風見裕也と
歌を歌うのはかなり好きなほうだ。クラブミュージックも好きだし、昔の……それこそビートルズとかクイーンとかも好きだ。 夜中だと安心して歌を歌いながら歩いたりする。深夜に近い時間だとそれこそ鼻歌ではなくもはや口ずさみながら歩いている。 今日は大学のクズと有名な先生に会いに行ったのでストレスがあいまって歌を大声で歌いたかった。カラオケに行けよという話だが、カラオケに行くと世祖が面倒なので行かない。頭の中に浮かんだのはラジオスターの悲劇だった。 洋楽の方の歌詞で歌いながら歩いていたら前から「#名前1#くん?」と声をかけられた。誰か知らないスーツの男の人が立っていた。 「こんばんわー」 疲れた頭だったし、知らない人だというのも気にしていなかった。とりあえず話しかけられたから挨拶しようという考えだった。 「こんな夜中にどうしたんだい」 「いやあー、ちょっと夜泣きの女の子に会いに行きます」 世祖は今日は病院で過ごす予定だったが、夜泣きしたという連絡を受けたのだ。そんなわけで俺はぽろぽろと歩いている。 世祖が泣き始めると他の患者さんに迷惑がかかるので早くに行かねばとは思っている。思ってるが行動がともなってない。 「そうなのか……」 男の人は顎に手を当てて何か考えている。少しの間があって「もう遅いことだし、病院まで送ろう」と言い出した。 「いいっすよ~。どうせすぐだし」 「君は未成年だろう。大人のいうことを聞いておきなさい」 「はーい」 仕方なく一緒に行くことにした。未成年じゃないっすよと言わなかったのはなぜか。もう疲れてた頭はキマってて働いてなかったのだ。 おじさん……といったらショックを受けたので名前を教えて貰った。田上と名乗られたが、偽名だろうなと勘づいた。 俺の方は名前を知られているのでこっちから探りを入れてみた。新手の詐欺だとしたらこのまま警察署の方に向かわなければ。 「俺の知り合いに田上なんていたかな。すいません、ちょっと覚えてなくて」 「あ? ああ、いや、覚えてなくて当然だよ」 この言葉、かなり強烈に覚えている。こーゆーとき、縁戚の人なんかは「昔に一度会ったきりだからなあ」と来るのだがストーカーやサイコパス的な人なんかは「会ったことないから」と言われる。 この人はどっちだと身構えていたら「随分と昔に君を病院で案内したんだ」ときた。 「病院、すか」 「デパートでの人質爆弾事件を解決したのは君だったろう?」 言われて思い出した。そうか、この人はあの警察病院にいた人だったのか。いや、顔や名前に覚えがあるわけじゃないが口ぶりから嘘ではなさそうだった。 「それで名前を知っていたんだ。すまなかったね、突然話しかけてしまって」 「いやいや」 刀剣男士といるといつも女性から突然話しかけられますよなんて言えずにその後はただ話をして終わった。病院に着いてお礼を言って世祖のいる病室へエレベーターに乗った。 後からよくよく考えてみたが、あの時病院にいたとあっては薬を飲んでいない世祖のことを覚えているかもしれないのか。うーんと思いながら世祖のことを抱き上げる。夜泣きの原因は分からなかったが、きっと悪い夢を見たのだろう。 「こんのすけがいればなあ」 そんなことを思いながら本丸を思い出して歌を歌った。体の中の暖かな体温を感じながらその日はずっと起きたままだった。 風見は昔、少女を見たことがある。セイソと呼ばれている少女だった。爆弾処理班が奇跡的に事件を早期発見解決したとあって警察内では盛り上がっていた。新人だった自分はその少女の事情聴取に同行した。 可愛らしい少女だった。障害者用の学校に通う中学生。一目見ただけでは分からなかったが障害者手帳にはきちんと病院の診断が書かれていた。 「#名前2#は?」 少女は最初、何もしゃべらなかった。