探偵たちの夜想曲

 かかってきた電話に#名前2#はなぜか身震いを感じた。なにか嫌な予感がする。世祖の身に、何かーー…。 「何ぃ!? コナン君と世祖君が誘拐されたじゃと!? しかも殺人犯にか!?」 「!!?」 「よ、予備のメガネで追跡できるが……。って、#名前2#君!?」  カチャン、とシルビアのキーが手に収まった。世祖が誘拐犯を捕まえてないって事はきっと何かある。とりあえずは追いかけることが大事だ、とおおよそ#名前2#らしくない考え方で阿笠たちの止める手を振り切って外へ出た。 「#名前2#君?」 「あ、沖矢さん。すんません、忙しいんであとに!」  玄関で沖矢にぶつかったがそれも気にしないほど頭が動いていなかった。阿笠の車庫に入れさせてもらったシルビアに乗り込むと猛スピードで走り出した。ナビゲートシステムが動き始め、現在地を聞いてくる。 「指貫世祖の居場所を」  スマートフォンの音声アシスタントのようにパッと画面が変わって世祖の持つ発信機が赤く光って動いている。今、行くーーとアクセル全開にしようとした時に真横に黒のハーレーが止まった。仕方なく路肩につけるとハーレーも止まりヘルメットからよく見知った顔が出てくる。 「長谷か……」 「沖野さんから連絡だ。バーボンの動きを見たいから世祖に追いつくのは彼らが来た後で、だそうだ」 「はぁ? なんで俺の電話にかけてこないんだあの人は……」 「なんで、って…。お前がまたいつものクセでデータ通信をオフってるからだろう。全く……」  え、嘘…。と#名前2#がダッシュボードを見てみると確かにスマートフォンは機内モードになっている。 「ごめん…」 「全くだ。俺を顎で使うとは……。沖野さん、怒っていらしたぞ」 「なんであの人はいつも世祖のことを知ってるんだよ……」 「盗聴器がつけられてるんだから仕方ない。それじゃあ俺は行くからな」 「うん、ごめん長谷」  ハーレーはそのまま去っていってしまう。#名前2#はあーあ、と面倒になってガソリンスタンドに車をとめて洗車してもらうことにした。ヒマすぎる。世祖が何かやらかしていなければいいのだが。 そんな予想は運悪く当たることが多くて。#名前2#は追いついた時に血を流す世祖を目撃することとなった。  世祖が怪我しちゃったんだ!!とコナンが叫んでも#名前2#は慌てずに自分の布製ハンカチを破り止血するように血管を圧迫する。心臓より高く持つんだぞ、と言って腕を上げさせて世祖の体に異変がないかを確かめた。幸いにも銃弾はかすめただけだそうだし、世祖も#名前2#も幸か不幸かこれ以上にひどい怪我を自分で対処してきた経験がある。世祖はもう泣いたりしないだろう、と#名前2#は思っていたが顔を見るとそんなのが全く違うことがわかった。世祖はぼろぼろに泣いていた。 「うぇぇええ…。ふぇ、ぇええん…。ゔ、ぅぁあああ……」 「世祖、よく我慢してたな。もう終わったぞ」 「せ、い…うぇえん。いらなっ、っひぐ…、ない子っ…じゃぁない…ぅぅううぁ……。ぁか、ら……ゔぅ……おいて、かないでぇ。キライなんてぇ…うぅぅ、うそ、らもん…、。ぅぁあああん」 「分かってるよ。大丈夫、世祖のことを置いてなんかいかない」  誘拐される前日に2人は喧嘩した。言い換えると世祖の方が#名前2#のことを一方的に怒った。レポートを書いている時には#名前2#はいつも機嫌が悪くなるが、世祖の方もポアロで安室とのことがあって虫の居所が悪かった。世祖が一方的に怒ったのは話を聞いてくれない#名前2#への怒りだったが口からとめどめなく出てくるのはそれだけではなくなっていた。 「なんでせいがねらわれるの!!!」