木馬荘の火事
警部の部下が近寄って来た。簡単な聞き込みは終えたらしい。日記を読ませて黄色い人が怪しいという情報を共有できた。 容疑者の人たちを見ても誰が誰か分からない。名前に色が入っているわけでもない、やっていることも大工、院生、フリーターで色も関係ない。世祖の力を使えばすぐに解き明かすこともできるが#名前2#もいないためここは真面目に考えることにした。 「赤白黄色ですか」 「お花みたいだねー」 「黒いやつならいるんだけどなあ」 「黒い人?」 「ああ、あの色黒の男だよ! 着てる服も黒いじゃんかよ!」 「でも黒い服なら真壁さんもじゃないかな」 「顔の色なら眼鏡をかけたあの人ですよね」 「太ってる人は色白っていうより青白い顔だもん」 「とにかく、もう少し話を聞くしかねえな」 細井竜平は大工の頭領たちと飲み会に行っていた、と言う。アリバイがあるのかと思いきや、酔っぱらって公園に寝っ転がっていたため証明することはできないようだ。 「その顔の絆創膏は工事中でのケガですか?」 「あ? なんすか、このガキ」 「ま、いいから。答えて」 「仕事中に角材を頭にぶつけてね。まだ新米だからケガなんてしょっちゅうで」 「ちなみにあんたの好きな色とかは?」 「色っすか? 青が好きっすね、サーフィン好きなんで海の色だし」 次に沖矢昴である。彼はドライブしてきた、と言った。川べりの並木道を論文に煮詰まった頭の気分転換に行ったようだ。このアパートでも庭に水やりをしていたそうだ。沖矢昴としては似合うが中の人を考えると意外の一言だった。 「じゃあ好きな色は緑か?」 「……好きな色なら、黒ですかね。内心の汚いところまで隠してくれそうでしょう? まあ同じ理由で黒は嫌いな色でもありますけど」 次に真壁吟也さん。フリーターの彼は普段はどんな仕事についているのか聞いてみると日払いの派遣仕事をしているらしい。犯行時刻の夜二時には杯戸町で映画を見ていたという。彼もまた一人で見てきたらしい。 「本当はネット友達も来るはずだったんだけど、急遽来れなくなって」 「ネット友達?」 「デイトレードを趣味でやってるんだ、雀の涙ほどしか稼いでないけどね」 「お兄さんの派遣って土木関係?」 「え?」 「爪の間に土があるから」 「あ、ああ……。これはサバイバルゲームでついた泥だよ」 「じゃあ好きな色は迷彩服によく使われているネイビー…」 「ああ……ネイビーグリーンさ」 信濃はそっと首をひねった。#名前2#の迷彩服がかっこいいと言っていた時にはオリーブという名前がついていたような。世祖に確認しようとすると壁の方に興味を持ってしまっている。ぺとぺと触る手は石のささくれたところも気にしていないようだった。 「世祖!」 思わず鋭い声を信濃は出してしまった。世祖はそれに驚いて肩をゆらす。ゆれた足が後ろにずれたと思ったら石につまずいてしりもちをついてしまった。 「おい、大丈夫か嬢ちゃん!」 「??」 世祖は一瞬何が起きたのか分からないという顔を見せた。差し伸べられた手に捕まってようやく自分がこけたことに気づいた。 「擦りむいてるじゃねーか、ほら絆創膏」 世祖は伸ばした手がケガしていることにそれでようやく気づいた。絆創膏にはお礼を言う。消毒してからでないとまずい、と教わっている。哀と信濃が近寄って来た。大丈夫?と声をかけてもらうが世祖にはその考え方もよく分からなかった。 警部と部下の刑事は黄色い人探しを諦めようとしている。絶対にやめさせちゃいけない、と向かおうとしたら哀にしっかりと手を繋ぎ留められていた。 「貴方も私と信濃さんのところにいるのよ!」 「???」 「分からない、じゃないの!」 ぐいっと信濃の背に体を引っ張られた。信濃も笑って「世祖、ケガしたら#名前2#さんに怒られるよ」と言う。目の奥は笑っていなかった。警部たちはミニカーを見つけた話をしている。世祖はぽっけから黒こげのそれを取り出して信濃に渡した。 「これ、道路の方にも落ちてて」 「ん、そうだったのか。預からせてもらうよ」 証拠品にはならないだろう。火災保険でもどうなるか分からない。ハンカチで預かったそれを警部は部下に手渡した。 「ねえ哀ちゃん、これ下に何か書いてあるよ」 「え?」 世祖は今度は哀に連れていかれる。歩美が見せてくれた日記帳には江戸川という名前の下にクロシ、と書かれていた。 「クロシロくん!」 「え?」 「今さっき、病院に電話をかけた時母親が言ってたんです。明日はすごく頭のいい友達が家に来るって。それで、その子につけたあだ名がクロシロ君だって」 コナンの表情が変わった。どうやらもう犯人は分かったらしい。世祖はちょっと力を使ってみようかと思ったがやめた。どうせケガと一緒に怒られるのだ。コナンはわざとらしく説明を始めた。というより探偵らしくと言うべきか。 開人くんはミニカーに合わせて人をあだ名で呼んでいたこと。赤い車は消防車。水やりをする沖矢昴のこと。白い車は救急車。絆創膏を持ち歩いて助けてくれる細井竜平のこと。最後に残った黄色い車はブルドーザーやショベルカー。土をいじっていた真壁吟也のこと。まさか本当に赤い人が沖矢昴だとは思っていなかった。 「一件落着ってやつだね」 真壁という男はデイトレードで大金を作ったが大家に追及されて彼を気絶させた。やばい、と思った末に火事を起こしたというのだから手に負えない。あんまりな犯人だ。 世祖は信濃と手を繋いで家に帰った。この時間になればもう#名前2#も家に帰っていることだろう。 家に帰ってみると信濃が世祖の手に絆創膏をつけてはがれないようにテープで補強していた。 「どうしたんだ?」 声をかけてみると信濃がぎっと顔をつっぱらせてこっちに歩いてきた。名前を叫ばれて思わず直立する。パーカーのチャックを開けられたかと思ったら中に入ってまたチャックをしめる。 「……え?」 「疲れたからいいでしょ、これくらいー」 「いいけど……」 荷物置きたい、という#名前2#に世祖も近づいてきた。荷物をソファーに載せると自分は背中によじのぼる。 「……あー、まだよくわからないけどお疲れ様」 はぁー、とため息が二つ重なった。ぽんぽん、と頭をなでて話を聞くためにもどこかに座らせてくれと心の中で呟いた。