警察学校組と
「結婚かあ。羨ましいなあ」 ブライダルの広告を見ながら萩原さんがそんなことを言い出した。世祖がいなくなったので助手席に諸伏さんが座り後ろの方は広く2人で座っている。運転席側、#名前2#も窓から見える方に広告が貼られている。白いフリルのドレスを背景に文字が迫力のある大きさで描かれていた。面白がって萩原の恋人について聞いてみるとドスの効いた声で「はぁ?」と言われる。 「え、萩原さん魔法使いではないでしょう?」 流石にそのまんまの言葉を使うことは控えたが幽霊たちには伝わったようだ。ぶふっと助手席側の2人が吹き出した。諸伏さんに至っては笑いすぎてもはや頭を窓にごんとぶつけている。 「いや、魔法使いではないけどさ……。まあ、今でも俺の事好きなやついたら松田と一緒に旅してきてないよね」 「そりゃあコッチのセリフだ」 「まあ女性の方が吹っ切れるの早いですからね」 「ぐっ……そういう風に言われると腹立つな」 「残念だったなー、萩原」 「松田さんのは知ってますけど」 「なんで知ってるんだよ」 「いや、貴方達が死んだ後爆弾犯がまた爆弾設置したんですよ。んで、解体してきました」 「……」 「……」 車の中が静かになる。松田さん?とミラーで後ろを見ようとしても幽霊なので見えなかった。信号で止まったら確認しようと思ったらにょっきりと胸から手が生えた。文字通り萩原の手がすり抜けてきたのだ。 「だーかーらー! ちゃんとそういうの言えよ! なんで!? なんで言わないの!!?」 「え、いや、別にいいかなって」 「いいって何ーー!? #名前2#くん報連相って知ってる!!?」 「は、萩原! #名前2#くんがすごい顔してる」 「言っとくけど諸伏もだからな! 勝手に死んでさ! 伊達よりもひどいからなお前!」 「えーー、ごめん」 「松田!」 「分かってる」 にょっきり諸伏さんの方も手が生える。運転してないので諸伏さんは後ろを振り向くと手を抜き差ししはじめた。椅子を壁にしてなぜか2人で遊び始める。 「うわ、いい歳したオッサンがなんか遊んでる」 「萩原さんが言えたことじゃないです」 カーナビに教会と打ち込むと16件上がってきた。流石にこれを全部探すのはしんどい。こうなったら人海戦術だ。一旦、路駐してカバンからスマホを取り出す。 「#名前2#、お前…路駐下手だなー」 「幽霊に言われたくないっす」 「松田、運転うまかったよなー。諸伏はうますぎて運転されると寝た」 「あー、確かに。あんまり車内での記憶がねえわ」 「いや…ゼロの運転が結構荒いところあってさ。その反動?」 「安室さんは確かに運転荒っぽい…。あの人、シートベルトは締めても駐車場の入口のバーとか気にせず吹っ飛ばしましたからね」 「んんっ! ダメだ、想像できるのがまた辛い」 「あいつ、大学生にまで心配される運転かよ」 どうやらまた笑いのツボに入ったらしくやっぱり腹を抱えて笑っている。彼らがまだ生きていたなら三十路ぐらいにはなってるはずだが、こうして見ると男って変わらないなと思う。その1人もまた自分なので何も言わない。 刀剣男士の中で手が空いていて東京にいる男は至急、米花内の教会を確認してほしいということ。探しているのは伊達航という男とナタリーという恋人たち。日本人と外国人女性のカップルの幽霊を見かけたら連絡しろ、とグルチャに投稿した。 頼りにしていた陸奥は捕まらなかったが加州、安定が捕まった。太郎太刀、世祖の方も動けるという。意外なところで獅子王も動いてくれるとのことだった。 「獅子王、お前予定は?」 「へーきへーき! 4人組になったな、これで。4つごとにブロック分けするか」 米花の地図が送られてきた。教会のところには赤い三角印がついている。数を見ながら2本線を引いた。区画に番号をつけて「どこがいい?」ともう一度それを送信する。3番、二番と声が出てくるのを見て#名前2#は4番に行くことにした。 ネットで検索すると大きな教会も小さな教会も疎らに出てきてしまう。普段から教会に行かない人間にはもう地図を信じて向かうしかなかった。 「ここにはいなさそうだな」 「ですねー。あー、4つともハズレかー」 「他のグループはどうしたんだ?」 「えーっと、世祖の方もダメで加州たちも空振り。あとは獅子王なんすけど……」 「な、なあ…さっきから気になってたんだがその名前本名か?」 「あ、ああ、いや、ただのあだ名です。日本刀に合わせたあだ名」 「日本刀とか物騒なあだ名だな」 「酒のコードネームも結構微妙なラインですけどね」 俺の言葉に諸伏さんは「ははっ、確かにそうだな」と笑った。 「俺たちなんかウィスキーの3人でまとめられてたしなあ、今思うと見透かされてたのかも」 「降谷はバーボンなんだろ? 諸伏はスコッチ、あともう1人がー」 「FBIの人ですよ。ライっていうコードネームでね」 幽霊と話しているので一応携帯に話しかけているように見せてはいるがいかんせんこの無駄な動作も辛くなってきた。早くRINEが動かないかと待っていたら通知が1件入った。こいつらか?というメッセージと一緒にスリーショットの自撮りが送られてくる。 「合ってますか?」 「伊達ー!!」 