザである。 「奥さん、ここにいたんだな。ちょっとあんたに聞きたいことがあるんだが」 「聞きたいことって? 主人のことならもう他の刑事さんに……」 「俺が聞きてえのは六年前の甲斐巡査が死んだ時のことだ」 「!!」  話から察するとどうやらこの人は刑事さんらしい。あのお、と五虎退が話しに割って入った。ああ?と厳つい視線がこちらに向けられる。 「えっと、俺たちは祭りの観客なんですけどこの少年二人組は常連で……。甲斐さんが亡くなったことに不信感を抱いてて」 「一般人が捜査ごっこだぁ? 馬鹿にしてんのか」 「でも、祭りがきな臭いって言ってたんです」 「……。祭りが?」 「甲斐さんが死んだことにおそらく祭りのことも関係あると思うんです。今起きてる事件についてはよく知りませんが……」  言い募るたびに疑われている気がする。人狼ゲームみたいじゃないか。 「分かった。とりあえず、祭りについては別の刑事に担当を任せることにする」 「あ、はい……」 「それで奥さんよぉ、甲斐さんの死体を発見したときにムカデの死体はあったのか?」 「ねえ、私は主人をついこの前亡くしたばかりなのよ? 思いだしたくないんだけど」 「あぁ!?」 「ま、まあまあ」  思わず話に割って入ったところ「部外者は黙ってろ!」と刑事さんに怒鳴られた。口から悲鳴が漏れたと思ったら後ろの扉が突然開いた。扉のところで足をつっかけて後ろに倒れてしまいそうになる。しゅんっと風が切ったと思ったら五虎退が背伸びで俺の背中を受け止めていた。