容疑者は熱愛カップル

 ヨーコさんから連絡がきたと思ったら「あのゴシップは嘘だから!!」という弁明で始まった。普段ネットニュースも適当に見ている自分なのでスマホを確認しようとスマホを探した。電話をしてるんだから耳にあるじゃない、とヨーコさんに言われてようやく気づいた。お昼寝中の世祖をまたぎ机に向かった。ビッグ大阪の比護選手は前にサッカー教室でお会いしたぐらいだが顔を覚えてくれているらしかった。二人とも知り合いの自分にとにかくあの熱愛報道は嘘だと言ってほしいということか? それなら事務所から言う方が信ぴょう性が高いだろうと思ったがヨーコの言葉はまだ続いた。 「あのゴシップのこと比護さんかなり気にしてたみたいだから……。で、でね! 今日、時間があったらでいいんだけど……」 「はあ、レストランに俺も……」 「恩師へのプレゼントに先輩に字を書いてほしいんだけど……でも、レストランに普通に行ったらまた怪しまれるでしょう?」 「……ん? ていうか、ヨーコさん。そもそも携帯電話はどうしたんすか」 「あはっ、ちょっと充電切れしてて……。今は公衆電話からかけてるの、ってすぐに分かるわよね」 「着信きたのは初めてですけどね。えーっと、じゃあ俺と世祖もそのレストランに同行すればいいんですか」 「そう! よろしくね!」  レストランの場所と時間を聞いて#名前2#は準備を始めた。寝ている世祖をどうしようか考える。起こすと不機嫌になるが、レストランでの話がすぐ終わるかどうかも分からない。誰か世祖のそばについて、#名前2#がいないことを説明して理解させられるやつはいるだろうかと招集をかけると山姥切が手を挙げた。 「すまん、山姥切! よろしく頼む!」 「ああ、任せておけ」  ドレスコードはなさそうだったが、念のためセットアップでドレスカジュアルに装って急いだ。レストランで待ち合わせだ、と言うと「こっちだよ」と比護さんが手を振っていた。四人席なのはおそらく世祖のことも考えてだろうが、今日は#名前2#一人だった。ヨーコの向かいに座るとすぐに「今日は世祖ちゃんいないのね」と言われる。 「お昼寝してて起こすのも大変なので置いてきました」 「それ起きたら大変じゃないか?」 「一応友人を置いてきたので大丈夫だと」  #名前2#はそう言ってメニューを開きこれお願いします、と指差した。比護はあの報道にはびっくりしたよ、と笑った。つられて#名前2#もヨーコさんから電話なかったら本気にしましたよーと笑顔で地雷を踏む。比護の顔が笑顔のまま固まるのを見てヨーコは後で慰めてあげようと思いながら食事をすすめた。  レストランのオーナーでヨーコたちの先輩、飛鳥の話を聞きながらワインでも頼もうかと話していたらお客が入ってきた。見覚えのある髪型だ。そういえば毛利探偵はヨーコの大ファンだし、哀は比護さんのファンだ。そおっと見てみると向こうも気づいたらしくジェスチャーを送ってきた。ヨーコと比護の背中では見えないが#名前2#は焦りながらも返事をしようとする。しかし比護の方から話しかけてくるので変なこともできない。スマホはコートのポケットに入れたままでおそらく送信しているであろうメッセージを見ることもできない。冷汗をかきながら出てきたワインを飲み込んだ。  毛利探偵が席を立ったのと同時に自分もトイレへ行く。用を足して手を洗っているところで「お前、なんでヨーコちゃんと……」と切り出された。 「一身上の都合で? というか、誘われたからとしか」 「誘われたぁ?」 「まあ……」  毛利探偵は渋い顔をしていたけれどそれ以上は何も言わずにトイレから出ていった。何となしにもう一度手を洗いトイレを出た。お帰りなさいと笑いかけられ、席に着いた。