口を開けばいつも#名前2#という男を呼ぶ。先輩刑事から話は聞かされていた。#名前1##名前2#という彼女の義理の兄。テロリストの一味とおぼしき女性を倒した時に重傷を負い警察病院に入院している。 彼に実際に会ったことはない。捜査書類で写真を見た程度だ。頭に残るほどではなかった。それが突如掘り起こされたのは公安に配属されて降谷という上司の元についてからだった。 降谷にキーパーソンとして挙げられた名前の中に指貫世祖と#名前1##名前2#という名前があった。名前を聞かされた瞬間に湧き上がったあの事件。降谷は覚えてないのだろうか?と思ったが、彼は潜入捜査をしていた時期だったかもしれないと考え直した。潜入捜査では警察と関係があると匂わせてはいけない。徹底的に気をつけていなければ殺されるところに潜入捜査していた。 風見はまずあの奇跡の事件について調べ始めたが捜査資料は一向に埒が明かなかった。誰かが徹底的に隠してしまったようなのだ。警察は圧倒的ピラミッド構造だ。上層部からの圧力に下部は耐えられない。資料請求のためあの手この手を尽くしたが何の成果も得られなかった。 その日、彼を見つけたのは偶然だった。歌を歌いながら前らか歩いてくる。ジャージを着てふらふらと。ラジオスターの悲劇だった。時代の風刺曲だが、風見はまるで自分のことを歌われているように感じた。 「#名前1#くん?」 声をかけたのは自分でも驚きだった。だが話しかけてしまっては後戻りもできない。とにかく話をし続けるしかなかった。病院にいるセイソという少女は聞けば聞くほど昔のあの事件を思い出させる。何度確認しようとしたか分からない。口を開いてはつむぐ。足を踏み入れすぎては失敗する。潜入捜査における基本だ。今は昔とは違う。自分の命を守れないやつが大事な情報を持って帰ることなどできない。 病院まで送り届けたあとタクシーを呼んだ。いつもなら駅まで歩いた後電車に乗って帰るのだが既に終電を逃してしまった。タクシーを待って乗り場にいたらキキッとオレンジ色の車が停まった。後部座席の窓が開かれる。 「風見裕也、だね?」 ぞわりと鳥肌が立つ。髪の毛をオールバックにしたこの男はどこかで見覚えがあるのに思い出せなかった。にこにこと笑っているのに笑いを感じさせない気迫は上司よりも凄みがある。 「タクシーの代わりに乗りなさい。話をしようか」 公安の教えを思い出す。勇気と無謀は違うこと。可愛らしいオレンジの車に鎖のないライオンと入ることは勇気と言えるのだろうか。風見は唾を飲み込み乗り込むことを決めた。 「私は沖野。政府のものだ」 「……」 「生憎と名前を明かせなくてね。名刺には名字しか載せていないんだ」 「風見裕也と言います」 名刺を交換すると沖野の横に政府xxxxxxxと文字化けした記号が書かれていた。噂に聞いていたが実際にこの世界を支配している男がいたらしい。何の力か知らないが「何かによってこの世界を脅している」という噂がどこからともなく囁かれていた。 「その顔は僕を知っているみたいだね」 慌てて顔を隠すがもう遅い。沖野はニコニコとしたまま「話が早いよ」と続ける。 「君の上司にも話が行くと思うけどね。指貫世祖と#名前1##名前2#に手を出すな」 「……ッ」 「言っておくがね、これは外圧じゃない。命令だよ。時の政府からの」 おぞましさから風見は沖野の顔が見れなかった。キキッといつの間にか車が停められた。時間が急速に過ぎたように感じられる。自分の家がなぜ知られているのかという疑問は頭から外れていた。 「おやすみなさい」 沖野からかけられた言葉に頭を下げて家の中に入る。もうなにか考える気力を失ってしまった。 風見さんのキャリアは分からないので適当。 沖野さんの力は色んなところに及びます。22xx年の政府パワーです。