刀剣男士に嫉妬
【毛利探偵事務所の場合】 小五郎の元に友人の沖野から依頼人の紹介をするというメールが届いた。昔に依頼を受けた三条の人間らしいが、今回はおっとりした彼ではなくコクーンで会った三条宗近の方だった。 三条宗近については小五郎は三条グループの偉い人というイメージしかない。そんな人が自分に依頼とは、どうせペット探しだとか簡単な類だろうと高を括っていた。メールを確認してみると、小五郎の予想は全くの大ハズレだった。依頼内容とは、迷子を探すことだったのだ。 いつものように蘭とコナンがついてくるのは百歩譲って分かる。だが珍しいことに今日は世祖と#名前2#も来るらしかった。依頼人からの指示だから仕方ないが、小五郎にはその理由が全く分からなかった。 「なんでお前らも呼ばれたんだろうな」 「さー?」 「運転手さん、あんたは何か知ってんのか?」 「……」 三条の運転手は何も言わずに車を操作している。下手なことは話せないと思い、そこで話を切り上げた。視界は真っ暗なガラスでどこを走ってるのかは分からない。信用されてない――というよりは、これがいつものやり方なのだろう。#名前2#も世祖もこれといったリアクションはなかった。 本社の高層ビルか何かに行くのかと思いきや、それなりの大きさの日本家屋にやってきた。かなり大きいが想像したものよりは小さい。口に出ていたそれに#名前2#は笑って教えてくれた。ここは三条にとってはよく使う家の一つでしかなかった。本当の家は教えられないということらしい。あんなガラスの車でか?と思ったが、#名前2#曰くあれも依頼人からの指示らしかった。 客室は奥の方の畳の部屋だった。通された中には既に依頼人の三条宗近がいた。 「やあやあ、よくぞいらっしゃいました」 「三条さん」 「#名前2#たちも連れて来て下さりありがとうございます」 三条はニコニコと笑っている。その笑顔が小五郎には沖野とダブって見えた。#名前2#と世祖は部屋に入ると畳のヘリを踏まないようにして三条の隣に座る。 「#名前2#さんはそっちなんですか?」 「説明役って感じかな」 社長相手はいつもなら秘書が説明することの方が多いが三条は1人だけここに座っていた。世祖と#名前2#が彼にとっての秘書扱いらしい。 「あのお、依頼とは……?」 「人を探してほしいのです」 「人を?」 「はい」 「毛利探偵、ようするにコイツが迷子なんすよ」 #名前2#はそう言ってファイルを差し出した。履歴書のコピーらしい。学歴や電話番号などは消されて顔写真と名前だけ書かれている。 「三条融(とおる)……」 「ああ」 「俺たちは岩融って呼んでた」 「岩融?」 「あだ名っすよ。刀剣の名前に合わせたあだ名」 #名前2#はニコニコと岩融という男の話をした。コナンも刀剣の名前と聞いてピンときた。 「弁慶の薙刀でしょ?」 「そういうこと」 #名前2#は笑顔のままあだ名の説明を続けている。三条宗近は天下五剣の三日月宗近から三日月と呼んでいるらしい。確かにその美貌は天下五剣に相応しいとも思えた。外国人のようだがこれでも日本人の血が7/8入ってるらしい。 「岩融だけど、迷子になって帰ってこれないんだ。助けてもらえないかな」 「それはいいがよぉ」 小五郎が口を濁した。いい歳をした男が迷子なら何らかの手段を使って帰ってこられるとおもうのに彼が依頼する理由が分からなかったのだ。コナンの視線も鋭いものに変わっている。どうやら裏の意図に早くも気づいたらしい。 「あはは、岩融は大体何かやらかすからなあ。今回もきっとどこかで事件に巻き込まれてるかもしれないから毛利さんにお願いしたいんですよ」 「ああ? 何……ですかそりゃあ」 敬語を使うか使わないかで迷って結局依頼人のように使うことにした。#名前2#は笑いながらいいですよいつも通りでと言っている。 「どこかで容疑者になってるかもしれないから、毛利さんに会うことがあったら帰ってくるよう伝えてほしいんです」 「………。そりゃあ捜索願出した方がいいんじゃ?」 「警察には世話になりたくないものでな」 まるで犯罪者のようなセリフだったが小五郎はあえて何も言わず分かりましたと頷いた。 小五郎たちはすぐに岩融と呼ばれていた彼に会うことになった。行きつけのレンタルカーの店で見つけてしまった。自動販売機よりも大きな身長で、自分たちより顔がひとつ上にある。すぐに「あ、写真の男の人だ」とわかった。 「三条融さん、ですな?」 「ああ? そうだが、そちらは――?」 「私は毛利小五郎と言います。