天空の難破船
ラウンジに戻ると世祖がスタッフと何かをしゃべっていた。#名前2#の方に気づくとサヨナラをしてこっちに駆け寄ってくる。「何話してたんだ?」と聞くと「ふねのこと」としか返ってこず。#名前2#は頭の上にはてなマークが沢山浮かび上がっていた。 「動くな!」 黒の警備隊のような格好で2人の男が入ってきた。どこかの強盗のような軍人のようなそんな格好だ。片方はメットとゴーグル、マスクをつけていたが、もう片方は素顔を晒していた。傷の入った厳つい顔。世祖には見覚えのある顔だった。 「アンプルは見つかったか?」 「ッ……赤いシャム猫……」 襟元につけたトランスシーバーで仲間と連絡をとりあうらしい。本物の赤いシャム猫とはえらい違いだな、と#名前2#は頭の片隅で考えていた。 全員、携帯電話を出してもらおう!と叫ばれてうぉっと頭が覚醒する。仲間が何人いるのかで#名前2#はどうしようか決めたかったが先に動かれては仕方ない。きちんと出すことにした。 「要求を聞こうか」と緊張した声が聞こえる。 「俺達はこのジイさんに恨みがあるんだ……」 赤いシャム猫捜査の際にパトロンがいる、と聞かされていたが次郎吉たちのことだったのか……。 ハイジャックになんで爆弾と細菌使ってるんだ、と思いながらも世祖と#名前2#は大人しく待っていることにした。どこかに勝機はあるはずだ。 ** コナンたちがラウンジにいないことがバレてしまった。今いる子どもは哀と世祖だけと気づくの遅いんじゃない?と言う事はなしに世祖は怯えた振りをして哀のもとに近寄る。 「哀」 「世祖…」 「スパイがいるから少しだけ待って」 そう言って探偵バッジを仕舞わせようとするが、スパイだった女性スタッフに取られてしまった。とっさにローキックで体勢を崩させようと思ったが今ここで動いて監視が厳しくなるのは危ない。と頭がまわり哀の前に躍り出た。 「返して、バッジ!」 叫んだ瞬間に平手打ちが容赦なく世祖の顔にあたった。 「世祖!」 「何するんじゃ…!?」 「今度妙なマネをしたら…殺すわよ」 「それはそれは。怖いねぇ」 先ほどぶつかったスタッフがうっそりと笑って#名前2#の横に座った。 「…青江か」 「やあ、#名前2#。大丈夫かい?」 「なんとかな。沖野さんに呼ばれたのか?」 「まあね。潜伏しなきゃいけなかったから今回はキツかったよ。僕は派手に戦う方が好きさ」 「なるほどね……」 先ほどの既視感はそうゆうことだったのか、と納得した。にっかり青江ならぬ、青江にかは何かと沖野に用事を言いつけられる立場であるが、実際の彼の仕事は潜伏よりも刀剣男士とのメッセンジャーという方が正しい。山伏のように山にこもる生活をする者や、石切丸のようにアナログな生活を貫くもののために彼は面倒な役目を買って出たのだ。 #名前2#に「これからどうするんだ」と聞かれて青江はにっかりと笑う。 「さすがにそれは言えないなあ。まあ、君たちの邪魔はしないから」 そしてコナンたちが捕まってしまった。切られた爆弾を見てリーダー格はチッと舌打ちをする。細菌があるんだから爆弾ぐらいどってことないだろうとは考えてないらしい。 世祖の頬をさすりながら事の展開を見守っていたら、リーダー格はコナンの首ねっこを掴みあげブゥンと空に投げ出してしまった。 「!?」 さらには男性スタッフまで飛び出すのだから訳がわからない。 「うやぁ、キッドだ」 「なんだ、気づいてなかったのかい?」 「なかたの?」 「うわぁ、なんか哀れな目で見られちゃったよ。ところで……あの細菌って、」 「ああ。ぜーんぶ偽物さ」 「おっけ」 爆弾に関しては青江がなんとかしてくれるそうなので、#名前2#たちはラットの方を探し出そうということになった。と、その時一発の銃弾が#名前2#の肩をかすめた。 「ぁにすんだ……」 「お前、その声……聞き覚えがあると思ったんだよ……。やっぱりかぁ……。お前が、シグマの手かぁ……」 ゆぅらり、とSPのあの強いと称した男が現れた。手はどこを…いや何を殴ったのか血まみれでポタポタと音をたてている。 「なんだ、お前は!!」 リーダー格の叫び声に青江と#名前2#、そしてSPが動いた。スパイのウェイトレスが頭を昏倒し、SPはリーダー格のライフルを奪ったと思ったらそのまま腹に撃ち込み、#名前2#が部下である2人を殴りそのまま気絶させた。 「キャアアアア!!!」 目の前でもろに人が撃たれて蘭や園子の叫び声が上がる。青江はその混乱に乗じてラウンジを出ていった。SPことラットは恍惚とした表情を浮かべて「いぃ……。いいよぉ、これは……」とライフルを振り回して机や壁に跡をつけていく。 「イル・ラット……」 「やぁ、シグマの手。いや……#名前1##名前2#って名前なんだっけ?」 