店員さんたちに飛鳥さんについて聞いてみるがどうやら反応がよくないらしい。もう少し待っててね、と言われて世祖に連絡しますとスマホを取り出した。アプリを開くと異様なメッセージ数が溜まっている。毛利探偵、哀にコナンからも……。刀剣男士のグループの方にも「見るの遅くなったー」というメッセージがたまっていた。スクロールすると山姥切からも連絡が入っている。  世祖が起きた。  世祖は食事しないのか?  がんもを食べた。うまい。  おい、いつまで帰らないんだ。  スマホをちゃんと見ろ。  慌てて山姥切に電話を入れる。何だかメンタルが心配になってしまったのだ。比護さんたちはウェイターに呼ばれて倉庫の方へ行くというのでその席のまま電話をさせてもらった。電話に出た山姥切は少しだけ泣きそうな声だった。 「うお、山姥切? 大丈夫か?」 「ああ……」 「なんか泣きそうな声してるけど……」 「ん、レオン見てた」 「おま、ばっか! ばっかだろ、ずっと号泣するわそんなの!!」 「世祖のリクエストだ」  山姥切はとにかく俺にメッセージを送るだけ送って報告したつもりでいたらしい。世祖はテレビでじっと映画を見ているそうだ。今さっきウェイターにヨーコさんたち呼ばれたしすぐに帰れると思うんだけどー、と言っていたのがフラグだった。 「きゃあああ!!」  ヨーコの叫び声が聞こえてきたのだ。毛利探偵が一直線に向かう。俺の方は一度電話を切るぞ、と連絡してから三人の後ろに続いた。  どうやら殺されたのはオーナーの飛鳥さん、つまり今日会うことが目的だった彼が殺されてしまったらしい。ほへーと死体を見ていたら比護さんとヨーコさんに腕を掴まれた。今日は用事があって、スキャンダルにこれ以上ならないよう#名前2#くんを読んだんです!と叫んだのだ。 「……あ、はい」  俺はとにかく頷くしかできなかった。  お店のスタッフは今日のところ、ウェイトレスにウェイターにソムリエさんの三人だ。オーナーとは長い時間連絡が取れなかったらしく、どこにいるのかとバタバタしていたことを認めた。地下倉庫に行ったのはヨーコさんたちだけで俺は容疑者から外れることとなったが、事実確認のため俺も事情聴取を受けることになってしまった。  待ってる間が暇なので俺も話を聞くことにした。ヨーコさん、比護さんはウェイターさんに呼ばれて地下倉庫に行ったが飛鳥さんは見つからなかった。どこかにいるのかと歩いてみると倒れていた飛鳥さんを見つけたらしい。 「お二人が来くるときに#名前2#くんを呼んだそうですが……」 「は、はい。公衆電話で……。#名前2#くんの電話番号は暗記していたので」 「二人とも電話の所持はなかったですし、飛鳥さんの番号も分からないらしくてスタッフさんに色々と聞いてたのは確かです」 「比護さんは携帯をなくされたそうですが、どこでなくしたかは分かりますか?」 「よくあるのはお店に忘れることですけど……。あとはトイレに、ハンカチと一緒に出して忘れたりとか」  自分もトイレに忘れることはあるので理解はできるが黙っておいた。哀は比護さんをフォローするように「あるあるですよね!」と頷いていた。高木刑事が「では次はヨーコさん…」と呼ぶ。沖野さんだと体が反応するところだった。ちょうど電池切れだったと話すと哀は「ないわ、そんなこと!」と顔をいからせて断言した。嫉妬とはかくも恐ろしいものだ。ヨーコさんの発現には毛利探偵がフォローに入っていた。二人はそのまま「実は今日は……」と飛鳥さんの話をするところだったが、コナンの「あれれ~?」に遮られた。 「この毛布、小さな穴が空いてるよ。それに周りには赤黒いシミが……」  俺も確認させてもらうと確かに穴がある。それにこの臭いはワインのものだ。