「え、うわ、奥さん可愛い!」 「伊達老けたなー!」 三者三様の反応に#名前2#はスマホを奪い返すと「その人たちだ。俺の家に連れてこれるか?」と送る。OKとクマが文字を投げつけてくるスタンプが返ってきた。さらに了解しましたぁ!という安定のスタンプ、分かりましたという太郎太刀からのメッセージがきた。 「……こいつら、全員俺のうちに来るのか?」 刀剣男士を招き入れるのはいつものことだとしても、珍しく大人数である。#名前2#は心配になったがうち11人のうち6人は幽霊だからと諦めて車に乗った。半分も幽霊なのだからワンチャンあるな、と。 家に着くと加州、安定はいたが獅子王たちはまだいなかった。 「安定、不動たちは?」 「今日は見に行く日だよー。後で行くつもり」 「了解。しかし、太郎たちまで来るとなると部屋が狭いなあ」 「#名前2#さんのそれギャグ?」 「え? あ、あー、ギャグじゃない。ただの偶然」 「ギャグだとしたらくっそ寒いなって思った」 「なあなあ#名前2#くん、この人たちも俺の事が見えるのか」 「あ、後ろにいた人たち幽霊だったのか。安定って書いてやすさだって読みます。フリーターでーす」 「俺は加州。#名前2#の同級生」 「えーっとすみません……。礼儀作法は知ってるヤツらなんで……。こっちから萩原さん、松田さん、諸伏さんね」 「諸伏さんって僕見た事あるかも。組織にいた?」 「あ、ああ。君も#名前2#くんのように組織にいたのか?」 「ううん。ちょこっと使いっ走りしたことあるだけ。そっかー、幽霊ってことはこの人がスコッチさん?」 「そうそう」 「萩原さんと松田さんはバクショだよね」 「ばくしょって何だい?」 「あー、爆弾処理班の略です。漢字打つの面倒だよねって」 ふーん、とスマホをのぞき込んだ萩原の横で松田は何となくイライラしていた。年下の男共にナメられた態度を取られていることにも、それに怒らない萩原たちにもイライラしていた。#名前2#も#名前2#だ。注意する訳でもなく、かと言って自分は緩くもなく。曖昧すぎる。 インターホンが鳴り玄関に向かうと獅子王、世祖、そして幽霊のお二人が入ってきた。写真で見るよりも伊達という人の体は大きく、ナタリーさんも背が高かった。一緒にいるのが獅子王と世祖だから相対的にそう見えてしまうのかもしれない。 「初めまして、だよな。伊達航だ。俺とナタリーのこと探してたんだって?」 「#名前1##名前2#です。俺、というよりは貴方のご友人ですけど」 リビングに案内すると幽霊の男達はもう滅茶苦茶だった。何を言っているのか分からないくらいに早口でまくしたて、なんで死んだんだとかどこにいたんだとか、そういったことでお互いを責めている。置いてけぼりになった人間組はテーブルの方に移動した。麦茶と適当に買い置きしているお菓子を皿に出す。ついでに賞味期限がギリギリのチップスも出した。 「ほいよー」 「いただきます」 ざらざらと出されたチップスに手が伸びる。パリパリと食べながら加州が太郎太刀は?と聞く。 「おきょー」 「おきょー?」 「今日は読経の日だからって世祖をここに連れてきたらすぐに戻ってった」 「え、あいつ車もってないよな? どうやってここまで」 「チャリ」 「チャリ!?」 「ちゃんと子供乗せられるやつだから安心していいぞ」 「あっそう……。へえー、チャリか」 「いつも置きチャリしてる人たちがいたから注意しに行ったら1台くれたんだってよ」 「太郎太刀ってそういう人徳あるもんな。分かる」 「あのう、シシオーくん。この人は…?」 「家主の#名前2#で、世祖の兄ちゃん」 「初めましてー」 「赤いマニキュアのが加州。えーっと普通の名前は…」 「中田清光だよ。沖田くんの苗字からもらったんだー」 「そうだったな! それで、横に座ってポテチめっちゃ食ってるのが安定だ。山都安定」 「いえーい、山に都が安定して建てられたヤスサダでーす」 「ナタリー来間です。伊達くんとはお付き合いをしていて…」 「えーっとお二人にはご相談したいことがあったんですけどちょっと旦那の方が喧嘩収まらないので…すみません、ちょっと失礼」 そう言うと#名前2#は世祖から受け取った肩こり解消の首ストラップを数本手に持った。効果はないのかあるのか分からないが試しに、と数社から買っていたのだ。 すっと4人の喧嘩に割り込むと2人1組になるようにその手を縛った。はい終わりです、と磁石付きのチェーンでそのストラップも繋げる。4人片手が集まりごった返す姿はまるでどこかの国の捕虜である。あまりいい光景ではない。 「自己紹介のお時間ですよ、皆様」 #名前2#はそう言ってナタリーを前に連れてきた。可愛らしい女性である。同期の男が自分達の知らぬ間に(死んでいたので仕方ないのだが)こんな綺麗な女性とお付き合いしてしかも結婚も予定していたのかと3人はほうけたように口を開けた。 「な、ナタリー来間です。えっと、アメリカと日本のハーフで、日本語喋れます。……伊達くん、とお付き合いをしています」 現在時制の言葉に何だか見ているこっちも心が暖かくなってきた。後ろでお菓子を食べている刀剣男士と世祖はまあ置いておこう。感性が人とズレているのだ。