「ああ、そうだよ」 「いひひ、俺を捕まえさせたアンタをどうにかこの手で殺してやりたくてさぁ……。目を潰して、耳でずーっとその声を探してたんだよ」 かしゃんとサングラスが外された。自分の指で潰された両目がひょこひょことまぶたを動かす。映画に出るゾンビよりも醜く、おぞましい姿だった。 「なぁ、#名前1#。あんた、妹を大事にしてるんだってなあ」 チャキリ、と軽い金属音がした。世祖の方を振り向くと、テレビ局のリポーターとカメラマンと名乗った2人が世祖に銃を向けていた。 「………」 「さあ、こっちに」 行かないで、と世祖の声が聞こえる。 「ごめん、世祖。俺、お前が大事なんだわ」 #名前2#は世祖を愛している。だからこそ色々と出来る。愛というもののために彼は出来ることを全力で挑み、全力で向き合おうとする。同じように世祖も#名前2#を愛していた。世祖は泣きじゃくりながら傷ついた#名前2#から目を逸らさないように見つめていた。自分のせいだ、と世祖はわかっていた。ラットを捕まえさせに行ったのは世祖なのだから。 「せい、そ。泣くな」 世祖のせいで自分の体がボロボロになったとしても#名前2#は声をかけることを辞めなかった。ラットがハンドガンで世祖を狙っていたとすれば#名前2#は躊躇なくその合間に入って後ろ手に世祖を銃弾の軌道からどかす。ラットはニィと笑うと#名前2#の下げられた頭に膝蹴りを食らわせた。それを避けることなどできず#名前2#はヘッドセットで返すことも出来ずにもろにぶつかった。 「ぐぁ、っ…!」 「ああ、子どもが……泣いている……」 かすれた声で心底嬉しそうにラットはつぶやいた。そして持っていたハンドガンで#名前2#の頭を強く叩いた。叩いた、というよりはもはや力強く叩きつけた。鼻血が出て、次は頭から血が流れてきた。額に新しい傷が生まれる。 「俺は……こんな傷じゃすまなかったのに……」 「……っはあ、ああ……」 お綺麗な顔してるのに、残念だなぁ。とラットは笑って#名前2#の首をつかみ壁に顔をひしゃげさせるかのように強くぶつけた。鼻血と額の血と口から溢れた血が壁にぐっちゃりとついてまるでどこかのアーティストがわざわざぶちまけたかのように派手にばらまかれた。ヒィ、と声が聞こえる。 「君みたいなやつがさ。1番嫌なんだよ」 ラットの言葉に#名前2#はがふり、と血を吐きながら笑って俺もだよと言う。 倒れたままの#名前2#の手を捻ったまま手錠が結ばれた。 「落ちろ。落ちろ、堕ちろォ……」 ぐわん、と体が浮あがる。つま先が床を離れたところで一気に頭から地面に叩きつけられた。衝撃は脳を突き抜けて体中に響き渡る。今日一番の痛みだった。 「ハハッ、これで終わりだ……」 「まって」 「あぁ?」 「私と…#名前2#さん、感染したの。喫煙室に連れていってよ。……ここにいるのは、危ないんでしょう?」 「蘭、ダメ…。蘭ッ…!!」 「……キャットA。こっちに来な」 #名前2#によって気絶させられていた男が腹を蹴られて無理矢理に起こされた。 「……喫煙室に、連れていくんだァ…。わかるよな?」 顔が近づけられ、今にも食べてしまいそうな歯が見える。口の中は真っ赤だった。 「りょ、了解」 「ま、待て……」 「うるさい」 鈍い音がしてリーダー格が倒れた。血しぶきが床にこぼれて消えていく。凄惨たる有様に誰もが目を伏せた。 「……こいつ、殺しちゃいけないやつだったかなぁ? 分かんないけど……まあ、いいか。顔が見えないから仕方ない。キャットA。そいつらを連れていったら後でこいつを海に捨ててよ」 「………」 「できないの?」 まだ熱を持ったライフルの先がキャットAと呼ばれた男に突きつけられた。男は涙目で了解と呟く。 「そう、ならいい」 こうして#名前2#はなんとか止めをさされずに喫煙室に向かうことになった。喫煙室に入り、#名前2#は倒れ込んだ。 「#名前2#さん!?」 「蘭ちゃん、…。だい、じょうぶ……。こいつは細菌じゃない……」 「え…?」 ゴフリと血が口からこぼれた。そのまま倒れることは出来ない、となんとか待っていたらしばらくしてコナンと変装を解いた青江が部屋に入ってきた。 「蘭姉ちゃん、大丈夫…?」 「コナンくん、私は大丈夫。これは細菌じゃないんでしょ…? それよりも#名前2#さんが…!」 「#名前2#!!」 「青江……」 青江が消毒液と針や糸などの応急手当のものを沢山持ち込んできた。傷が浅くなるようにラットとぶつかっていたので額や腕の傷には血止め薬を塗りこまれた。しみる、と泣きそうな#名前2#に青江は容赦がない。「泣いてもどうにもならないだろう」と笑顔で言う始末だ。 「#名前2#さん!? 大丈夫!?」 