と叫んではクッションを投げつけ 「本丸にかえりたい!」と地団駄を踏み 「#名前2#キライ! キノのところにいきたい…」と玄関に走りよる。さすがに外には出せない、と#名前2#は裸足のままで道路に泣き倒れた世祖を拾い 「こんのすけに会いたいぃ…。うわぁああぁぁん。ふぇえ、ぇええん」と泣き崩れる世祖を#名前2#は無言であやしていた。  真正面から「キライ」と言われたのは実はこれが初めてであった。本丸にいた世祖は床に倒れてジタバタと暴れ回ったりするがキライと言うことは無かった。キライという言葉が誰に合うのか分からなかったせいかもしれない。とにかく、今回が初めてのことで#名前2#もショックを受けていた。  なのでその日は世祖が眠るまで#名前2#は世祖と一言も会話せずに動いていた。世祖に言われるままに動く姿は無表情でロボットのように見えた。次の日は絶対に謝ろう、と決めていたのに#名前2#はそんな機会もくれずに毛利探偵事務所に連れていく。  服の裾を掴んでしまった時、世祖は内心で振り払われたらどうしようと考えていた。#名前2#ならそれくらいしかねない。本丸での彼は刀剣男士たちにとても厳しかったから。ドキドキしていたら優しくはない手つきで服を外されて世祖は蘭の腕にしまわれた。バタンと消えた背中は話しかけるなと言っているようだった。  世祖がコナンについていったのは、自殺しそうな女性を助けたら#名前2#は自分を褒めてくれるかもしれないと思ったからだ。でも、それは失敗した。自殺は止められても、捜していた犯人がコナンを捕まえてしまったのだ! これでは折角自分が頑張った意味がない、と世祖はコナンを助けようとしたが犯人は拳銃を持っていた。素人がよく見もしないで人間を撃つものだから銃弾が上に浮いた。ここで自殺女に怪我をされたら困る、と主我的な思いで手を伸ばした。  銃弾が腕をかすめてカッと熱くなる。そのまま血が流れていく感覚がして、#名前2#にきっと怒られると思って体がぐわんぐわんとゆりうごいたとおもったら体はついには動かなくなった。止血するように手で押さえてなかったのは世祖が失敗したことに対して相当以上に悲観していたからであったが、そのせいで彼女は軽度の貧血状態になっていた。ノックでポアロにきた男、バーボンが車を無理矢理に止めた時大きく車体が揺れてシートベルトなどつけていない世祖の体はそのまま前の座席にぶつかって落ちてしまった。ホコリと汚れの臭いがする。加えてコナンと世祖が落とした野菜ジュースの臭いが悪い方向にブレンドされていた。ひゅー、と息が漏れる。失敗したと知ったら#名前2#は世祖のことを嫌うかもしれない。自分から嫌いと言った。無言になった。今度こそ愛想を尽かすかもしれない。それだけは。嫌だ。 「世祖、大丈夫か!?」  じわり、と涙が浮かんできた。ノックがいるとか、なんでFBIのあの男がいるんだとか、なんでFBIの妹がいるんだとか、哀とコナンと蘭ねーが世祖の血の話をしてるだとか、ドクターとおいさんが救急車の話してるだとかいろいろと世祖の頭を頭の中では分かっていたが心はもう#名前2#しか見ていなかった。 「う、うぅ……。ふぐぅうう、」  泣き出したらいけない、と分かってる。これより悲惨な怪我をしても世祖は泣きもせず我慢して傷口を縫える。ホッチキスでだって止められる。火で傷口を塞げる。でも、そんな怪我の痛みよりも#名前2#に捨てられるんじゃないかと思う心の方がいたい。  泣きながら喋ったからアホな#名前2#に伝わったかな。どうだろう。何か言ってくれた気がしたけどもう体は限界だった。眠ろう。英気を養ってからまた#名前2#に謝ろう。