宗近さんからの依頼で貴方を探していたんですよ……」 融――岩融はちょいと首をかしげてから「おお、俺を探してたのか」と納得したような顔になった。そして「こそばゆいから岩融と呼んでくれ」とも言った。 「岩融さん、ですか」 「ああ。そう呼ばれないと自分に呼ばれている感覚がしないのでな」 「あ、ああ、はい、分かりました。ところで、岩融さんはそんなに方向音痴なんですか?」 「いやいや、そういう訳では無いがな」 「岩融さん、もしかして何か事件に巻き込まれてるの?」 コナンの鋭い言葉に岩融はまた首を振る。 「なに、ちょっとした所用だ。ある家に気になることがあってな」 懐から取り出した招待状は小五郎にも覚えがあるものだった。交通事故で子どもたちを亡くしたチャリティーショーの前段階、ゲストを集めたパーティーである。 「もしかして、蘇芳紅子さんのパーティーですか?」 「ああ」 「それなら私達も行くところですよ」 「……」 「何か気がかりがあるならあたしが解決しますから。三条の家に帰りませんか」 岩融はだはっと息を吐いて「仕方ない。毛利探偵たちに依頼をお願いする」と言うのだった。 岩融は運転がうまかった。普段から車の運転はしているのか、初めての車でもすぐに半クラを確認してスムーズにこなしてみせた。助手席に小五郎、後部座席に蘭とコナンが座る。蘭にとっては久々の後部座席だった。 「運転、お上手なんですね」 「普段から乗っているからなあ」 「交通安全のシンボルにピッタシですなあ」 「がは、ご冗談を」 「ねえ、おじさん。蘇芳紅子さんって昔は有名な歌手だったんでしょ?」 「ああ。昔は東洋のカナリアなんて呼ばれた大スターだったんだ。。最近じゃあ紅プロモーションで芸能プロの社長業が忙しくてステージに出ることはなくなったがな」 「!!? あれは何だ!?」 カーブの先に突然現れた倒木に急ブレーキをかける。ハンドルを無理矢理に切って反対車線に逃げた。シートベルトで体がまもられたが小五郎の方はでん、と窓に頭をぶつけてしまった。 「だ、大丈夫か毛利探偵」 「だいじょうぶれす……」 「僕ちょっと木を見てくる!」 小五郎は舌をかんでしまったのと、頭にたんこぶができた以外は問題なさそうだった。あとで市役所に連絡して木を運んでもらおうと話していたらコナンが紙を持ってきた。 「これ、貼りついてたよ」 「……。すおうべにこのチャリティーに協力するな 後悔するゾ 呪いの仮面の使者」 「よくある脅迫文だな。三条にも来る」 「でも、岩融さんの依頼には関係してるんじゃない?」 コナンの不敵な笑みに岩融も笑って「そうかもしれんが、そうじゃないかもしれんぞ坊主」 「さあ、先に進もうではないか」 カーナビに打ち込んだ住所を目指し右へ左へ。着いたところは大きな西洋風の屋敷だった。左右対称の面白い形をしている。そしてなぜか玄関が2つあった。 「すごいお屋敷……」 「ほんとにな…」 「あ、あそこで写真撮ってるの…。写真家の片桐正紀だ」 「世界中を旅してるっていう、あの? すごい。初めて見た」 向こうもこちらに気づいて会釈する。コナンたちは頭を下げたが岩融は手を軽くあげるだけだった。 さらに後ろから車が到着する音がした。野球選手の松平登選手だ。小五郎が驚いた声をあげるが向こうも小五郎を見て驚いた顔をした。眠りの小五郎もかなり有名になったのか、とコナンは誇らしい気持ちだった。写真家の片桐も近寄ってきて「あなた方も来週のゲストですか?」と聞く。 「はい」 「俺は社長の代理だ。今回のパーティーで返事を決めろと言われている」 「ああ、やはり岩融さんでしたか。社長はお元気で?」 「ピンピンしている。そちらも困ったことはないか?」 「いいえ、そんなことは。いつもお世話になっています」 コナンが岩融に話しかける前に車の音がした。タクシーが帰っていく音で、コートを着た女性が頭を下げている。こちらに振り向いた顔はテレビでよく見かける顔だった。 「うほぉ! 超美人!!」 「あの人、占い師の長良ハルカさんだ!」 「ええ!? あのテレビや雑誌で超人気のタロット占い師の!? 僕、あの人の占いにいつもお世話になってるんだ。ラッキーカラーとか」 「……この御屋敷。何か、不吉な影を感じます」 不吉な、陰? 岩融の方を見ると満足げに笑っている。「さあ、外は寒い。中に入りましょう」と案内する姿はゲストというよりも屋敷の人間の様だった。怪しい。コナンが疑問に思うのも仕方なかった。 三条のおっとりした人=石切丸です。