「コナン、あいつは…?」 「あいつ…?」 「ラットだ……」 「あいつなら平気さ。眠りの小五郎さんが気絶させたようだし。ラウンジの敵は殲滅した」 「青江……」 ラットには罪を滅ぼさなければいけない責務がある。人殺しはしてはいけない事だと分かっていても、彼はもうそこに快楽を見出している。異常犯罪者なのだ。 「俺の事はいいから……。はやく、世祖を……」 「世祖!? 世祖はどこにいるの?」 「たぶん、藤岡のところだ……」 コナンが走り去っていくのを見て、蘭も追いかけようとするが青江と#名前2#に止められた。 青江が「僕が追いかけよう」と言い残してそのまま出ていってしまう。蘭に肩を貸してもらい、#名前2#はなんとかラウンジにやってきた。生きのこった赤いシャム猫と名乗る強盗たちは手錠で手すりに捕まり、リーダー格の男もちゃんと生き残ったらしい。血まみれの服と火傷でふさがれた腹が見えた。良かったなあ、と笑うとピピ、と音がして#名前2#のインカムが反応した。 「世祖、どうかしたのか?」 「もう かぶく!!!!」 「! みんな、今から床が傾く! 各自手すりにつかまれ!! 子どもたちは大人が引き上げてやれ!」 ええっ!?と声があがるよりも前に#名前2#は机や椅子を端に寄せて中央の手すりに近寄れ!と声をかけた。犯人グループの服をあさりロープをつかむとバタフライナイフで切り取り「手すりと自分を結びつけな!」と回していく。#名前2#の腕を哀が結び、抱えたところでぐううぅぅんと床が傾いた。というよりも90度近く上を向いた。 「っぐ……ぅう、」 腕が引っ張られそうになりながらも哀を抱きしめたまま踏ん張っていると、自動操縦が正常に動き出して水平を保つようになった。 ようやく落ち着いた、と思ったら怪盗キッドが現れて「そういえば、盗むって言ってたんだった」と失礼なことを思い出した。ビッグジュエルがうんちゃらかんちゃら、と言っていたが#名前2#はもはや聞く気も失せてすべて聞き流し世祖と青江は大丈夫なのか、気が気でなかった。 キッドはどこから見ていたのか、#名前2#のポッケにチェーンでつながったナイフを取り出すと蘭のロープを切る。中森警部を最後にしてみなさんのロープを外してやってください、なんてかっこつけた言葉も一緒にして。 「ねぇ、#名前2#さん……」 「んー?」 「……ううん、なんでもない」 「? そうか」 青江って誰?とかラットっていう人とどうゆう関係なの?とか聞きたいことは色々あったが、コナンは1番はじめに「世祖、すごかったよ」と口から出そうになっていた。 ラットが本物の赤いシャム猫だと青江と名乗る男が教えてくれた。ラットには#名前2#と確執があり、そのせいで#名前2#が怪我をしたことや、それに怒った世祖がそもそもの原因である藤岡に何をしでかすか分からないということ。青江は話しながら青い顔をして「彼女はね……本当に容赦と言う言葉を知らないんだよ。忘れてるとか覚えてないとかじゃなくてね。存在してないんだよ、彼女の中に」と言った。 青江が1番心配していたのは#名前2#が世祖のその行動を諌めないか、ということだった。#名前2#に拒絶というものをされるのが世祖はいちばん怖いのだ、と。 飛行船の屋根に上ると、世祖が藤岡の上に乗り拳を振り下ろそうとしている場面にぶつかった。片方の手は藤岡の口に突っ込まれている。 「やばいなあ」 「え?」 「拳法の一種にね、あるんだよ。人を溺れさせる場所が。世祖がもし、そこをわざと当てているのだとしたら」 「させるかよ…!!」 明石大橋が目前に迫っている。世祖は藤岡しか目に入っておらず、橋には気づいていない。 カチャリ、とベルトをつけて橋にアドバルーン並に大きくなったサッカーボールがぶつかる。 「おやおや」 「青江さん!!」 「すまないね、僕はもう逃げないと」 警察、来ちゃったみたいだし。とつぶやいて青江はワイヤーガンで明石大橋の方に飛んでいく。キッドたちが使うのと同じ巻取り式のそれは世祖の視界にも確認されたらしく、ようやくコナンの存在に気づいた。 「コナン!」 「世祖、危ない…!」 口から手を抜いた世祖は藤岡から飛び降りて、コナンの方に近寄ってくる。気絶した藤岡はそのまま飛行船から落ちてしまった。「ああー」と残念そうな声をあげた世祖にコナンは末恐ろしさを感じる。#名前2#が傷つく度に彼女はどんどん、危うくなっていく。ストッパーがいないのだから当たり前と言ってもいい。#名前2#は世祖を守らなきゃ、と言っているが実際はそうじゃないのだ。世祖が社会的に生きられるように、ボーダーラインを守らせなきゃという言葉が本来は正しいのだ。 世祖と再会して抱きつく兄妹を見てコナンはこれからどうなるのか心配をおぼえた。