でもなんで毛布? 話の全貌がつかめていない俺に目暮警部は細かく説明してくれた。  オーナー、飛鳥さんの帰りが遅いのでソムリエ、ウェイトレス、ウェイターの三人で探していた。ウェイター、ソムリエは控室であるこのバックヤードに探しに来たが見つからなかった。ウェイトレスは地下倉庫に探しに行ったが見つからなかった。10分後、見る場所を変えて探しに行った。今度はトイレも含めて。今度はウェイトレスがバックヤードでオーナーが毛布にくるまって寝ているところを確認。さらに10分後、ソムリエはオーナーを起こしに行ったが見つからなかった。同じころ、ウェイターにメールが届きヨーコさんと比護さんを地下倉庫へ連れていけと命令された。その後の話は聞いた通りだ。  コナンは俺が事実確認できたとみて毛利探偵を眠らせた。トリックを演じることにしたのだ。ソムリエの人がニセモノだということには気づいていたが、まさか犯人だとは思わなかった。コナンの再現したトリックでは厚手の服と圧縮袋、それに毛布が使われていたらしい。圧縮袋で畳んだ服に穴を開けて膨らませ人が寝ているように見せかけたんだとか。 「#名前2#さんはどうしてここに?」 「呼ばれたから、としか……」 「スキャンダルについては聞かされてたんです……。歩いているときに小さな女の子が本当ですか?って聞いてきて。私はそれでレストランにそのまま行くのはまずいって思って、誰か違う人を一緒についてきてもらおうと思って#名前2#くんを……。携帯電話の番号覚えてて、すぐ来てくれそうなの彼だけだったので」 「#名前2#くんは沖野さんの従弟だそうですし、僕も知ってる人なのでスキャンダルを余計悪化させるよりはマシかと思って」 「俺は電話貰って急いで来たって感じです」  なんとか納得してくれたので俺はそのまま家に帰ることになったが、比護さんに腕を掴まれた。良かったら連絡先を交換してくれないかと言われて頷く。 「ありがとうな」 「いえいえ、また会うことがあったらよろしくお願いします」  そんな機会滅多にないだろうけど、と心の中で呟いてスマホを取り出す。また哀ににらまれることになった。  家に戻ると山姥切と世祖が俺の布団にくるまって寝ていた。世祖はまだ分かるが、山姥切は……おそらく、世祖を寝かしつけているところで一緒に寝てしまったということだろう。ベッド横に布団を敷いてシャワーを浴びに行った。髪の毛を洗い、体を洗い、とお湯を流していたら扉に誰か来た。といっても世祖が来るはずはない。山姥切だ。 「山姥切?」 「ん……すまない、寝ていた」 「いいさ、お疲れ様。お前、今日泊まっていくか?」 「ああ、そのつもりだった」  ちょっとした一言なのにこっちが慌ててしまう。布団、出してあるの使っていいからなと言うと「久々に雑魚寝でもしないか」と返す。 「世祖起こしてか? まあそれもいいかなあ」  山姥切は少しだけ笑って脱衣所を出ていった。風呂から上がり髪の毛を乾かす。入れ違いに山姥切も風呂に入っていった。世祖の様子を見に行くと目を覚ましてベッドの上でゆらゆらと顔をゆらしていた。世祖、と声をかけると俺に笑いかけてくる。抱き上げて畳の部屋へ連れていった。俺のパーカーをかぶせておき、布団を動かす。三人分用意したところで山姥切もやってきた。綺麗な金髪だなあとじっと見てしまう。山姥切はふっと顔を赤くさせて「な、なんだ」と言う。おかしい、極にしたあとは結構距離感も変わってきたと思うんだが。 「ま、いいや。ほら、世祖の横にいけよ」  山姥切はいそいそと世祖の隣に座り布団にもぐりこんだ。川の字になっているなあと思いながら「親子みたいだな」と笑うと山姥切は「ばぁーか!」と言って布団に頭まですっぽりとかぶってしまった。